合理の限界
「お疲れですね。回復致します」
この子は天然なんか?マイペースすぎんか?
シスターの回復によって心地よく
打撲や擦り傷が消え、疲労感がとれていく
「ありがとうございます。とても楽になりました」
「いえ、仕事ですので」
そう言って小さく会釈するともとの椅子に戻り、静かに座った。
そういう愛想のない態度が敵を作ってるんじゃないのかい?
まぁ、俺としてはちゃんと回復してくれれば別に構わんけど。
その後、順番に食事を摂って夜の警戒に備える。
度々ゴブリンの群れが襲撃してくる
しかし、より探索範囲の広い騎士が警戒しているため奇襲にはならない。
あれだけ狩ったのにまだこんなにおるんか
積極的にスキルを回収しながらレベルを上げていく
「セシル様!」
探知をしていた騎士が緊張した面持ちで声を上げる
それを聞き、セシルがテントから出てきた。
「やけに襲撃が多いと思ったが、こいつらの仕業か。」
「すでに囲まれてます。接近してきます!」
全員が剣を抜きテントを囲む様に警戒する。
「何が来るんですか?」
「フォレストウルフです。このゴブリン達はそいつらに追い立てられて我々を襲撃させられたのでしょう」
なるほど。だから逃げ出す奴がおらんかったんか。
「数は何体ですか?」
「わかりません。奴らは仲間と魔力を同調させて連携するので、探知で感じる1つの反応に2.3体紛れていることがあります。なので正確に数を把握できません。」
へー。おるのは分かるけど。実際何体おるかはわからんってことか。
キャンプの外周をぐるりと囲む影が見えた。
ジリジリと距離を詰めてきており
森の中で保護色になりそうな暗い緑色の毛並みに
ビッグスクーターくらいの狼型の魔物が現れた
でっか。。。
ゴブリンも初見は大概ビビったけど、迫力が違うな。
セシル直伝の秘技を披露したるわ!
「ふぅーーーっ!!」
魔力操作を使い、身体中に魔力を高速で循環させていく。
セシル曰く、体温の上昇と魔力回路の負荷による全身をチクチクとした痛みと引き換えに
身体能力にバフがかかり、眼筋と視神経が強化され
脳の情報処理能力が上昇し意図的にゾーンに入ったような体感を得る。
・・・らしい
-ゾクリ-
魔力を活性化させるとフォレストウルフ達の殺気が集中したのを感じる。
上総はボロボロと崩れ始めているゴブリンの亡き骸からナイフを拾い上げた。
前方の6体のフォレストウルフが上総に狙いを定め、臨戦態勢に入っている。
次の瞬間、慎重に縮めていた包囲を崩して6体のフォレストウルフが突撃してくる。
30m弱の距離を、ゾーン状態の感覚でも速いと感じるほどの瞬発力で詰められる。
はやっ!!
ゴブリンのナイフなんかとは比べ物にならないほど鋭く切れ味の良さそうな剣歯が的確に首元に迫るのを目の当たりにする。
圧倒的な死の恐怖が迫っていた。
上総は何とか身を捩り、無様に地面を転がって躱す。
バクン!. . .バクン!! . . .バクン!!!
ハァ . . . ハァ . . . ハァ . . .
加速された思考に鼓動と呼吸が追いつかず、どれだけ吸っても息を吸いきれず、血流も足りず酸欠になりそうな感覚に襲われる。
息苦しい。ヤバい。
次が来る!
次に飛びかかってきた狼に注目した瞬間に
右足に激痛が走る
ギリギリ交わしたフォレストウルフが噛みついていたのだ
聖銀の鎧は貫通していないものの隙間に牙が食い込んでいる
あまりの痛みに意識が飛びそうになるが目の前にも
死の顎が迫っていた。
ここで死ねるか!
右足にくらいついているフォレストウルフに〝干渉〟
魔力循環のゾーンとは比べものにならない思考加速で
最小限の動きで牙を躱す
そしてすれ違いざまに首、胸、腹を順にナイフで突き刺していく
空中で体勢を崩したフォレストウルフは盛大に地面に巨体を打ち付けて転がった。
3体目が体勢を低くして走り込んでくる
左手に持ったナイフを投げ、フォレストウルフの胸に深々と突き刺さり心臓に達したのか足の力が一気に抜けて崩れ落ちた。
お前はいつまで噛んでんねん!
