↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/19

15、セイカ

15、セイカ


 緊張が解けて膝をつく。とても残心なんて心がけていられない。

 ステータスをチェックするとHPが残り3だった。あと30秒戦闘が続いていれば、ガルムの牙がもう少し深く刺さっていれば死んでいた。

 その事実に背筋が凍りつく。今さらになって恐怖に歯が鳴った。全身から吹き出す汗が熱い。


「下郎! しっかりしなさいよ!」


 唐突に襟首を掴まれる。

 強制的に見上げた先には俺に馬乗りになった美少女がいた。


「早く飲みなさい!」


 口に竹筒が突っ込まれ、底の方をグリングリンと回されて急速に中身が注がれてくる。なにその体育系新歓コンパのラッパ飲み。らめえ! そんなに入んないの! こぼれひゃう!

 気道にも入り込んできたもののいくらかが腹に落ちてきた。急激に気だるさが消えて霞んでいた視界が戻ってくる。


「って、殺す気か!」


 竹筒を吐き出した。もう少しで窒息するところだったわ。

 抗議しようと掴みかかろうとしたが、その前にセイカが凄まじい剣幕で怒鳴りつけてきた。


「あんた死ぬ気なの!」


 うわ。こわ。不良にメンチきられてるみたい。背景にビックリハテナが見える。


「な、なんだよ。金はないって言っただろ」

「ふざけんな! なんて戦い方してんのよ!」


 どうもうこうもスキルを使ってギリギリで勝利した。それだけだろ。危なかったのは確かだが、スキルを小出しして消耗するよりはよほどいい。

 それに戦いが命懸けなのは当たり前だ。

 そんな主張はセイカの頭突きで黙らされた。や、ヤサカニのおかげでダメージはないけど。

 まるで敵を見るような目で睨みつけてくる。爛々と燃える目には怒りが溢れている。


「あんなのは命知らずなんてもんじゃない。あれは自分の命まで道具みたいに使い尽くす狂人の戦い方よ。いい? わたくしたちは命を懸けて生き残ろうとしてるの。あんたは命を使って敵を倒そうとしてる」


 ああ、くそ。どうしてミナモといいセイカといい。俺の目を見て話してくるのか。

 やりづらい。


 なら、どうすればよかったっていうんだ。

 あんな化け物相手に普通の戦士が集まってどうにかなるのか? 時間稼いで応援呼んでも、犠牲が増えるだけだろ。それとも銘持ちの歴戦神具使いが都合よく現れるとでも? 俺は一番確率が高くて犠牲のない方法を選んだ。それでいいじゃないか。こうして生き残りもした。どこにも何の問題もない。

