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第14話:ヒロインたちの不可抗力

 地響きと共に現れたのは、学院の地下深くで眠っていた、禁忌の自動防衛機構『守護神像ガーディアン』だった。数メートルに及ぶ巨体は古代の魔導金属で構築され、その全身から吐き出される魔力は、周囲の空間を物理的に歪ませるほどの質量を持っていた。


「……ミツバさん、あれは……!」


 エレナが青ざめた顔で叫ぶ。


「ああ、最悪だ。数千年前の術式が、現代の濃密な魔力環境に適応できずに『無限ループ』に陥っている」


 おれは愛用の椅子に座り直し、空中に特大のコンソールを展開した。


「リディ、エレナ! 前へ出ろ! 空間伝播ワイヤレスでの制御は無理だ。おれが地脈バックボーンを介して神像の心臓部コアを直接書き換えるまで、一秒でも長く時間を稼いでくれ!」


了解ラジャー!」


 二人の声が重なる。リディは同期リンクをオーバークロックさせ、閃光となって神像の魔力放射を切り裂く。エレナは地脈からの干渉を逆利用した多重防壁を展開し、おれに届くはずの衝撃をすべて肩代わりした。


(あたしは負けない……ミツバさんが、後ろにいるんだ。あたしは世界が壊れたって、その背中を守り抜く!)


(この人は、いつだって不可能を可能にしてきた。今度は私が、あなたの理論が正しいって証明する!)


 二人の必死の防御ファイアウォールを背に、おれは精神を同期の極致へと加速させ、神像の魔導回路へ『リモート・アクセス』を敢行した。だが、想像を絶するスパゲティコードが、おれの演算能力を限界まで絞り上げる。


「……クソ、通常のコマンドじゃ権限が足りない! このままだと修正が間に合わないぞ」


 自爆まで残り数秒。神像の巨大な拳が、防御を突き破っておれの鼻先へと迫る。  おれは覚悟を決め、コンソールの最奥――禁忌の『カーネル層』に割り込んだ。


「一瞬だけだ……『座標参照プロトコル』、強制上書き(オーバーライド)。この瞬間だけ、この神像に『物理的な質量』は存在しないことにしろ!」


 瞬間、神像の拳がおれの体を陽炎のように透けて通り抜けた。横で見ていたエレナが絶句するが、おれは構わず修正パッチを叩き込む。


「システム再起動リブート……実行ラン!」


 狂乱の光を放っていた神像が、嘘のように動きを止めた。


「……管理者権限アドミン、委譲を確認。ログイン成功だ」


 おれは汗を拭い、椅子から立ち上がった。エレナが震える声で問いかけてくる。


「……ミツバさん、今、何をしたの? 攻撃が、あなたを透過したように見えたけど……」


「……あー、今のはただの高度な屈折魔法だ。心配するな」


 おれはエレナの頭に軽く手を置いて落ち着かせると、遠巻きに見ていた学院の賢者たちの方へ冷ややかな視線を向け、向き直った。


「それより、あんたたちにエンジニアの鉄則を教えてやろう。――自分でメンテナンスできないシステムには、最初から手を出すな」


 おれは冷徹に突き放したが、内心の動悸は止まらなかった。一瞬だけ触れた、世界の理を書き換える感触。あれは、エンジニアが手にしていい力ではなかった。


 静寂が戦場を包んだ直後、リディがおれの胸に全力で飛び込んできた。


「ミツバさん……っ! よかった……本当によかった……!」


「ばか……あんな危ない橋、二度と渡らせないんだからね……!」


 エレナも涙で潤んだ瞳でおれの腕を強く握りしめる。


 顔を真っ赤にする二人を見ながら、おれは照れ隠しに頭を掻いた。


「……あー、そうだな。不可抗力だ。とりあえず、帰って温かい茶でも飲もう」


 45歳にして味わう、世界の深淵への恐怖と、それを上回るほどの気恥ずかしい達成感。おれは誇らしげに跪く神像を背に、工房へと歩き出した。

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