36話
俺はどうしてしまったんだ…
最近思うことがある… マリー嬢は俺のツガイなのではと。
今までどんな女からもあんな甘い匂いを感じた事はなかった。しかも 我を忘れそうになるくらい強烈な匂い… 成人に近づくに連れ、ツガイの匂いは濃くなると聞く。もしマリー嬢が香水をつけ忘れたらと考えただけでも恐ろしい… 最近は気付いたら目がマリー嬢を追っている事がある。だから、アンソニー様の護衛は極力部下に任せ、距離を取っていたのだが… 最近のマリー嬢は距離が近い。前は俺を避けるか逃げるかだったが、馴れてきたのか?怖れられているのは確かなのだが… どうしたものか… このままでは父の二の舞になってしまう… それだけは…
遥か昔、まだ龍族の村が存在する頃、俺は生まれた。
龍族の村の族長をしていた父はある時 強烈な匂いに惹き付けられ 我を忘れて飛び立った。匂いを辿り、行き着くとそこには1人の女性が水浴びをしていた。その人が後に俺の母になる人だ。母は家族と共に踊り子をしていて、またまた通りかかった龍族の村 近くの川で汗を流していた。運が悪いとしか言いようがない… その当時はまだ香水もなく、母は成人を迎えたばかりだった。母にはヒト族の恋人がいた。成人を迎えた母はこの旅が終えたらその恋人と結婚するはずだった… しかし、父のツガイだった為に国の法律上 ツガイと認められた者は結婚しなくてはならないと決められていた。それが母の全てを狂わせた…
父は母をその場で無理矢理 家族から引き離すとそのまま家に連れて帰り監禁した。母の家族も娘が龍人のツガイだと知ると諦めるしかなかった。龍人族は最も強い種族として怖れられ、ツガイへの執着も獣人族より激しいと知っていた。もし、逆らえば家族を皆殺しにしても娘を連れていくと考えたからだ。父は母をとても愛し、誰にも見せなかった。母が妊娠し、俺を産むまで…
祖母がやっと母に会えるようになった頃には母はやつれ、まるで廃人のようだった… 母は俺の面倒を見ることは一切せず、寧ろ龍人として産まれた俺を毛嫌いした。だから、俺には母との思い出がない… 最後に母と会ったのは家から飛び出し裸足で逃げ回る母の姿だった。俺を見つけると一言「ごめんなさい」と呟き、走り去った… 後に母は大好きだった男の元へ逃げようとしていたことが分かった。それを知った父は怒り狂いその男を捜したが見つからなかった。それもそうだろう… 等の昔にその男は寿命で死んでしまっていたから…
龍人族とツガイを結ぶとヒト族や獣人族は寿命が龍人族の様に長くなる。龍人族には体の一部に鱗の部分が合って、心から愛した者のみ、その鱗を飲むと寿命が長くなるという儀式があった。父は嫌がる母に無理矢理 鱗を飲ませたのだ。
男の死を知った母は狂ったように何日も泣きわめき、そしてある時 父の目を盗んで自殺した。父はそんな母の亡骸の横で自らの命をたったのだ…
龍人の父とヒト族の母の結婚は愛し合ってではなく、父の一方的な愛情と束縛によって成り立っていた。
祖母からこの話を聞かされた時は絶対にヒト族を好きになることは無いと思っていたが… まさか、俺の相手もヒト族とは… しかも、匂いではなく、マリー嬢の人間性に惹かれるとは厄介だ…
マリー嬢… 君を母のようにはさせないから…
アルフリードはこの修学旅行が終わったら、一度アンソニーと話合う事を心に決めるのであった…