 そんな憤りを腹の底に沈めた。

 笑顔で謝っておく。


「あー。心配させて悪いな。反省する。俺もテンパってたからさ。もうしないように気を付けるよ」


 瞬間、地面に突き飛ばされて顔面の真横に鉄槌じみた拳が撃ち込まれた。

 こうなっては形だけの謝罪は喉の奥から出てこない。


「馬鹿にすんのも大概にしなさい」


 低く冷たい声。

 いくら俺でもその声に込められた怒りの熱量ぐらいは理解できた。


「心にもないことをペラペラと」


 ここで反論は逆効果だよな。黙っておこう。

 セイカは胸の中で渦巻く憤りを言葉にしようとしているのか、何度も口を開きかけたが音になることはなかった。


「カンダソウタ」


 やがて名前を呼ばれる。

 やはり、正面から目を覗きこんできた。


「あなた、わたくしの組に入りなさい」

「は?」


 いや、何を言われたか本気で理解できなかった。

 どういう思考で結論に至ったのか。なんで初めて会った貴族の令嬢の組に入らないといけないのか。明らかに嫌われている相手なら尚更だ。

 しかし、こちらを見下ろしてくるセイカの目は真剣そのものだ。冗談とは思えない。


「あんたの性根、叩き直してあげるわ」

「あ、結構ですから」

「いいえ。拒否権なんてないわ。カンダ家なんて知らないけど、それだけの神具を持っているからには貴族の義務があるわ」

「や、貴族じゃないんだけど」

「強い神具を持つ義務でもいいわよ。強い力を持った人間にはそれだけで弱い者を守る義務がある。義務を果たさずに死ぬなんてわたくしは許さない」


 ノーブレスオブリージュを信条にするのは結構だが、特権階級の恩恵を受けていない俺には当てはまらない。

 言い返したいところだが、セイカが言っているのがそんなことではないのはわかっている。

 初対面で会話なんてほとんど交わしていない相手だが、ここまで明確な意思を持っている人間の意志などすぐに読み取れた。


「セイカの主張はわかった。けど、俺はミナモの組に入ってる。ミナモには大きな借りもあるから裏切らない」


 セイカは舌打ちして腕組みする。

 あー、そういえばさっきからすごい体勢だよ。小さいとはいえ女の子に馬乗りにされて組み敷かれるっていうのは新鮮な経験ですね。


「とりあえず、どいてくれ」

「は?……きゃっ、この破廉恥漢!」


 耳まで赤くなって飛びのいたのは恥じらいがあってかわいらしかったが、間髪入れずに股間を踏み潰そうとするのはやめろ!

 こええよっ! ヤサカニがなかったら取り返しのつかないことになってたぞ。

 この世界の貴族はどいつもこいつもこんなに過激なのか?


「って、いい加減に踏むのをやめろ!」


 足を手で払う。

 タイミングが良かったのかセイカが盛大にすっころんだ。

 反撃のチャンス。

 素早く起き上がりながらセイカの右手を押さえて封じる。

 瞬時に反撃の左手が跳ね上がるがヤサカニが防いでくれた。その左手は片足で踏んでおく。

 変則的ながらもマウント取ったぞお!


「げ、下郎が!」


 組み敷いたセイカは真っ赤な顔をしていた。

 うん。デレはゼロ。あるのは100パーセント純粋な殺意だね。

 というか、つい反射的に組み敷いてしまったけど、逃げておけばよかったんじゃないか。


「今ならまだ許してあげてもいいわよ?」

「ほう。それは寛大だな」

「ええ。殴るのは10発で許してあげる」


 あー、うん。殴るのは確定なんだ。

 でも、それって絶対に規定回数で終らないよね? 気が済むまで殴るよね?


「俺の方こそ謝るなら許してやってもいいんだが?」

「ああっ!?」


 ひいい。怖い。

 完全に不良マンガに出てくるボス級だよ。

 頭にヤのつく自由業の人に睨まれたみたいだ。

 報復が怖すぎて何もできない。

 どくのも愚策。攻めるも愚策。

 膠着状態だった。


 こうなると第三者の介入に期待するしかない。

 どれだけの間、睨み合っていたのか。

 ずしゃあああああっと砂利をまき散らす音が背後でした。

 振り返れば肩で息するミナモの姿があった。


「……ソウタ」

「助かった、ミナモ!」


 クールな彼女ならセイカの暴力から俺を守ってくれるに違いない。


「俺が上半身を押さえる! ミナモは下半身を頼む! 簀巻きにするぞ!」

「ソウタ。なにしてるの?」


 ……俺にもそんな甘いことを考えていた時期がありました。

 小首を傾げたミナモさん。仕草はかわいらしいのに、目がちっとも笑ってない。いや、いつも表情ないけど。

 なんというか、激昂してらっしゃるような……。


「あたし、心配して急いで戻ってきた」


 うん。早かったね。門が意外に近かったのかな。呼びに行った応援をぶっちぎって戻って来たみたいだし。本当に急いでいたんだね。


「なのに、二人で遊んでる」


 襟首を持ち上げられる。

 手荷物みたいに吊り上げられてしまった。

 怖くて暴れることもできない。

 自由を取り戻したセイカが勝ち誇った顔で起き上がり、握り拳を固めた。


「さあ、50発、覚悟なさい!」

「五倍にすんな! 俺は悪くねえ! 俺は悪くねえ!」

「観念するのね! 悪はわたくしの手で滅びるのよ!」

「セイカ。うるさい」


 二本目のアイアンクローがセイカを捕えた。

 俺よりも小さな体が宙吊りにされて、最初こそ暴れていたものの、次第に力を失ってだらんと脱力する。

 未来の自分の姿がすぐそこにあった。


「オハナシ、キカセテ?」

「うぃ」

すごい久しぶりでキャラを忘れかけているダメ作者。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。