右足のフォレストウルフの頭に聖銀の剣を突き立てる。
痛すぎる!アドレナリン出てるはずやのに。
4体目が3体目を飛び越えて突撃しようとしたところを剣で掬い上げて首を刎ね飛ばす...
つもりが首の骨に食い込み、体勢を崩したフォレストウルフが宙返りして上総の後ろにドサリと音を立てて落ちた。
骨硬すぎやろ。でも致命傷なはず。
残るフォレストウルフは前方に2体、後方には首から大量の血を流しながらよろよろと立ち上がる4体目の計3体
「ーーーー!!!」
セシルが何か叫んでいるが感覚を極限まで引き延ばしている上総には届かない。
「ーーーー!!!」
視界の端でセシルが何か叫びながら駆け出す姿が映るが、感覚を極限まで引き延ばしている上総には届かない。
「ーーーーー・・・uさ様!ご無事ですか!?」
自身の鼓動と呼吸音しか聞こえない静寂から解放されて数瞬ぶりに聞いた音はセシルの叫び声だった。
テントの前にいたはずのセシルが気づくと目の前で血に濡れた剣を構えている。
死にかけを殺して駆け付けたんか
いつの間にか身体強化が切れてる
集中力と魔力回路の限界か...
身体が重いし、思考に靄がかかったような感じがする。
突撃してきた残り2体はセシルを見て急に冷静になったのか素早く包囲の輪に加わった。
数が減ったため包囲しているフォレストウルフ達が少しずつズレながら包囲を調整している。
その隙を逃さず、音もなくフォレストウルフの目の前に移動したセシルが頭から尻尾まで真っ二つに両断した。
「全員拠点を防衛しつつ掃討しろ!」
真っ二つにされた仲間に一瞬驚いた様な表情を見せたがすぐに左右の2体ずつがセシルに向き直った。
同時に包囲しているフォレストウルフが一斉に騎士達を目掛けて突撃してくる。
その突撃は上総に特攻した奴らとは比べものにならない程
組織だっている。
まさに一糸乱れぬ連携で騎士達に襲いかかる。
騎士1人に対して3体が絶え間なく攻撃を仕掛ける。
騎士達は防戦一方になってしまっている。
俺も参戦しやんと。
さっきの身体強化が100%として10%だけ使う!
再び上総の身体に魔力が巡り始める。
これでまだ戦える。
まず騎士とフォレストウルフの戦いに横槍を入れる必要があるな。
目の前の騎士に群がっているフォレストウルフの1体がターゲットを上総に変えて襲いかかる。
え!?こっちくるんかよ!
向かってくるフォレストウルフの下に沈み込み、すれ違いざまに一閃
先程剣を止められた硬い骨ごと切り裂き、その首を刎ね飛ばした。
騎士も2体なら反撃出来るらしく、問題なく討伐した。
「隣の騎士を順に手助けしていってください!」
「分かりました!」
上総は騎士に指示を出すと反対側の騎士を手助けに向かう
上総が向かうと必ず1体は迎撃に来るが最早タイマンでは負ける気がしなかった。
「シロカネ様!ご無事ですか?」
女騎士が1人手助けに駆け付けてきた
「ありがとうございます。戦闘継続してる騎士の援護にまわってください!」
「私は勇者様の護衛です!勇者様と共に戦います!」
「え?いや、」
こいつは状況を理解してへんのか?
あ、こいつシスターに突っかかってたやつか!
あれ?こいつはどこから来たんや?
『索敵』
騎士と思われる反応は8人...テントに2人...あとはセシルの反応が確認出来た。
上総と反対側の防衛戦に穴があり1人3体程対処しているところを2人で8体に囲まれて孤立している騎士がいる。
まさかこいつ持ち場放棄してきたんか!?
嫌な予感がする。
待って、このテントの2人...シスターと誰や!?
