33話
「全然野宿じゃないじゃん…」
船から降りたマリーは呆然と立ち尽くした。目の前に広がるのは野宿とは程遠い光景。まさにリゾート地であった。『まあ、そうか… 金持ち学校だもんな…』
「あら、マリーどうしたの?」
「いや、あれは野宿とは言えないんじゃ…」
「まあ、そうなんですの!お風呂もシャワーしかないし、ベットも無いのよ?あんな小屋みたいな所に泊まるのだから、立派な野宿よ。」
「ちがーう!私が想像してたのと全然違うの!あっちにテント張るからそっちで過ごそうよ!ねっ?」
マリーは連れてきたスタッフと一緒に簡易テントを張る。練習したお陰で素早く張ることが出来た。
「どうよ!」
「素晴らしいね。これは騎士団の野宿にも使えるんじゃないか?なぁ、アルフリード。」
「そうですね。これなら雨風だけでなく、虫も凌げるでしょう。」
「素晴らしい!!マリー嬢、これは1つしか建てられないのかな?」
いつの間にか現れたアンソニーはマジマジとテントを見つめ、目を輝かせている。
「一応、予備にもう1つ持ってきましたけど…」
「では、君たちのテントの隣にもう1つ建ててくれ。私達もこれに泊まろう。」
「へっ?」
「何か問題でも?」
「あ、いや、問題無いです…」
『隣のテントでリード様が寝るだと… もしかしたら寝顔が拝めるかも…』マリーはスタッフと共にもう1つテントを張った。淡い期待でマリーは終始笑いが止まらなかった…
『なんで…』
マリーは火をおこそうと外に出たが、何故か隣のテントにザックとジョルズまで増えているのに驚き足を止める。『確かに広いテントだけど、あのメンバーで寝るつもり?』
「よっ!マリー。お前またすげーの作ったな。アンソニー様が喜んでるぞ!注文が殺到しそうだ。」
「ふふ~ん。今日のために頑張って作ったんだから当ったり前でしょ!で、なんでザックがそこに居るわけ?」
「アンソニー様に呼ばれたんだよ。俺が居た方がお前の連れてきたスタッフに頼み事しやすいからってな!」
『さすがアンソニー、目敏いな…』マリーは持ってきた薪に火をつける。『後は向こうでスタッフがカレーを作っているから、この飯盒で米を炊いて…一番苦労したカレーのスパイス調合。ギリギリ間に合って良かったわ。これでリード様の胃袋は鷲掴みよ!!飯盒を火に掛けて…始めちょろちょろ中ぱっぱ… と』
「いい匂いがしてきたな!開けてみてもいいか?」
ザックが飯盒を取ろうと手を出す。
「駄目!赤子泣いても蓋取るな よ!」
「お、おう…」
「出来た!カレー持ってきて頂戴。」
スタッフがカレーを運んでくるとスパイスのいい香りにつられ、みんながテーブルに集まってきた。
「いい匂いね。何かしら?」
「んっ~食欲をそそる匂いだ。始めてみる食べ物だね。」
ご飯をよそり、カレーを盛ってカレーライスの完成だ。
「どうぞ 召し上がれ。カレーライスよ。」
恐る恐る口に運ぶローズ達。
「んー!美味しい。ピリッと辛さの中に野菜の甘みが堪らないな。」
「美味しいわ。こんなスパイスの効いた料理は初めてよ。」
「癖になる美味しさです。」
『ふふ~ん。どうよ。リード様も喜んでくれているはず… あれ?』アルフリードは一口食べるとスプーンを置いてしまった。
「ア、アルフリード様… お口に合わなかったでしょうか…」
「あ、いや… 私は辛いものが苦手で…すまない。」
『失敗した…』マリーは慌ててデザートに用意していたチョコレートフォンデュをアルフリードの前に差し出す。
「アルフリード様、こちらをどうぞ!パンもありますのでお腹に貯まると思います。こうやって串に差したパンをチョコに浸して… あ~ん」
「…… まさか、食べろと?」
「し、失礼しました…」
『やだ、私ったら… 焦ってリード様にあ~んだなんて…食べるわけ無いのに』マリーは手を引っ込めようとした… が、アルフリードがその手を掴んだ。
「いや、頂こう。」
『ギャアー!リ、リード様にあ~んって!あ~んって』マリーは真っ赤になり、持っていた串を放り投げた。
「シャ、シャワーに行ってきます!ア、アルフリード様 後はお好きに召し上がってください!」マリーは逃げるようにその場を後にした。
◆◆◆
「あれ?誰もいない…」
シャワーを済ませたマリーがテントに戻るとオゼットもローズも居なくなっていた。
「何処いっちゃったんだろう?」
「マリー嬢…」
「はひっ!」
『この声は…』
テントに入ろうとしていたマリーは後ろからの声に一瞬体を強ばらせたが、固まった首を懸命に動かし声のする方へ振り向いた。
「アルフリード様…」
「先程はすまなかった… 不快な思いをさせてしまったな…」
「ふ、不快だなんてとんでもない!寧ろご褒美です」
「? そ、そうか?実は令嬢達から伝言を頼まれていてな… オゼット嬢はジョルズとローズ嬢はアンソニー様と散歩に行ってくるそうだ。だから心配しないで欲しい とな。」
「ザックは?」
「ザック殿はマリー嬢が行ってすぐ後からシャワーに行ったが会わなかったか?」
「会いませんでした…」
「そうか… マリー嬢… 私達も散歩に行かないか?」
「へっ?私と誰が?」
「私だ… 嫌ならいいんだ!忘れてくれ!では…」
「行きます!行かせてください!」
「そ、そうか… では、行こう。」
月明かりに照らされた海辺を2人で歩く… 心地よい小波の音だけが聞こえてくる。近いようで遠い距離にいるアルフリードを後ろからマリーはずっと見つめていた。




