生存本能
騎士は一斉に手を止め、剣に手をかける。
「シスターララ、今のうちに回復を」
「は、はい!」
すー・・・ふぅーー・・・
上総は静かに目を開き索敵スキルを発動させる
デカい反応がこっちに向かってくる。
こっちに気付いてるんか?
それとも障害物を避けてる?
魔物の反応は蛇行しながら軌道修正して
上総達のキャンプ地へ向かってくる。
上総とセシル、シスターの3人を守るように騎士達が壁を作る。
魔物の反応が間近に迫り、その姿を現した。
それは2トントラックと遜色ないほど巨大な猪だった。
通常猪の牙は下顎から上向きに生えているが、こいつは突き殺すことしか考えていないみたいに前向きに生えていた。
「プレインボアだと!?こんなところにいていい魔物じゃない!」
セシルが慌てて騎士達の前に出た。
「カズサ様とシスターを連れて即時撤退しなさい!」
!!
広場の縁に立ち止まっていたプレインボアは一切の予備動作もなく急加速した。
瞬きほどの時間で距離を詰め、唯一反応したセシルと激突する。
鋭い牙を剣で防いだが圧倒的な質量の差に成す術なく跳ね飛ばされた。
「セシル様!!」
騎士とシスターララがセシルの元に駆け寄り撤退しながら治療を始める。
「勇者様!あれはまだ若い個体ですが、とても我々で対処できる魔物ではありません。殿は我々が務めます!早く撤退を!」
3人の騎士が強張った笑顔で上総に告げる。
「あの突進速度から逃げ切れるとは思えない。僕が相手をするからセシルとシスターを守りつつ後退してください」
「無謀です!あなた様をここで失うわけにはいきません!!」
上総は身体強化を40%で発動する。
それと同時に引き寄せられるようにプレインボアが上総と向き合った。
「あいつの進路に入らないように撤退しろ!」
上総は騎士達に指示を出すとプレインボアを中心に反時計回りに走り出した。
「くっ。隊長とシスターの撤退を最優先に!街道まで撤退したら最低限の護衛以外はこっちに戻るぞ!」
プレインボアも上総を追って旋回するが追い切れずすぐに背後を取られた。
正面にさえ立たんかったら突進は大丈夫やろ。
あとはどうやって倒すかや...な!?
プレインボアの身体が不自然に180°回転し、突進を繰り出してきた。
上総は前方に飛び込んでギリギリ回避した。
危なすぎる!あんなん触れるだけでちぎれるわ!
振り返る時も走り出す時も足動いてなかった。
スキルによるものやな。
再びプレインボアの背後に回り、十分に距離をとった。
そのまま背後を維持しているのに、殺意に満ちた目と視線がぶつかる。
きた!
身体強化を60%に上げてプレインボアの突進を紙一重で躱した。
剣先で微かに触れる。
今度こそ盗らしてもらうで!
名前:なし 5.7
種族:プレインボア
クラス:なし
Lv.78
HP:783
MP:0
ATK:259
DEF:300
RES:3
スキル:突進Lv.7 反動軽減Lv.8
物理特化やな。この厄介なスキルはもらうぞ!
スキルを奪い取った瞬間
プレインボアは慣性などの物理法則を完全に無視して停止した。
予想外の現象に両者とも困惑する。
現象に対して考察している上総と本能で人間を襲う魔物
再び攻撃に移るのが早いのは当然後者だった。
プレインボアは巨大な頭部をスイングして槍のような牙を薙いだ
「マジか!っぐ!!」
身体強化60%で体感時間を引き延ばされている状態でもガードするのがやっとだった。
直撃は免れたものの無茶な態勢でガードしたため10m近く吹き飛ばされた。
「スキルなしでも純粋に力強すぎる。くそっ...これ以上の身体強化は無理か。」
身体強化を60%から10%に下げた。
「うぅ。とんでもない体のダルさやな。」
身体強化の出力を下げた途端に反動で膝を付きそうになるほどの倦怠感に襲われた。
「勇者様っ!!ヒール!」
!?
