観測者
「ナタリア、君まで来なくていいんだよ?」
「あくまで私のプライベートで同行しているだけですのでお気になさらないでください」
にっこり笑顔で告げられた。
プライベートに指図する権利はないけど。
昨日の通報云々とか、ナタリアが同行しているせいで勇者ってバレたりしないのかとか心配事は尽きない。
「大丈夫です。中には入りませんから」
宣言通り上総だけ訓練場の中に入って行った。
「おい新入り!逃げずにちゃんとくるとは偉いじゃねぇか!今日もたーっぷり可愛がってやるからな!」
訓練場に着くやいなやカーツが上機嫌で絡んできた。
「今日も先輩の胸をお借りします」
笑顔で会釈をし、カーツから離れて訓練に参加した。
「なぁなぁ。ちゃんと自主練してたのか?」
「前と同じじゃさすがにつまんねぇぞ?」
「その変な動きはなんなんだ?意味あんのか?」
「おい、この前の傷はどうしたんだ?」
・・・うるせぇ。ストレッチに集中できひん。
「カーツ先輩。心配しなくても今日は僕がボッコボコにしてあげますよ」
「言うじゃねぇか…副団長!こいつとタイマンいいっすか!?」
上総の笑顔の煽り一撃で額に青筋を浮かべて殺気立つ 煽り耐性なさすぎるやろ。
「お前なぁ、新入りばっかいじめてんじゃねーよ」
グラブは呆れた顔でカーツを諌める
「副団長、僕からもお願いします。」
上総からの申し出に、満面の笑みのカーツと驚きを隠せないグラブ
「はぁ…この後の訓練に支障ない程度にしとけよ。おい、見といてくれ」
「…わかった。」
グラブに指示された少女がカーツに歩み寄る
「よし!手加減はいらねえよな!」
今にも殴りかかってきそうなカーツが、目を血走らせている。
「ふっ。手加減出来るほどの力量も器用さもないですよね?」
上総は嘲笑を込めてダメ押しで煽る。
「コロス!!」
初っぱなから剣を捨てて殴りかかってきた。
武器を自ら捨てるのはいかがなもんかと思うけどな
身体強化50%で訓練用の剣でカーツのラッシュを捌いていく。
「オラオラオラ!防戦一方かよぉ!!」
なかなか攻撃が入らないことに業を煮やしたのか
ラッシュのギアが一つ上がった
身体強化50%のままで淡々と捌き続けながらタイミングを待つ。
そろそろか?
上総はカーツのラッシュを捌く瞬間に〝干渉〟を差し込みつつカーツのステータスを逐一確認していた。
きた!
次の瞬間、剣を弾き飛ばされた。
「キター!!生意気な新入りにお仕置きターイム!!!」
ハイテンションで繰り出される右ストレートを
上総の拳が迎撃した。
「な、なにぃ!?」
「…え。うそ。」
動揺したカーツと拳を付き合わせる形で硬直する
「まぐれ当たりで調子に乗るなぁ!!!」
普通なら何か起きていると警戒するべき事象なのだが
プライドを傷つけられ煽り散らかされたカーツには受け入れられず
さらにラッシュを繰り出した。
「オラオラオラオラオラァ!!!」
プライド 焦り 動揺・・・
カーツは負の感情をかき消そうと必死にラッシュを繰り出す。
思わず無駄無駄ぁ!! と叫んでしまいそうな衝動を抑えて
淡々と捌く 慢心も油断もしない
ただひたすらに捌き続ける
上総はカーツの体術スキルが上がった瞬間に
1レベル分の経験値を奪った
結果、カーツのレベルは5に戻り
上総は体術Lv1になるつもりがLv.5になった
レベルごとの経験値は一定じゃないってことか
当たり前っちゃ当たり前か
同等のスキルレベルの上に身体強化が乗っている上総がカーツを圧倒するのは当然の結果だった。
思ってたより盗り過ぎたな。怪しまれへんといいけど。
このまま迎撃し続けて体術スキルのレベル上げすれば言い訳つくか?
「オラオラオラオラオラァ!!!」
「…..」
右ストレートがきたら左ストレートを拳にぶつけ
ハイキックにはハイキックで応戦する
「どうした!どうしたぁ!もうバテてきたのかぁ?まだまだこんなもんじゃねぇぞ!!」 「…··」
右ストレートに対してそっと手を沿えていなし
ハイキックに対しては少し拳を当てて軌道 れに対して最小限の動きで繋す動きに変えた。
上総の体術がLv.6に上がったがカーツは未だに5のままだった。
攻守で経験値が違うんか?
個人差なんか?それとも勇者補正?
カーツに1レベル返して切り上げよう。
疲労がみえるカーツの右の大ぶりをかわし、そのまま裏拳を打ち込む
裏拳がヒットした瞬間に〝干渉〟して1レベル分の経験値をカーツに返した。
やっぱり経験値の受け渡しの量は上からレベル1つ分か。
練習したら調整出来るようになるんかな?
まずは終わらせるか
顎に裏拳をくらいフラついているカーツの懐に潜り込み
鳩尾にボディブローを打ち込み、カーツは白目を剥いて沈む。
「ふぅ…ギリギリでした。」
わざとらしく息を切らして言ってみせる
「「おぉー!!!」」
「・・・一体何をしてるの?」
「やるじゃねーか!」
一応の演出を挟み、称賛の嵐が巻き起こる。
今日は気持ちよく眠れそうやな
その後の訓練に向かう上総の服を掴む少女
「な、何かな?」
少女の表情はフードに隠れてよく見えない
「・・・あれは何?どういうこと?」
ドキッ
まさか、気づかれたか?
こいつだけ? 誰かに喋った? 消すか?
いや、流石にここでは無理
「あ、あれは裏拳って言って・・・」
「・・・スキル」
全身の血が冷たくなる感覚がした
「・・・私の鑑定はギフトの内容が一部が見える」
やっぱり消すべきか?−−いやリスクが高過ぎる
逃げる?−−どこへ
今のレベルでサバイバルできるか?−−狼に苦戦してるようじゃ無理や
ここで放置は最悪手
何かしらの対処を−−




