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第29話 ベル、城へと入る。その一方で……。

 頭の中がぼんやりと霞みがかったような感覚に陥りながら、城門を守護する兵士たちは空から無数の星が降り注ぎ、地上に白く輝く花を咲かせたものを見たような気がした。

 あれは、夢だったのだろうか? それとも……。


「……うっ、い、いったいなにが……?」

「わ、わからねぇ……、朝起きたときになにかを見たような……って、何だこりゃあっ!?」

「ど……どうし――うおっ!? な、なんだこれはぁ!?」


 ぼんやりとする頭を振りながら何時の間にか倒れこんでいた兵士たちが起き上がり、周囲を確認すると……驚きに満ちた声が出てしまっていた。

 それもそうだろう。何故なら、彼らの視界の先……城下町では真っ白に輝く光の花が無数に咲いているのだから。


「い、いったいなにが……?」

「と――兎に角、俺は隊長に報告を――って、え?」

「わか――あ、ぇ……? お、女の子?」


 現在何が起きているのか分からない。分からないがとんでもないことが起きているに違いない。

 そう判断し、彼らが振り返った瞬間――フワリと空から舞い降りる者が居た。

 それは……少女だった。ゆっくりと空から舞い降りる姿に、神話の天使かと兵士たちは目を奪われる。

 だが、耳が妖人族のものよりも短く、只人族よりも長い……半端者であることに気づくと、混人であると理解したようだ。

 だから片方の兵士が少女へと嘲り交じりに詰め寄るのも当たり前だろう。


「おい、貴様ここで何をしている! 混人風情がこのような場所に来てもいいと思っているのか!? おい、聞いているのかっ!!」

「…………そこのあなた、邪魔をしないでもらえますか?」

「なっ!? き、貴様ァ……! 混人の分際でぇ……!!」


 少女の言葉に兵士は苛立ったようで手に持つ槍を少女に向け、突き刺そうとする。

 だがそれよりも速く城のほうから複数の悲鳴が響き渡った。


「「っっ!? な、何が――って、おいっ!?」」

「あなたたちに構っている暇は無いの。だから、ついてきたいならついてきなさい」


 そう少女が兵士に告げると苛立った兵士からの突きが放たれるよりも速く、少女は素早く駆け出した。

 兵士たちは持ち場を離れるべきではない。そう考えたのだろうが、城から聞こえた悲鳴が気になったのと少女を取り押さえることを考え、彼らは城の中へと駆け出して行った。

 しかし、少女の姿は既に彼らよりも遠く離れており、しかも向かう場所は謁見の間だと理解出来た。


「くそっ!? な、何なんだよあの混人はっ!? あの速度は異常だろッ!!」

「な、何か魔法でも使ってるんじゃないのか……! ぜぇぜぇ……、ああくそっ鎧が重過ぎるっての!!」


 文句を言いながら必死に走り、兵士たちはようやく謁見の間へと辿り着くと悲鳴を聞きつけたであろう他の兵士たちも開け放たれた扉の前に立っていた。


「お、おいっ! なんか変な混人のガキが来なかったかっ!?」

「あ、ああ……来ているし、謁見の間に入ってる」

「だったら取り押さえろよ! 何で誰も動かないんだよッ!?」

「わ……わかってる。分かってるけど……」


 苛立ちながら話しかける城門の兵士に対し、戸惑いながら違う箇所の兵士が体を動かし……中を見てみろと言う風に合図を送る。

 きっとそこに答えがある。それを理解し、城門の兵士たちは中を見……そして、固まった。


「な、なんだあれは……?」


 戸惑った声を上げる彼らの言葉は周囲に響く。

 だが戸惑うのは当たり前だろう。何故なら、謁見の間の玉座の周囲には顔を手で覆い蹲る女性たち……そして穴だらけの不気味な人型が玉座に持たれかかっていたのだから……。

 そして、そんな彼女たちの前に少女は立っていた。


