14、変異種
14、変異種
いやあ、ガルムの遠吠えって威嚇じゃないんですね。
あんだけ倒したウルフがどこにいたのかと不思議になるほどやってきましたよ!
十字路の三方からやってきたウルフの数はざっと30か。
「これはこれは」
「……どうするのよ。ただでさえガルムで手一杯だっていうのに」
この状況下で闘志を失っていないのだからセイカは大したものだろう。俺なら泣いて命乞いするね、きっと。
まあ、いくらウルフがいても俺にはダメージは与えられないからちょうどいい。
「セイカ、ウルフは任せた」
「下郎がガルムの相手するつもり? 死んだわね。うん。死ね」
「断定どころか命令すんじゃねえよ。いいから、任せたぞ」
「生き残ったらわたくしの兵にしてあげるわよ。精々、頑張りなさい」
「そっちこそな。全部倒せたら友達になってやるよ」
やった。さりげなく友達フラグゲットー!
そんな軽口を飲み込んでセイカが大剣をホームランバッターのように大きく振りかぶった。
「イワキリ、斬撃強化!」
ミナモほどではないまでも俺とは比べ物にならない踏み込みでウルフの群れに突撃していく。四方から襲い掛かるウルフを一撃で切り裂いた。
セイカの矮躯では大剣――イワキリに振り回されているようにしか見えないが、まるでフィギュアスケーターのような鋭い回転で全身と連動させてイワキリを振り回していく。凶悪な渦に触れたウルフたちは鎌鼬にでも遭ったようにバラバラにされていった。
死の舞踏が回廊を縦断し、最後はガルムに襲い掛かる。
ウルフをものともしなかった一撃はやはりガルムの爪に弾かれた。
しかし、おかげでガルムへの道ができていた。
ここでグズグズしているとその道も埋もれてしまう。
「アヤ、行くぞ」
「どこまでも。ご主人様」
優雅に一礼するアヤ。
それを合図に飛び出した。
俺にはミナモやセイカのような力も体術もない。
(だから、持っているチートを使う)
左手にヤタを握り叫ぶ。
「全ステータスブースト!」
10秒で1SP消費する身体強化。体感で5倍の力が使える。
ガルムへの道を5秒で駆け抜け、勢いのままに右手のアメノムラクモを叩きつけた。
ガキイイイイイイイィィィィィン
金属同士がぶつかる高音を響かせてガルムの巨体が浮き上がった。
硬ってえ!
衝撃にしびれる手。弾き飛ばしただけとは。初めてアメノムラクモで斬れなかった。あの緑の体毛、特別なのか。
まずはセイカと距離を取る。
「ふっとべ!」
ナノデバイス操作。SP169。
イメージは除夜の鐘。凝縮したナノデバイスの柱が空中のガルムを吹き飛ばす。
砲弾みたいに空中を疾駆したガルムはそれでも器用に地面から着地した。
俺が間合いを詰めるのと同時、向こうも爆音みたいな雄たけびを上げて跳びかかってくる。
ヤサカニの防御力場ごと地面に押し込められた。今まではなかった重圧に膝が笑う。
こいつの攻撃はヤサカニを上回るのか。ステータスブーストしてなかったら地面に押し潰されていたぞ。
今までのチート任せな蹂躙とは違う。
正真正銘の命のやりとり。
息が熱い。鼓動がうるさい。視界が白い。
強ければ生き、弱ければ死ぬんだぁぁあああ!
よし。ネタが思い浮かぶ程度には冷静。現実逃避じゃないよ。
KOOLになるんだ、神田蒼太!
……ダメじゃね? いや、大丈夫。余計な力が抜けた。
(ここしかないな)
この戦いは俺のSPがどこまで続くかの戦い。小出し、長期戦は愚策。
ミナモはいないし、セイカはウルフで手一杯。これだけ離れていれば見られる心配も、巻き込む心配もない。
「防御貫通!」
アメノムラクモが頭上の前足を斬り落とした。残りSP115。
「治癒阻害!」
傷口に向けて縦に剣を通す。残りSP85。
「連続攻撃10!」
素人の俺では為し得ない剣舞。残りSP0。HP135。
ガルムの両前足が6撃目で肩口から吹き飛び、落ちてきた顔を叩き斬る。
最後の一撃がガルムの首を裂いた。首筋から飛沫のように白い輝きが噴き出す。
「やっ、たか?」
肩で息しながら見上げたところだった。
絶命したかに見えたガルムの口蓋が開き、巨大な牙に食いつかれる。
防御を抜けた牙が手足に刺さり鈍痛に涙が滲んだ。
痛い! 痛い! 痛い! くっそ。いい! 落ち着け!
(今のダメージどれぐらいだ?)
わからない。ステータスを確認している暇はない。
牙が刺さっている間は継続ダメージの可能性が高い。
ここからは計算を捨てる。予測の立たない未来への恐怖を飲み込んだ。
「連続攻撃10!」
下顎を突き刺し、圧迫が緩んだ瞬間に2撃で斬り飛ばす。
後ろ足の襲撃を一刀で斬り伏せる。
がら空きの胸に向けて残りの6連撃。
分厚い毛皮と筋肉と骨を断ち斬ったところで連撃が止まる。
まだ、ガルムは動く。
反撃を許すな!
渾身の力を込めて、体当たりするように剣を突き刺す。
「と、ど、けええええええええええええっ!」
君に届け。
すいません。深い意味はないのです。
アメノムラクモが柄まで埋まった。
ガルムの巨体が電撃でも走ったかのように大きく跳ねてゆっくりと傾く。
同時に俺も視界が揺れた。慌ててステータスブーストを解除。
ガルムの巨体から莫大な量のナノマシンが噴きあがった。アメノムラクモにどんどん吸収されていき、やがて巨大な死骸が他の魔物と同じように根の底に飲まれて沈んでいく。
勝った。




