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第28話 ベル、奮闘する。

 ゴールドソウル王都、その日も何時もと同じように教会に設置された鐘の響く音から朝が始まり、市場が活気付く……はずだった。

 だった。というのは何故かというと……何時もならば市場で店を開くはずだった者たちは皆、店の設営を行わず呆然とその場に立っており……その表情はまるで人形のように感情が抜け落ちていた。

 その異様な光景に気づいた者たちが恐る恐る何かあるのかと好奇心交じりに顔を市場へと覗かせると……そこには壁一面に貼られた羊皮紙があり、それが視線に入った瞬間――彼らと同じようにその場で突っ立てしまっていた。

 そして何も知らない者たちが同じように驚き、何があったのかを見てしまい、立ち尽くすようになってしまい、その様子に気づいた家の中にいる住民たちも窓から覗くと……同じように羊皮紙を見てしまい催眠状態へと陥り、部屋の中で立ち尽くしてしまっていた。


 また、平民が生活をする住宅街では虚ろな表情をした兵士が数名表れ、立て札を立てて行く。

 その掲示された物が何かを見るために住民たちが近づき、それ――血文字の書かれた羊皮紙――を視界に捉えた瞬間、彼らも人形のように立ち尽くしてしまっていた。

 彼らの様子に気づいた近所の住人が心配するように声を掛け、いったい何があったのかと周囲を見渡すと、羊皮紙を視界に入れてしまい……同じように人形のように感情が抜け落ちてその場に立ち尽くすようになってしまっていた。

 しかも老若男女関係なくだ……いや、一歳にも満たない赤子は催眠を受けていないようだが……異様な状況に気づいたのか、それともあやしてくれる者が居ないからか泣き始めるのだが、親からの反応は無く……延々と部屋に泣き声が響き渡るのだった。


 そんな光景が王都の様々な場所で一斉に起き、ゴールドソウル王都の機能は停止した……かに思われたが、不意に何かに動かされるように住民たちは一斉に歩き出した。

 一斉に歩き出した場所、そこには既に人形と成り果てた城の兵士たちが城の武器庫や武器屋で用意した武器が用意されており、彼らはそれを掴んでいった。

 男たちは剣を取り、女たちは槍を取り、子供や老人たちは短剣などを取っていった……、そして武器が無くなれば鎌や鍬といった農具を手に取り……まるで何かを待つように準備を始める。

 そんな中、屈強な男や冒険者や傭兵と言った戦うのに適した者たちが武器と共に血文字が書かれた羊皮紙を手に取るとゆっくりと歩き出し、街の外へと向かっていく。


「お、おいっ、どうしたんだっ!? 停まれとま――あ…………」


 一斉に近づいてくる彼らの存在に気づいた門を守護する衛兵たちが驚いた声を上げながら、手を広げて静止を促そうとする……が、羊皮紙を見た瞬間彼らも人形の仲間入りとなった。

 そして百目の血で文字が書かれた羊皮紙はゴールドソウル中の町や村へと運ばれ、それを見た者たちが物言わぬ……いや、百目の傀儡となる――はずだった。


 ――ビュオンッ!


 ……そう表現しても良いような音が何処からか聞こえ、その音の発生源は王都周辺の町や村に向かおうとしていた屈強な男や冒険者、傭兵が手に丸めて持っていた羊皮紙を撃ち抜いた。

 直後、ボッ!――と羊皮紙が燃え上がり、瞬く間にそれを灰に変えていった。

 しかもそれが起きたのはゴールドソウル(・・・・・・・)全ての地域(・・・・・)であり、既に村や町に到着し……門を護る衛兵に向けて広げようとしていた羊皮紙が撃ち抜かれ、燃え上がった……。まだ辿り着かない山道を走り抜けながら握り締められていた羊皮紙が撃ち抜かれ、燃え上がる……。

