第6話
「話がある。君たち、一緒にこちらへ来てもらおうか」
講座がすべて終わり、寮へ戻ろうかというときだった。
僕とナス、それにアイベックス・エルマール男爵の三人がそろっているところへ、声をかけられた。
顔を上げると、そこには四人の貴族の子息らしき人物がいる。
一人は、アキレア・クローバー侯爵子息。
もう一人は、シザンサス。
たしか、領主科で「大将軍の兜」寮長だったと思う。
あとの二人は知らない人だ。
少し遠くには、心配そうな顔をしているラナンも見える。
話を聞くと、この四人はそれぞれの寮の寮長だという。
そんな人たちが僕たちの前に現れて、一緒に来いというのだ。
悪い予感しかしない。
そばにいるアイベックス・エルマール男爵は、もう顔色が悪い。
ナスが確認する。
「それは、俺たち三人に、てことでいいすか?」
「うん。君たち三人そろってで構わない。一緒に来てもらおう」
「分かりました。ついていきます」
そう言って、僕たちは言われた通りについていくことにした。
通された部屋は、立派な装飾がついた豪華な部屋だった。
あとでラナンに聞くと、寮長会議といって、各寮長が話し合うのに使う部屋だという。
生徒自治を重んじるアカデミー高等部では、首脳会議という扱いになるとか。
そんなところへ呼ばれたものだから、アイベックス・エルマール男爵だけでなく、僕もナスも顔色が悪くなっている。
なんか、悪いことをしたから断罪されるのかな。
そんな僕たちを見てにやにやしながら、アキレア・クローバー侯爵子息が口を開く。
「特政枠クン。君には非常に期待していたのだけど、残念な結果になったね。先の件で、君たちの評判が非常に悪くなった。そう、シルバー王国の看板に泥を塗るぐらいね」
「・・・・どういう意味でしょうか?」
「先だって、女生徒から婚約破棄を叫ばれたと聞いている。真偽はともかく、生徒の間で非常に噂になっていてね。それが、プラチナ帝国から来た留学生の耳にも入っているのだよ」
「これがいかにまずいことかは、君にも分かるよね?」
僕は静かにうなずいた。
「そのことを憂慮した、このアカデミーを管轄する教育卿サフラン伯爵が、内務卿に相談してね」
「噂の三人を一時、登校停止にしてはどうか、ということになったのだ」
「そんな一方的な!!」
ナスは声を上げたが、聞いてはくれない。
「もちろん、女生徒が誰かは調べている。だが、そういう噂が帝国の留学生の耳に入った、ということが問題視されているのだよ」
「人の口に戸は立てられないのでね。君たちを守るための措置でもあると理解してほしい」
僕は言われたことを黙って聞いていた。
理屈では分かる。
噂が広がるというのは、貴族社会では致命的なのだ。
そして、プラチナ帝国に対して体面を守るということも理解できる。
僕もナスも、登校停止についてはダメージを受けないだろう。
もともと平民だし。
評判も気にしないし。
だけど、このまま黙ってはいられない。
「あの~。少し反論していいですか?」
僕が手を挙げると、アキレア・クローバー侯爵子息は胡乱な目で見てきた。
「要するに、留学生たちに誤解されるから、なんですよね?じゃあ、留学生たちに誤解されないよう説明します。僕が」
「それじゃダメですか?」
一瞬、きょとんとした目をしたアキレア・クローバー侯爵子息は、
「ダメに決まっているだろう!!」
と叫んだ。
「それに、今回のことはそれだけじゃない。エルマール男爵。君をシルバー王国の貴族から追放することが目的だ」
エルマール男爵家が憎まれているとは聞いていた。
けれど、こうもはっきりと言われると辛い。
アイベックス・エルマール男爵は、もう立っていられないのか膝をついている。
「ちょっと待ってください!!それこそおかしいです。エルマール家は確かに罪を犯したかもしれませんが、すでに罰を受けたはずです。なのに追放だなんて、これじゃリンチでしょ?」
「シルバー王国は弱い立場の者を守る国、じゃなかったんですか。これだと弱い者いじめと同じに見えます」
僕が言い終わった後、しばらく静寂が漂った。
しばらくして、アキレア・クローバー侯爵子息は口を開く。
「なら、こうしよう。来週の剣術大会。これは大きな行事なので、国王陛下以下、大臣も出席なされる」
「シルバー王国の重鎮の方々が並ぶその場で、大将軍シェーラ様がお戻りになり、かつ、エルマール男爵家を許すと宣言なされれば――」
「私たちも、今回のことをこれ以上追及する必要がなくなる。皆もそう思わないか?」
そう言って、アキレア・クローバー侯爵子息は残りの三人の寮長を見渡した。
「ちょっと待て!!それこそリンチじゃないか。大将軍シェーラ様がお戻りになることが条件だと?そんなの不可能に決まっているじゃないか!!」
そう発言したのは、「大将軍の兜」寮長シザンサスだ。
この横暴な提案に反論してくれる人が、せめて一人でもいてくれたことが救いだ。
しかし、その提案に対して僕は、
「分かりました」
と言い切った。
「はあ!?」
「おい、ちょっと待て!」
アキレア・クローバー侯爵子息以外の寮長たちは目を剥いて止めようとしたが、僕はそれを押し切る。
「いいでしょう。大将軍シェーラ様を剣術大会までに連れてきます。これで、エルマール男爵に何も言わないでください。これは契約です」
僕はそう言い切り、アイベックス・エルマール男爵に向き直った。
「そんなわけだから。大将軍シェーラを必ず連れてくる。君ももう前を向くんだ。大将軍シェーラは、君のことを許すと思う」
そして、剣術大会当日。
僕は応援席に座っている。
隣にはラナンもいる。
「シルバーの栄光」寮は、ほとんど勝つ気がない人ばかりだ。
なので、僕たちは友人のナスを応援すると決めていた。
ナスは騎士科志望なので、この剣術大会でいい成績を残すと、卒業後の進路に有利に働くという。
これは応援せずばなるまい。
僕はそう思って、応援する気満々でいた。
アカデミー主催の剣術大会は、格式ある行事である。
いつもは管轄大臣である教育卿のサフラン伯爵が、開会の挨拶をする決まりだ。
ところが、壇上に立ったのは教育卿サフラン伯爵ではなかった。
「おい。あの御姿はまさか!!」
「ひぃ!!俺、初めて見たよ」
「こんなことって。私、お父様に自慢しちゃうわ」
ざわざわざわ。
ざわざわざわ。
壇上には、伝説の英雄が立っていたのだ。




