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16、反省会

16 反省会


「というわけで、なんとかガルムは倒したんだ」

「そう。わかった」


 案外、ミナモは冷静に話を聞いてくれた。


 場所は移して、協会の隣にある宿屋の一室。俺の部屋。

 俺は椅子に座り、ミナモはベッドに腰掛け、その唯一のベッドには気絶したセイカが寝ている。さすがにあの場に放置するわけにはいかなかったので、ミナモが引きずってきたのだ。

 しかし、俺の部屋のベッドに異性が……といってもセイカじゃなあ。残念な体型と性格のせいであまり女として意識できない。

 正直、そういう意味ではベッドに腰掛けているミナモに対しての方が緊張する。


 いや、そんな事を考えている場合じゃないか。

 冷静に話を聞いてくれたが、別に機嫌がいいとは限らないのだ。

 どうして俺がミナモの機嫌を取らねばならないんだ、と思わなくもないが、色々と知識の足りない俺にはミナモという仲間は欠かせない。少なくとも独り立ちできると確信して、受けた恩を返すまでは。

 なら、必要なコミュニケーションは取れなくてはならない。


「心配させて悪かったな」


 緑の変異種という規格外の相手が出た後に、のんびりと樹海でお話しするのは危険すぎるので戻ってきたのだ。

 現場はミナモが呼んできた応援の戦士たちが調査しているようだ。続々と、というには断続的にやってきた戦士団の姿を思い出す。

 考えてみれば樹海のルール上、入れるのは五分ごと。

 ミナモが後続を置き去りにしたのも理解できる。人数が集まるのを待っていたら、時間稼ぎしている俺たちが死んでしまうと思ったのだろう。


 応援を呼ぶという義務は果たし、命を賭けてでも仲間を助けようと駆けつければ、その二人は仲良しにじゃれ合っている(ミナモ視点)のだ。そりゃ、怒る。

 とりあえず、危機は去ったと先に結論を伝えた段階で、俺はミナモの手から(物理的に)解放された。


「無事なら、いい」


 いいとは言うが、どことなく雰囲気が重い。

 いや、一日程度の付き合いで何がわかるかというものだが、表情も変化がないのでわからないのだが、まあ、そんな気がする。


「戦ったのはまずかったか?」

「ううん。戦士なら、戦うのは当然」

「自分で倒したかったとかか?」

「あたしの神具じゃ倒せない」

「もしかして、セイカに嫉妬した、とか?」

「?」


 やめて、キョトンとした顔しないで!

 俺だって違うって思ってるよ。言ってみたかっただけだよ。今は言わなきゃよかったと思ってるよ。


 俺の独断専行でもない。

 戦士の功名心でもない。

 ラブコメ展開的な事情は一切ない。

 じゃあ、ミナモは何を気にしている?


 俺が考えているとミナモがポツリとこぼした。


「戦士になったばかりのソウタに無茶をさせて、あたしは何もしてない」


 ああ、先輩としての矜持だったか。

 思えばミナモの組に入ると同意した時に嬉しそうにしていた。樹海の移動中も、魔物との戦闘中も、こちらの様子を見ていてくれていた。

 応援を呼びに行かなくてはならない時などかなりの葛藤していた。

 責任感の強い奴だ。


「気にするな。作戦を考えたのも、勝手に戦ったのも、全部俺だからな」

「でも」

「組のリーダーなら逆に叱らないといけないんじゃねえか?」

「そう?」

「まあ、俺は叱られたくねえからやめてくれ」

「どっち?」

「つまり、俺も気にしないからミナモも気にするな。そうすれば世界は平和だという話だ」


 主に俺の世界がな。


 ガルムを倒しにいったのはわけがある。

 最大の理由が俺の所有する(経緯は問わない)神器の存在を明るみに出さないため。

 加えてウルフを呼ばれた事でセイカの手が塞がり、俺が単独でガルムと戦う展開になったためだ。

 俺が緑のガルムと戦うには最低限でも『全ステータスブースト』が必要だったが、あのスキルは10秒でSPを1消費する。つまり、最大で2000秒の制限時間があった。それも他のスキルを使わなければという前提の話。