「……って、あれは……へ、陛下!?」

「え、ほ、本当かっ!?」


 一人の兵士が驚きある方向に指を指す。

 そこでは今目が覚めたと言わんばかりに、ゴールドソウル国王オスカード=ゴールドソウルが起き上がるのが見えた。


「あ、あの混人……まさか、陛下のお命を……」

「そ……そんな……!?」

「な、何をしてるんだ! 速くあいつを取り押さえろっ!!」


 それを見ていた兵士がポツリとそう口にした瞬間、彼らは焦りを見せ始め……一斉に少女に向けて詰め寄り始める。

 そして兵士たちが少女を捉えようと手を伸ばした瞬間――国王オスカードの静止の声が響いた。


「皆の者動くなっ! そして直ちにその場で直立せよ!!」

「「っ!? は、はっ!!」」


 王の言葉は絶対。なので、王の声に従い少女に手を伸ばそうとしていた彼らは動きを止め、即座にその場でピンと立った。

 それを見届けていた王はふぅと安堵の息を漏らし、少女に向けて膝を突いた。

 直後、周囲からどよめきが起こる。……が、王が口を開いた瞬間、膝を突いた理由を知った。


「賢者様……、兵たちのご無礼をお許しください。……そして、いったい……何が?」

『っ!!? け、けん……じゃ?』


 王の言葉に彼らは耳を疑った。だが、目の前の王が嘘をつくはずがない。

 だから、目の前の少女は賢者であると兵たちは理解した。

 そして……賢者と呼ばれた少女、ベルは口を開く。


「被害は無いので……無礼は許します。が、混人差別意識はどうにもならないみたいですね……。さて、何があったか、ですね? 簡単に言うと……っと、失礼。先に彼女たちを診ても良いかしら?」

「わ……わかりました」


 蹲る女性たちをベルが見ると、王は頷く。

 普通はきっと一国の王を蔑ろにする様な行為に怒るところだろうが、賢者の実力を一度でも聞いていればそれを行う勇気は湧かない。

 というよりも、王も兵士も理解した。目の前の……玉座にもたれかかるように死んでいるであろうその異形を何とかしたのは目の前の人物であると……。

 だから王も震えながらも頷いたのだ。そして、それを見届けてからベルは蹲る女性一人一人を声を掛けながら顔を上げさせ、まじまじと彼女たちの眼を診ていく。

 そして最終的に、何処からか瓶に入れられた液体を取り出すとそれらを女性たちの目に落としていった。

 ……当然、女性たちの中には拒絶する者も居たが、断れるわけが無く歯をカチカチと鳴らしながら液体を受け入れていった。


「……とりあえず、百目による汚染は無し。そして殆どは眼の乾き……ってところかしら。あなたたちには目薬を点したから一日は安静にしていてちょうだい。兵士さんたち、彼女たちを休める場所に連れて行ってあげてください」

「「は、はっ!!」」


 ベルが診察を終え、彼女たちに変わったところはないと判断したのかそう告げる。

 そして彼女の命令に兵士たちが断れるはずも無く、急いで女性たちを担ぐと謁見の間から出て行った。

 閉じられた謁見の間……中に残ったのはベル、王、そして玉座に持たれたアレ。

 先ほどまでの緊迫した雰囲気は消え去り、王は恐る恐るベルへと尋ねる。


「ひゃくめ……、と言うのはそこにいる……あれの名前、でしょうか?」

「ええそうよ。魔人族の百目、それがアレの種族と種類ね。特性はアレの目を見ての暗示と催眠、血でもいけるわよ?」

「……ま、まじんぞく……魔人族ですとっ!?」


 ベルの言葉を繰り返すように呟いていた王だったが、信じられないとばかりにもう一度問いかけるように聞いてきた。

 当たり前だ。魔人族は地上に住む者たちの天敵で、目の前の賢者を連れた勇者たちが退治したはずなのだから……。


「良い機会だから教えておいて上げるわ。あの勇者たち、魔王を倒して魔人族を滅ぼしたって思ってたみたいだけど、奴らは地下が住処だったから地上侵略に出たのを倒して満足してただけなの」

