第13話:二人だけの特権アクセス
一週間の猶予が明け、工房の周囲は鉄錆の臭いと、重苦しい魔力のプレッシャーに包まれていた。 窓の外には、銀色に輝く甲冑を纏った王立魔導騎士団、百名以上が整然と陣を敷いている。
「最終通告だ、ミツバ! 直ちに扉を開け、術式のすべてを差し出せ!」
おれは愛用の椅子に深く腰掛け、空中に展開した無数のコンソール・ウィンドウを見つめていた。
「……リディ、エレナ。接続状態を確認。パケットロスなし、同期精度も許容範囲内だ」
「来るわよ……! 『焦土の審判』……!」
エレナの言葉と同時に、巨大な炎の塊が隕石のように降り注いだ。 だが、おれはキーを叩く指を止めなかった。
「……『魔導中和』、展開。ソース元不明の攻撃パケット、すべて破棄(Drop)」
瞬間、炎の塊は透明な壁にぶつかったかのように音もなく霧散した。爆発も衝撃もない。
「信じられない……。あれだけの熱量を、どうやって……!?」
呆然とする騎士団に向けて、おれはコンソールをスワイプしながら独り言ちた。
「熱量を力で押さえ込もうとするから苦労するんだ。魔法なんてのは、結局のところ物理現象を引き起こすための『情報パケット』に過ぎない。ヘッダを解析して、熱源の発生命令だけを無効化すれば、残るのはただの光の粒子だ」
これこそが、かつての文明が到達し、そして今の魔導師たちが忘れ去った「情報の理」……古代技術の片鱗だ。
「……レガシーな大魔法は構造が単純だ。パケットのヘッダを見ただけで処理できる。次はこっちの番だ。出力120%。敵の魔力パスを逆探知して、根元から切断してこい」
戦場は一方的な「バグ取り」の現場と化した。リディが陣形を切り裂き、エレナが敵の術式を直接ハッキングして強制終了(Kill)させていく。 「……ミツバさんの言った通りだわ。あんたたちの魔法、動きが遅すぎて、コードが止まって見える」
「……古いOSをいつまでも使い続けるからだ。パッチも当ててないレガシー・システムが、最新の最適化に勝てるわけがないだろう?」
◇
騎士団が退散した後、おれは肩で息をする二人を玄関先で迎えた。 「お疲れ様。体調に異常はないか?」
「み、ミツバさんっ……!」
リディが吸い寄せられるように、おれの胸の中に飛び込んできた。
「……無理。まだリンクが残ってて……ミツバさんの安心してる匂いが、ダイレクトに流れてくるから……」
「ちょっと、リディ! 出し抜きはやめなさい!」
エレナも顔を林檎のように真っ赤に染め、瞳を潤ませながらおれの腕を掴んでくる。
「私も……脳が熱いのよ。だから、少しだけ支えてなさい。いいわね?」
彼女たちの秘めた好意までが並列化され、おれというサーバーへと一気に集中してしまったようだ。
「……まったく。これじゃ、どっちが保護されてるのか分からないな」
おれは苦笑いを浮かべ、平和を取り戻した工房の扉を閉めた。 だが、おれのコンソールには、さらなる「例外処理」の通知が届いていた。 学院の奥底。真の「根本原因」が、ついに動き出そうとしていた。