 攻撃に全振りして最短時間で決めなければ、とてもではないが応援が来るまでもたなかっただろう。


 その辺りを説明すると、俺の神器についてまでつまびらかにすることになる。

 今のところ、ミナモは強力な妖精付きの神具としか思っていないが、正体が神殿に納められていた神器だったと知ればどうなるかわからない。


 だから、誤魔化そうと思ったのだが、ミナモはまだ納得できないようだ。

 どことなく視線が下がっている。


 いや、どの道これは理屈ではないのか。

 ミナモの持つ先輩としての在り方と、現状の話なのだ。

 俺としてもそれは悪くない。唯一の仲間であるミナモがそれだけ俺を気にかけてくれているというのはありがたい。現状、俺には信用できる存在がいないのだから。


「まあ、俺も失敗したし、ミナモも失敗したという事だろう。お互いに次はもっとうまくやろう」

「……組、続けてくれる?」


 だから、その上目遣いはやめてくれ。

 どうも俺はこの角度の攻撃に弱い気がするぞ。初めて気づいたよ、これ。今まで誰も目を合わせてくれなかったからね!


「もちろんだ。これからも頼む」

「ありがと。次はもっとちゃんと先輩する」

「あんな大物は勘弁してほしいがな」


 ……そうだ。

 今回は遭遇戦になって避けられなかったから最も効率的だと思える戦い方をしたが、俺の目的は当面の生活を安定させる事だ。

 別に戦士として大成する予定はない。


「ミナモは、ああいう大物と戦いたいのか?」

「……いつかは。でも、まだ早い。無理して、焦って、失敗するのはダメ」


 その台詞に別の意図を感じてしまうのは俺が思春期だからか? 意識しすぎなのか? しすぎなんだろうな。ちくしょう。


 しかし、ミナモの判断はありがたい。

 現状、ミナモと組を解除しても一人でやって行けるか、といえばノー。

 読み書きも不安。常識にも疎い。魔物との戦いも本当に初期の初期。やはり、協力者は必須なのだ。

 それでも、どことなく戦闘マニアというか、戦士という事にプライドを持っているミナモが大物狙いだというなら、この関係について考えなくてはならなかった。


 安心したところで確認しなくてはならない事がふたつ。


「ああいうのがいきなり現れるものなのか?」


 あんなのが頻繁に現れるというなら今後、戦士としての活動も考えものだ。

 いくらウルフやワーウルフ相手ならチートで楽勝でも、分が悪いだろう。ゲームじゃないんだ。死ねば、死ぬ。


「珍しい」

「変異種が? 緑のが?」

「両方。でも、緑の初めて見た。聞いた事もない」


 変異種が現れるのはまあ、あると。

 けど、紫の層に遥か上位の緑の魔物が現れるのはかなり異常事態のようだ。


「そのあたり、聞き出せればいいが……」


 果たして、あの緑のガルムの出現に意図はあったのか。

 もしも、俺という存在、またはアヤという神器に反応したのなら、戦士は一日で廃業する事になりかねないのだが。


 問題は戦士以外に俺の働ける仕事があるか、否か。

 正体不明。

 神域侵入、神器窃盗、変質者の容疑者。

 死んだ目の無愛想な子供。

 俺ならこんな奴は絶対に雇用しない。絶対だ。


 となると、やはり危険は承知である程度の資金は戦士として稼がないといけないのだが、やはり、避けられる危険は回避したい。


「そろそろ起きないのか、そいつ」


 ベッドの上でスヤスヤと眠るセイカ。

 こうしていれば深窓の姫君で通りそうなのに、もったいない。

 立派な鎧兜をミナモが外したため、戦闘中の印象とかけ離れている。


「疲れてたみたい」


 何も連れてきたのは放置できなかったからだけじゃない。

 最初に緑のガルムと戦っていたのはこいつなのだ。

 結果的にトレインをくらった――巻き込まれた立場の俺たちとは違う。

 少なくとも俺たちの知らない事情を知っている最大の情報所持者だ。


「ん……」

「起きたか?」


 椅子から枕元に移動する。

 覚醒前なのか、形のいい眉を歪めていた。


「……ちっ、悪い。ミナモ、俺ちょっと出てるわ」

「?」


 首を傾げるミナモに手を振って、部屋を出ていく。

 セイカに対しては良い感情はない。

 死地に巻き込まれたうんぬん、良くも悪くも貴族らしい性格、反りの合う合わないなど、挙げていけばきりがないだろう。

 それでも、


「寝ながら泣くなよ、バカ野郎」


 目が覚めた時に異性おれはいない方がいいだろう。

 扉に背を預けて、俺はこれからの事について思考を切り替えようとして、うまくいかずに頭を掻いた。

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