第8話
決勝の相手は、シルバー王国でも剣の使い手として有名な家の子息だった。
ついでに言うと、優勝候補の筆頭でもある。
僕が見たところ、剣だけでも充分Bランクの力はある。
今までの相手は、わざと負けるには相手との実力差がありすぎた。
相手にわざと負けたとばれると余計に怒りを買うと思ったので普通に戦ったのだが、この相手なら、わざと負けなくても実力で負けるだろう。
決勝戦の試合の結果は、僕の負け。
ものの数合打ち合って、相手の勢いの強さに僕が剣を落としてしまった。
力も技も、相手の方が上。
僕も納得の負けだった。
周りの観客からも、やっと僕が負けたか、という声が聞こえてきた。
そもそも僕はナスの代理であるし、ナスも僕も、こういった行事では勝ち進んではいけない寮と見なされている。
良くはないのだろうけど、郷に入っては郷に従えだ。
僕は構わない。
こうして代理ではあるけれど、準優勝という成績を取ることになった。
目立たないでおこうと思ったのになぁ。
そして表彰式では、一位から三位までの者に、大会の主催者が手ずから表彰状を渡すことになっている。
ここで、少しハプニングが起きた。
本来は、アカデミーを管理している教育卿が行う予定なのだが、今回は大将軍シェーラが参加している。
なので、大将軍シェーラが渡す可能性があるのではないかと、優勝者が言い出したのだ。
僕には特に深い感激はないが、他の人たちはそうではないようで、少し興奮気味になっている。
他から、
「ちくしょうめ、羨ましくって仕方ないぜ!!」
といった声も聞こえてくる。
ところが、やはり教育卿が壇上に立った。
それを見て、隣からため息がこぼれる声が聞こえた。
「優勝者は、前へ」
司会者が進行を始めた。
優勝者はおとなしく壇上に上がり、教育卿から表彰状と剣をもらっていた。
どうやら、剣術大会の優勝者には剣が渡されるようだ。
その剣には付与魔法が施されており、非常に貴重なものだという。
優勝者が壇上から降りてくる。
次は僕の番だろう。
「二位の者、前へ」
その言葉を聞いて、僕は壇上に上がった。
先ほどと同じく、教育卿が表彰状と剣を僕に渡そうとする。
ところがそのとき、シェラがいつの間にか壇上に立っていた。
そして教育卿から表彰状と剣を奪い取り、そのまま僕に渡してきたのだ。
その振る舞いに、周囲は驚くばかり。
優勝者の、
「なぜあいつが!!」
という声も聞こえてきた。
だが、そんな声を無視して、シェラは言う。
「麗しきご主人様、どうぞ、こちらへ」
シェラが僕に近づくよう促す。
仕方なく近づくと、シェラは僕の手をしっかり握り締め、表彰状と剣を渡す素振りをしながら、なかなか手を離さない。
・・・・・・・・。
・・・・。
・・・・まだ、シェラは僕の手を握っている。
いや、いつの間にか手ではなく、身体をまさぐられている。
顔をちらりと見る。
黒い兜を付けているので表情は分からないが、なんだかハアハアという声が聞こえる。
(ハアハア、今、私はご主人様とつながっている。公の場でご主人様の身体に堂々と触れる機会など、めったにない。ああ、この時を与えてくださった創造神様に感謝を!!)
