45話
「落ち着いた?」
「ご、ごめん…」
泣き止まないマリーをローズとオゼットは優しく慰めてくれた。
「ごめんなさい マリー、私達 婚約者と挨拶に回らないとなのよ…」
「ごめんね、直ぐに戻るから…」
「私は1人でも大丈夫だよ!婚約者が待ってるんだから早く行って!」
オゼットとローズはアンソニーとジョルズの元へ向かった。
「いいなぁ…」
『2人とも両想いかぁ~ 羨ましい…』マリーは1人バルコニーで座っていた…
「ねぇ、聞きました。あの噂…」
「ええ、聞きましたわ!ドラグン様でしょ?」
『へっ?今 リード様の名前が聞こえてきたような…』マリーは耳を象の様に大きくし、聞き耳を立てる。
「わたくしもお願いしてみようかしら?」
「あらっ、純潔を捧げても一夜で終わってしまうのよ」
「でも、もし子供が出来れば…」
「龍人族の子は孕む確率が凄く低いのよ!一度で妊娠なんて絶対に無理よ。諦めなさい」
「でも、頼めば誰でも一夜を過ごせるのよ… ドラグン様と過ごせるなんて夢みたいじゃない?」
「そうね… 私も頼んでみようかしら?」
女性2人は恋愛話に花を咲かせ、キャッキャ騒いでいた。だが、マリーの耳にはもう何も届いていなかった。
『頼めば、誰でも一夜を過ごせる…』
マリーの耳には何度もこの言葉が繰り返し聞こえてくるのであった…
◆◆◆
「マリー嬢の方から私に会いたいだなんて珍しいね」
マリーは今、アンソニーに会いに城へ来ている。もうすぐ婚約パーティーを控えているアンソニーは忙しそうだが、何処か幸せそうな顔をしていた。
「アルフリード様に会わせて下さい!」
「何度も言うが、本人が会いたがらないんだ…すまないね…」
「そこを何とかお願いします!一度でいいんです。ほんの少しだけでも…」
少しの間、黙って考え事をしていたアンソニーが何かを思い付いたように目を輝かせた。
「もうすぐ私とローズの婚約パーティーがあるのは知っているね?君も招待されていると思うがその日、アルフリードは会場の警備をすることになっている。君はパーティーに参加せず、アルフリードの元へ行けばいい」
「でも、それじゃあローズに…」
「ローズには私から言っておく。ローズもこの話を聞けば喜ぶと思うぞ?確かその日はマリー嬢の誕生日前日だったかな?こう見えて私は君にはとても感謝しているのだよ。後日、君にお礼の贈り物をしよう。一つはアルフリードの配置位置が示されている会場の地図だ。もう一つは香水だよ。当日はこの香水をつけていくように!」
「はい!ありがとうございます」
マリーは深々とアンソニーに頭を下げると部屋から出ていった…
「やれやれ、アルフリード… そろそろ捕まってあげなさい…」
アンソニーはまた、机に向かうと大量の書類に向き合った。
◆◆◆
『遂に来たわ!お化粧ばっちり、髪型オッケー、服装完璧。地図は持ったし… もし、これで駄目だったら諦める!諦めるしかない… もう、お父様にもお見合いを随分長引かせてもらっているし… でも、でも、頼めば、誰とでも だもん。私でもいいんだよね?』
マリーは馬車の中で何度も何度も告白の練習をするのだった…
◆◆◆
「わ、私… あなたの事が好きです!明日、少しだけ私にあなたの時間を頂けませんか?」
『失敗した… お元気でしたか?とかお久しぶりですねって言うはずが、頭が真っ白になっていきなり告白しちゃった!』
「君みたいな乳臭い子供を相手にしている程、私は暇じゃないんだ」
『マリー嬢… 何故、私の場所が分かったんだ!しかも、香水の匂いがいつもと違って分からなかった…それに俺の事が好き?聞き間違えか?』
「えっ、でも…私 明日で二十歳に…」
『やっぱり忘れられちゃったかな…それでもいいわ!二十歳になるから、どうか一夜を共に…』
「他を当たってくれ、タイプじゃないんだ!」
『成人を向かえるだと!では、あの匂いがさらに濃くなるのか… 』
「で、でも… お願いしたら一夜だけお相手してくれるって…」
『やっぱり、私じゃ駄目なの?』
「私にだって、選ぶ権利はあると思わないか?忙しいんだ。これで、失礼する」
『無理だ!この距離でさえ…俺は…』
「ま、待ってください!本当に一夜だけでいいんです」
『どうかお願い…』
「そんなに誰かと夜を共にしたいのなら… おい、フィード、ちょっときてくれ」
『くそっ… 俺だって今すぐにでも… だから会わないようにしていたのに』
「何ですか隊長。わっ可愛い女の子!隊長モテますね~」
「この女性がお前と明日出掛けたいそうだ。休みをくれてやるから遊んでこい」
『自分で言っといて、今にもフィードを殴りたいと思うだなんて俺はどうかしてる…早く、何処かへ行ってくれ…』
「えっやったー!本当にいいの?君、僕でいいのかな?」
「し、失礼します…」
やっぱり私じゃ、一夜の相手もしてもらえないんだ…
諦めよう… 最初から決めていたじゃないか、この告白が駄目だったら諦めると…
◆◆◆
「あーあ、行っちゃった… いいんっすか?隊長~あの子って例のずぅ~と隊長を熱い視線で見つめていた子じゃないっすか?」
「……… 」
『マリー嬢… 髪を伸ばしたのか…』
「可哀想… 少しくらいいいじゃないっすか?」
「女は面倒だ… すぐ泣くし、すり寄ってくるし、特に人間の女の香水の匂いは臭くて堪らん… あんなものつけてたら、例え番だったとしても気が付かないぞ?」
『嘘だ!香水をつけていても分かる!マリー嬢からする甘い匂い…俺を狂わすあの匂い…』
「そんなこと言ってるから、隊長は振った女性からあらぬ嘘を広められるんですよ… 頼めば一晩だけ相手をしてくれるなんて、絶対に有り得ないのに…」
「ふんっ、かまわん。言わせておけばいい。」
『まさか、マリー嬢に一夜を と頼まれるとは…何とか部下の前だから理性を保てたが…何を考えているんだマリー嬢…』
「そんなんじゃ一生結婚出来ないっすよ」
『結婚なんてしなくていい… 君が幸せならばそれで』