シスターが護衛を振り切ってこちらに駆けてきているのが見えた。
「...っち」
プレインボアはゆっくりと向きを変え、シスターに向けて走り出した。
突進スキルを失い、先ほどとは比べものにならない程ゆっくり走っている。
それでも直撃すれば即死する程の質量がある。
「やばい!身体強化 40%…ぐぁっ!。」
シスターララとはいえ遠隔のヒールでは回復しきれない。
あかん、これ以上身体強化使われへん。
身体強化に失敗し、その場で崩れ落ちてしまった。
プレインボアは大きな足音を立てながらシスターをめがけて猛進する。
『バッツ!グラント!プレインボアを足止めしろ!!』
フォレストウルフのボス個体から奪った【統率】を使いシスターの後を追っていた
騎士に命令を出す。
「!!シロカネ様が我らの名を!?」
「バッツ!やるぞっ!!」
騎士の移動速度が目に見えて速くなり、ララを追い抜いてプレインボアに向かって行く。
グラントは背負っていた大盾で正面から突進を受け止め、弾いた。
弾かれたプレインボアの額の毛がジワリと血が滲み
その目には決して消えぬ殺意に混乱が混ざり込んだ
「ぐううぅ!!!バッツ!!」
「任せろぉっ!!!」
バッツもグラントと同じ衣裳の大盾をぶん回し、プレインボアの顎をかち上げた。
上総は突如尋常じゃない怪力を覚醒させた2人に間髪入れずに
『もう一度殴って横を向かせろ!』
「はい!!」「応ッ!!」
大盾のフルスイング2連続を食らい巨体がよろめき上総に脇腹を見せる体勢になった。
このスキルなら体動かんくてもいけるはず!
【突進】
切先を目標に向けることにだけ集中し、上総の身体は急加速する。
それはまさしくプレインボアの心臓を貫抜んとする一本の矢のごとく駆ける。
ドスッ!!
上総の剣が分厚い皮と脂肪を貫き
肋骨をすり抜け、根元まで深く突き刺さる。
このまま太い血管切る!
最低でも引き抜かな致命傷にならへん!!
プレインボアは悲鳴を上げながら上総を振り払おうと激しく暴れる。
上総は必死にしがみついて剣を抜こうとするが
力んだ強靭な筋肉に挟まれて抜けず微動だにしない。
「抜けろぉぉ!!」
ズズ...
ほんの数ミリだけ血に濡れた刀身が見えた時
上総の握力が限界を迎えた。
剣から両手が離れ、背中地面い引き寄せられる。
焦燥、絶望、恐怖、殺意
様々な感情が渦巻きながら自らの手を離れた剣を見つめた。
その視界は身体強化100%に匹敵するほどゆっくりと時を刻んでいる
深く突き刺さった剣
命の危機を感じて逆立っているプレインボアの毛
筋肉の隆起
傷口から滲み出る鮮血
視界の端に見切れる自らの腕と足
「うらぁぁぁ!!」
ガンッ!
プレインボアから離れていく足が視界に入った瞬間に反射的に剣の柄を蹴り上げた。
蹴り上げた剣がどうなったのか見届けることは出来ないまま引き延ばされた時間は元の速さを取り戻す。
「ぐはっ!」
受け身も取れず背中と後頭部を地面に強打してしまった。
息も吸えず、耳は内から響く高音以外感じない。
プレインボアが暴れているのだろう。
ジンジンと痛む背中に地響きを感じる。
痛っ...くるしい...
起きて...離れな。
踏み潰されたら終わる。
魔力が空になり、身につけた聖銀の鎧はその本来の重さを取り戻す。
上半身を起こそうとするが、拘束具と化した鎧がそれを許さない。
徐々に肺が空気を取り込みはじめ、聴覚が音を拾い始めても絶望的な状況が鮮明になっていくだけだった。
コロンッ
這いずろうと動かした腕に何か当たった。
瓶と・・・聖銀の剣?
まさか、この瓶がMPポーションなんて
都合のいい展開あると思うか?
頭の中で冷静で諦めたような自分の声が聞こえる。
上総が生きていることに気づいたプレインボアはとどめを刺すべくゆっくりと歩み寄る。
これはそもそもポーションなのか?
酒?
ただの液体燃料の可能性も
大量の血を口から吐き出しながら
覚束ない足取りで一歩一歩近づいてくる
それはまるで具現化された死だった。
残りわずかとなった命を刈り取る鎌の如き牙を最後の力を振り絞って薙いだ。
「勇者様っ‼︎」
巻き上げられた土煙と激しい衝撃音
そしてシスターララの悲鳴のような叫び声が響き渡る