 そして、ゴールドソウル王都内の壁や立て札に貼られた羊皮紙が撃ち抜かれ、燃え上がった。


 それは外も中も関係なく、百目の血が使われ文字が書かれた羊皮紙は全て撃ち抜かれ……一斉に燃え上がった。

 その……天空から降り注いだ、数百、数千の熱線によって……。

 更に熱線は的確に言うと、羊皮紙のみを狙い撃ち……それらを燃やした直後にパンッと自身の光を膨れ上がらせ……弾け飛んだ。

 すると綺麗な花の様な光が咲き誇り、その光を浴びた者たちは……。


「…………うっ、い、いったいなにが起き……うわっ!? ここ何処だよっ!?」

「市場に行こうとしてたはずなのに……何でこんな所に?!」

「あ、あしがいてぇーーーー! って、山道じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!」


 突如、人形のように何の反応も示さずに走り続けていた彼らが立ち止まり、周囲を見渡し……戸惑いを隠せないまま声を上げる。

 またある者は歩き慣れていなかったのか、ズキズキと痛み始める足を押さえて悲鳴を上げる。

 またある者は目の前で自分に声を掛ける衛兵にどう反応すれば良いのか分からないのか愛想笑いを浮かべていた。

 また別の場所……赤子が泣き続ける部屋の中では……。


「あ、あら……? わたし、いったい……って、あらあら、どうしたの?」

「ふぎゃ~~~~っ! ふぎゃ…………きゃっきゃっ♪」


 泣き続ける我が子の存在に気づき、母親が心配そうに抱き抱えると元の……何時もと同じ母親に戻ったことに気づいたようで赤子は泣き止み笑顔をなった。

 更にその子の瞳には光り輝く無数の花が見えており、忘れられない記憶となっていただろう。


「………………ふ、ぅ……。なんとか、なりましたか……うっ!」


 静寂から一変、戸惑いが聞こえる声が地上から聞こえるのをベルは杖を下ろしながら安堵の息を吐く。

 直後、視界がぐらつき意識が刈り取られそうになるのを彼女は感じた。

 だから彼女は即座にゴールドソウル城の天辺の急勾配の斜面に腰を下ろすと、空間から1本の瓶を取り出した。


「あまり、これにたよりたくないのですが……いまは、きんきゅうじたい……んご、ごくっ……んぶっ!? ご、んぐ、ごく……!」


 毒々しい色をした液体を口の中に流し込む、直後――口の中を襲うのは強烈な吐き気。

 それもそのはずだ。口の中に今感じるのは強烈な薬なのか毒なのか分からない、吐き気を催すような味なのだから。

 一瞬、馬のマスクを被った男が様々な栄養ドリンクを煮込んで飲んで吐いたと言う遠い過去に見た思い出が過ぎるのだが今は関係ない。

 今大事なのは減り過ぎた魔力を回復させるのが優先なのだ。

 だから吐きそうなのを堪えながらベルは地獄のドリンク……急速魔力超回復薬・気付け味を飲み干していく。


 そして数分後……、何とか魔力回復薬を飲み終え酷い表情を浮かべていたが、体内の魔力が回復しているのを自覚出来た。


「ふ、ぅ……、それじゃあ、百目に会いに行こうかしら」


 口元から垂れる毒々しい液体を拭いながら、ベルはゆっくりと体を宙に浮かせ地上に降りると……そのまま城の中へと入っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 地上に要る同胞――ゴブリンのアランから力を貸して欲しいと言う報せがデスマンドラゴラのラーウネと百目のヒャクメへと届いたのは数日前のことだった。

 元々地上に行きたいと思っていた2人はこれをチャンスと考え、彼らの先祖が地上で暮らしていた拠点跡地から地上へと上がるとすぐさまゴールドソウル王都へと向かった。

 合流したアランから何をするのかを聞き、ラーウネは賢者の根城を攻め込むための駒集めを始め、ヒャクメは混乱を起こすために自身の血を使い羊皮紙に『賢者が現れたら全力で殺せ』と言う念を込めて出鱈目な文字を書いた。

 そして、作戦が決行される日――、事前に賢者と繋がっていると言われるアキンドー商会に大量の回復薬の注文を王女に出させ、わざと賢者を根城から追い出した。

 それを使い魔越しに見ていたアランは意気揚々とラーウネと共に賢者不在の森を進むのをヒャクメは、王城で見ていた。


『ブオオオオッ、ブオオオオオオオオッ!!』


 作戦は完璧、そして憎き賢者は民衆に襲われ八つ裂きとなる。

 そしてゴールドソウルと言う国は自分たち魔人族の手に落ちるのだ。そう思うと勝利の美酒といわんばかりに玉座に座るヒャクメは前祝代わりに周囲に女性を侍らす。

 人型をし、鼻や口が無い変わりに体中に眼、眼、眼を持つ百目。その彼は侍らせた女性たちにいつもは閉じられている大事な場所を、目の近くへ大きく開かせていた。

 無機質な表情をしながら、大事な場所……両手を使って押し広げられた、両目をヒャクメは興奮しながら見ていた。


(はぁはぁ……、綺麗な眼だぁ。魔人族には無い、白い眼球に色々な瞳……あぁ、素晴らしい。素晴らしいなぁ……!)


 口が無いため喋れず、妙な鳴き声のような何かを口にするヒャクメだが、きちんと物事は考えているようで興奮しながら女性……主に給仕の女性たちの広げられた眼を興奮しながら数時間も見ていた。

 ちなみに王女? あんな濁った瞳は要らない。だそうだ。

 そして、まばたきをせず目を開き続けている状態の女性たちの眼は乾き始めているようで、角膜がかさつき始めているのだが……ヒャクメは一向に目を閉じさせはしない。

 まだまだ見ていたいからだ。


 ――空に煌く無数の星星よ――。


 声がした。

 周囲に響き渡るような、腹の底から寒気がする様な声がした。


 ――其は破壊を司りし星、其は再生を司りし星――。


 嫌な予感がし始めた。何故だか分からないが、逃げるべきだ。

 そうヒャクメは思い始めた。


 ――我は求む、破壊と再生の星星を――。


 ゴールドソウル王都中に広がるほどの巨大な魔方陣が空に広がる。

 あれはヤバイ、危険な物だ。

 それを直感で理解したヒャクメは玉座から立ち上がり、逃げようとする。

 だが、自らが侍らせた女たちによって逃げることが出来ない。


『ゴォォォォォォォォッ!! ブゴォォォォォォ!!』


 まるで退けと言うようにヒャクメは叫ぶ。

 だが、その前に歌うように紡がれた詠唱は完了した。


 ――叫べ、そして病みし者たちを癒せ……『シューティングスタースクリーム&ヒーリング』――


 直後、魔方陣から無数の小さな光の奔流……まるで光り輝く流れ星が降り注ぐように地上に向けて放たれた。

 そして何処彼処から響き渡る軽い炸裂音と光の花。

 城下で起きているそれにヒャクメは怯え始めるが、逃げることは出来ない。


 何故なら、無数の流星が彼へと迫っていったのだから……。


 ……そして、激しい炸裂音と巨大な光の花がゴールドソウル城を包んだ瞬間、ヒャクメの人生は終わりを告げた。

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