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第9話:隠したい乙女心

 ついに『ペアリング・システム』のフィールドテスト(実戦)に漕ぎ着けた。エンジニアとして、理論が形になる瞬間は何度経験しても良いものだ。  ……もっとも、被験者ヒロインたちのプライバシー保護に関しては、おれの見積もりが甘かったと言わざるを得ないが。


「ちょっと、なんなのこれ!? あたしの頭の中に、あの女の理屈っぽい声が響いてくるんだけど!」


『それは私のセリフよ、野蛮な冒険者さん。……というか、貴女の思考、ミツバへの「かっこいい」と「お腹空いた」しかなくて、ノイズがひどすぎるわ』


「うっさい! あんたこそ、ミツバの横顔を『黄金比率だわ』とか分析してんじゃないわよ! 恥ずかしくないの!?」


『……っ! そ、それは純粋に造形美としての観測よ! ほら、ミツバがこっちを見てるわ。……システム、リンク開始エンゲージ!』


 おれが構築した『ペアリング・システム』。今回は、意識同期パケットの安定性と大容量伝送を確保するため、惑星の神経網である地脈バックボーンをメイン回線として使用している。


「リディさん、前方からシャドウが三体。教授、右側の個体の魔防壁を解析、リディさんの脳内に直接座標を送ってください」


 二人の声が重なる。リディの視界に、エレナが計算した「魔物の弱点」が光るマーカーとして浮かび上がった。リディは考えるよりも早く、その光に向かって剣を突き出す。


「……すごい! 体が勝手に最適な動きを選んでるみたい!」


『当然よ。私の演算が貴女の反射神経をサポート(ブースト)しているんだから。……でも、リディ。左から来る個体は無視して。三秒後に私が焼き払うわ』


 エレナが魔導書を開く。リディから送られてくる「現場の魔力密度」の情報を利用することで、発動プロセスを大幅に短縮ショートカットしていた。地脈を介したリアルタイム同期は、遅延レイテンシを極限まで抑え込んでいる。


 轟音と共に、魔物が灰になる。完璧だった。おれの設計した通り、二人は一人の超越者として機能している。だが、問題は戦闘が終わった直後だった。


「ふぅ……。ねえ、エレナ。今の連携、ちょっとだけ認めてあげるわ。あたしの剣、すごかったでしょ?」


『……ええ。貴女の迷いのない踏み込みは、私の理論を補強するに値するわね。……でも、リディ。さっきの戦闘中、ミツバの指示を聞いた時に「あ、今のご褒美に頭撫でてもらいたい」って思ったでしょ。丸見えよ』


「なっ……! あんたこそ、ミツバが汗を拭った時に『そのハンカチ、私が洗濯してあげたい』とか……きゃあああ! やめて、繋がってるのを忘れてた!」


 二人は顔を真っ赤にして、耳元の端末を連打し始めた。その様子を後ろから眺めていたおれは、一人で頷き、手元のノートにメモを書き込んだ。


「……原因は判明しました。地脈に流れる同期パケットの一部が、暗号化不十分なまま近距離の空間へ漏洩リークした。至近距離にいる二人の端末が、互いの『心の声』を拾ってしまった。……いわゆるクロストーク現象ですね」


「説明なんていいから、今すぐ切りなさいよ、このバカエンジニア!」


「……リンク強度、良好。ただし、空間リークによるプライバシーの脆弱性あり。次回アップデートで『恥じらい抑制サイレンス』モードを実装する必要があるな」


 二人の乙女心という名のデバッグは、まだまだ終わりそうになかった。


---


 その頃、学院の薄暗い地下講堂では、数人の老魔導師たちが、鈍い輝きを放つ巨大な「鉄の塊」を見上げていた。


「……ミツバという男の術式は、我ら法術学部の権威を根底から揺るがしかねん。あのような素性も知れぬ者に、これ以上の勝手は許されん」


 保守派の筆頭である老魔導師が、忌々しげに吐き捨てる。彼の視線の先には、数千年前の刻印が刻まれた、禍々しい巨躯の自動防衛機構ガーディアンが鎮座していた。


「案ずるな。断片的な記述なら既に解析済みだ。……すべてをリセット(初期化)してやるのだ。学院の秩序に従わぬ、あの異分子共々にな……」

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