(そんなもの、与えておりませんけどね)
(ああ、いっそこの大観衆の前で、ご主人様のものであるという証を刻まれるというのはどうでしょう。想像するだけで、ああっ)
シェラが勝手に感極まった声を上げたので、僕は小声で言った。
「また、ろくでもないこと考えているでしょ」
だが、うっとりした視線しか返ってこない。
ざわざわ。
ざわざわ。
「あいつ、大将軍シェーラ様とどういう関係なんだ?」
そろそろ周りがうるさくなってきた。
「あの、そろそろ離して欲しいんだけど」
そう言って、やっと名残惜しそうに離してくれた。
その間、国王も大臣たちも、生徒も、その場にいる全員が羨ましそうに僕とシェラを見ていた。
「は、し、失礼しました。進行を続けます。第三位の方、壇上に上がってください」
我に返った司会が、進行を再開した。
しかし、気づくとシェラは壇上からいなくなっており、残りは教育卿が渡すことになった。
三位の人は、死んだような目をして受け取っていた。
剣術大会は終わった。
会場から、国王以下、大臣や来賓者が退席した。
僕たち生徒も、その後に解散の流れとなる。
僕がぼんやりと剣術大会の余韻にひたっていると、ラナンが寄ってきた。
「ねえ、君って大将軍シェーラ様に気に入られているのかい?」
相変わらず、ラナンはストレートに聞いてくるな。
コミュ力高し。
まあ、あんな行動を見せられたら、仲を勘ぐられても仕方ない。
ちなみにシェラは、すでに僕の従者として僕の側に戻っている。
目立たないようにしているので、誰も気づかないが。
「さあ、どうだろう?きっと、文官科の僕が準優勝になったので、労ってくれたんじゃないかな?」
「ふ~ん」
ラナンは疑いの目を向けてくるが、それ以上は何も言わなかった。
剣術大会が終わると、しばらく行事はない。
再び、講座を受ける毎日となる。
課題も多いが、やりがいがある。
僕はこういった勉強が好きみたいだ。
以前と変わったことといえば、エルマール男爵家の評判が上がったことだろう。
一緒に歩いていても、令嬢からの誘いが段違いに増えた。
アイベックス・エルマール男爵は、そのたびにぼやく。
「どうも、手のひら返しをされて困ります。実は我が家は男爵家ではありますが、領地は豊かで税金も多く取れます。以前ほどではないですが、父が王国の会議を牛耳っていた時のコネも少しばかり生きているので、低位貴族から見たら優良物件らしいです」
だから、男爵、子爵、伯爵家が縁を結びたがっているのだとか。
貴族ってのは、状況が良くなっても悪くなっても、気苦労の絶えない人種なんだな。
それに、僕にとって貴族は、できれば避けたい存在だ。
功績を挙げたのに横取りされ、冤罪までふっかけてこられたことだって、何回もある。
「アイベックス、僕はいいけど、君は僕たちと一緒にいていいのかい?僕たち平民だぞ」
それとなく聞いてみた。
ところが、男爵は気色ばんで言う。
「何を言いますか!我が家の立場が悪かった時、助けてくれたのはナスとあなただけです」
「ほかの人は、とても信用できません」
「むしろ、お二方にどうやって私のこの感謝の気持ちを伝えようか、考えているところです!!」
僕はその言葉を聞いて嬉しく思ったが、同時に不安でもあった。
ナスも驚いた顔で言う。
「お、おう、そうか。まあ、気にするな。ああいう弱い者いじめは放っておけない性質でな」
僕も続ける。
「親友のナスに頼まれたからってのもあるし、せっかく貴族としての信用が戻ったんだから、僕たちに気兼ねすることなく人脈を作った方がいいよ」
「いいえ。嫌です。人から受けた恩には恩で返す。これが貴族の矜持。私は今後、あなたたちと行動をともにします」
アイベックスは、きっぱりそう言った。
そして思い出したという表情で、男爵が口を開く。
「ところで、パーティの申請はしないんですか?確か、剣術大会で高い成績を上げた人はパーティを組むことができると聞いていますが」
パーティを組む?
冒険者じゃあるまいし。
組んでどうするんだろう?
ふーむ。
パーティを組むのが、アカデミーの慣習の一つなのかもしれない。
郷に入っては郷に従えだ。
分からないことは、後でラナンに聞いてみよう。
夜。
ラナンに、パーティのことについて詳しく聞いてみた。
「ああ、そうだね。君もナスくんも、パーティを組む資格は得られているかもね。でも、『シルバーの栄光』寮にいる者はいままでパーティを組んだことがないから、監督生も伝え忘れているのかもしれないな」
どうやら、学業や大会などで優秀な成績を上げた者は、所属の科や寮を無視してパーティを作り、成績の共有をすることが許されているらしい。
なので、パーティを組む資格を得た者は、一芸に秀でている生徒や総合的に優秀な能力を持っている生徒、家柄や寄り親、寄り子の関係などを考慮して結びつくことが多いという。
「まだ正式に許可が下りていないので、焦ることはないよ」
そうラナンに言われたので、ひとまず考えないことにした。




