第10話:賢者会議
王立魔導学院・中央議事堂、最高機密室
「……説明しろ、カイル。エレナ・フォン・ストラトスが、辺境の工房に居着いて戻らんとはどういうことだ」
円卓を囲む数人の老人たち。王立学院の『上層部』――賢者会議の面々だ。彼らの前には、カイルが提出した活動報告書が置かれている。
「はっ。エレナ教授は現在、現地の技師と共同で、既存の魔導工学の常識を覆す『未知の通信プロトコル』の検証を行っております」
「未知の術式だと? 噴飯ものだな」
一人の賢者が鼻で笑う。
「彼女は天才だが、若すぎる。何やら『パケット』だの『ハンドオーバー』だのと、わけのわからぬ言葉を並べているようだが……」
「……いえ。その男、ミツバこそが真の問題なのです」
カイルの声がわずかに震える。彼は実際に目の当たりにした、あの『通信端末』の異常な性能を思い出していた。
「彼が作り出したデバイスは、短距離では空間を直接振るわせる空間伝播を用い、長距離では惑星の神経網である地脈をパケット単位で利用します。これまでの『地脈に魔力を垂れ流す』だけの通信とは、次元が違うのです」
最高機密室に、重苦しい沈黙が流れる。
「……地脈のパケット化だと? それは我ら学院が管理する公共インフラの私物化ではないか」
「それだけではありません。空間伝播を用いたルートは、地脈を介さないため、我々の『検閲術式』が一切通用しません。彼らは完全に独立した、監視不能な通信網を構築しようとしているのです」
一人の老賢者が、細い目でカイルを射抜くように見た。もしそれが事実なら、王国の情報統制は根底から崩れる。
「しかも、それを開発したのが学院の人間ではなく、名もなき野良の技師だというのか?」
「ならば、選択肢は二つだ」
議長が冷酷に言い放つ。
「その男を無理やりにでも学院に招き入れ、技術の全てを吐き出させるか。……あるいは、制御不能な『劇薬』として、この世から初期化(消去)するかだ」
「待ってください! ミツバ殿は……!」
「黙れ、カイル。これは国家の情報安全保障に関わる問題だ。エレナに伝えろ。『その技師を直ちに学院へ連行せよ。拒絶するならば、教授の称号を剥奪し、反逆罪として処理する』とな」
学院の深い闇が、辺境の小さな工房に向けてゆっくりと動き出そうとしていた。