「は……? い、いまなんと……?」

「だから、魔王はただの尖兵。本命は地下に篭ってるって言ってるの。まあ信じたくないなら信じなくても良いわ。けど、近い将来……また魔人族が現れるでしょうね」


 信じられない。そう王の顔に表示されているのを見ながら、ベルはハッキリと告げる。

 そのとんでもない事実を聞かされながら、王は激しいショックに頭痛を覚えつつ……必死に言葉を搾り出す。


「で、では、これは……魔人族からの、攻撃……でしょうか?」

「いいえ、違うわよ。これはただ単に派遣されただけよ。豚のような馬鹿女の側にいる只人に扮した魔人族にね……」

「ぶ、豚のような馬鹿女……? ――っ!? ま、まさか……」


 少しばかり苛立つようなベルの声に怯えつつも王は彼女の話を聞いていた。

 だがこの国へと魔人族を手引きした者の主の容姿を口にすると誰なのか即座に理解出来てしまったようだ。

 というか、父親でさえも豚のような馬鹿と思ってしまっていたようだ。


「どうやらその馬鹿が登場のようね……」


 ドスドスと響いてくる足音にベルは呟く。

 直後――、バンッと力強く閉じられた扉が開かれ、一頭のドレスを着た豚が立っていた。

 いや、違う。肥え太った女だ。


「お父様! 賢者を名乗る混人が居ると聞きましたが何処に居ますのっ!?」


 鼻息荒く女は周りを見渡しながら叫ぶようにそう言った。

 それを見ながら、王はこれから起きるであろう出来事に恐怖しつつベルへと視線を移す。


「け、賢者様……」

「……安心なさい、私は特に何もするつもりはありませんから。……私からは、ね」


























 ◆◇◆◇◆◇◆◇

















 ――その頃、クラリスのタンスの中で、ディックはクラリスと共に息を殺しながらジッとしていた。


 声を出したり気配を出してしまったら、今現在家の中(・・・)へと入り込んできたあの化け物たちに自分たちの居場所が知られてしまう。

 そう必死に思いながらディックは必死に息を押し殺す。

 その不安はクラリスにも伝わってきたらしく、心配そうに彼女はディックを見つめる。


『でぃ、でぃっくおにちゃん……』

「だ、だいじょうぶだ……、ジッとしてろよ……」

『ぅん……』


 彼女を心配させまいと、精一杯口元に笑みを作りながらディックは声を掛け……、クラリスは頷く。

 何時も元気な笑顔を見せる彼女の顔が、今は心配と恐怖に彩られているのか……とても不安そうに見える。

 そして部屋の扉が開けられる音が聞こえ、2人は互いにギュッと服を無意識に握り締める。


『はいはい、どこですかぁ~? クソガキどもぉ! 大人しく出てきたら何もしねぇ――よっ!』


 バキャッ! という音がタンス越しに聞こえ、音からきっとベッドを蹴り壊したのかも知れないという不安が胸に募る。

 その後にも幾つも破砕音が響き、机が壊されたのだろう。

 椅子が壊れたのだろう……。

 クラリスの部屋が壊されている。きっと自分の部屋も同じように……。

 そう不安と恐怖に駆られながら、速く出て行ってくれと心から思っていた。

 ……が、ディックは気づいた。クラリスの顔が悲しみに歪み、涙を流しそうになっているのか瞳が濡れていることに。


(あ……。そう、だった。クラリスが、きれいにしたんだ……この部屋も、家のなかも……)


 だから悲しいのだろう、泣きそうになっているのだろう。

 なんで、なんでこんなことをするのか、何で……!

 笑いながら部屋の物を壊していく男の声を聞きながら、ディックはクラリスの手を握る。


『でぃっく、おにちゃん?』

「あ、あいつらが、あいつらが帰ったら……部屋、なおそうな……」

『う、ぅん……うん』


 小声で約束をすると、クラリスは頷き……涙を引っ込める。

 そして、探しても探しても見つからなかったのだろう。男は諦めたのか、ドアを閉める音が聞こえ……靴音も遠ざかっていく。

 その音を聞きながら、ディックとクラリスは無意識にホッと息を吐いた――瞬間。


「――はいはい、クソガキども見ぃつけましたよぉ……! クヒヒ!!」


 開かれたタンスの扉から射し込む光、その光によって増えた影で部屋を破壊していた化け物(男たち)の顔は見えない。


 ただ、歪んだ口元だけが、見えた……。

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