上総は違和感の正体に気付いた瞬間テントに向かって走り出した。
テントの入り口から光がチラチラと漏れ、テントが内側から切り裂かれた。
やっぱりシスターが襲われてる!
身体強化30%いけるか?
地面を蹴る力が強くなり、付いてきている女騎士を置き去りにした。
シスターの反応はある!間に合え!!
索敵の反応だけやとどっちがシスターか区別つかん!
一か八かナイフ投げるか?
いや、シスターが耐えれる威力で投げても怯まんし意味ないな
引き伸ばされた時間の中で必死に最適解を探すが、情報が足りない。
賭けに出るしかないと考え、落ちているゴブリンナイフを一本拾い上げ、投擲の構えをとる。
ナイフを投げる直前に一際大きな光が漏れた。
その光が収まり始めた時に血走った目と視線がぶつかった気がした。
見えた!くらえ!!
ナイフがテントを切り裂きフォレストウルフの首に突き刺さった。
防御結界を破られ、死を覚悟していたシスターは目を丸くしていた。
「はぁぁぁあ!!」
仮面ラ○ダーの如き飛び蹴りで首に刺さったナイフを押し込み、貫通させ
そのまま巨体を吹き飛ばした。
「こいつが当たりか」
種族特性とやらは奪えんかったけど
「統率」「思念伝達」はデカい
統率スキル持ってるし多分こいつが群れのボスなんやろう。
けど、致命傷負ってスキル全部失った狼なんか怖ないわ!
思念伝達スキルを失ったことで配下のフォレストウルフとの繋がりが絶たれ
明らかに混乱しているボスを無慈悲に切り捨てた
索敵で周囲を確認すると、あれ程統率の取れた連携を見せていたフォレストウルフがパニック状態になり、連携が取れず次々と騎士に討ち取られていく。
中には逃げ出す個体もいるが魔法で後ろから撃ち抜かれている。
「終わったみたいですね。シスターララ、ご無事ですか?」
依然へたり込んでいるシスターララの安否を確認した。
「大きな怪我はありませんが、魔力が切れて動けません。」
1人でボスの攻撃耐えてたんやからしゃあないよな。
器合わせの容量で魔力補填できるんじゃなかったっけ
シスターララの手を取った。
「な!なにをっ!?」
シスターララはひどく狼狽えたが倦怠感のせいか抵抗はしない
「シスターララに魔力を渡します。」
「え?」
魔力操作を使い、シスターララの手に魔力を流し込む
まだ魔法使われへん俺がMP持ってても仕方ないしな
「あ、魔力が...」
流し込み過ぎんように気をつけんと。
シスター爆発させてまうかもしれんしな。
魔力操作の加減に集中しているとシスターがポツリポツリと話し始めた。
「助けてくださって、ありがとうございました。」
「防壁が破られた時、やっぱり見捨てられてここで死ぬんだって...」
シスターは意図的に孤立させられたのか。
あの女騎士の問題行動はシスターだけじゃなくて
仲間の騎士も危険に晒す行為やった。
ホンマに100%あいつの意思なんやろうか。
「勇者様?」
「あ!ごめん!」
あぶな!容量8割超えてた。
考えこむ悪い癖が。
「もう十分魔力を分けていただきました。ありがとうございます」
今まで無表情で塩対応なシスターが破壊力抜群な笑顔で不意打ちしてくるとは...
体力、気力ギリギリの状態でこの顔は目に毒やな。
「いえ、被害状況を確認しましょう」
なんとか平静を装いボロボロになったテントを出た。
ボス個体を討伐したことで統率の乱れた狼型の群れは掃討されていた。
空を見上げると遠くの空が白んできた。
「...もう一息やな」
患者達が寝静まり、薄暗い廊下の窓から見える白み始めた空と重なり
口癖のように呟いていた。
夜勤は好きじゃないけど、この時間は結構好きなんかもな。
「セシル、被害状況は?」
「負傷者はいますが死者はいません。休息を取り、帰還の準備を始めましょう」
バキバキバキ ズズーーーー・・・ン
大木が倒れる音が森に響き渡る。




