第10話
その声のする方を見れば、そこにいたのはモゴロド教授だった。
僕は思わず、教授に声をかけた。
「モゴロド教授!?大丈夫でしたか」
「大丈夫?大丈夫ではないな。お主がいると、わしの計画が崩れる。お主にはこの場から退場してもらいたいのじゃよ」
「何を言っているのですか?」
「察しの鈍いやつだ。この魔導人形を動かしているのはわしよ。わしがすべての黒幕よ」
「大将軍シェーラ様に目をかけてもらっているお前なら、何らかの影響があると思い、遺跡で魔導人形を襲わせたのもわしじゃよ」
「案の定、お主は大量の魔導人形が格納されている場所を見つけ出しおった。そこを忠実なわしのしもべ、ダオにつけさせたのよ」
「しかし、切れ者のジングートをだましきれず、わしが魔導人形を引き取った体にしたのだ」
「な、なぜ、そんなことを?!」
「ふん!その理由はな。わしは闇ギルドの幹部の一人なのだ。そう言えば分かるか?わしの本当の正体は、闇ギルドのモゴロドよ」
「そしてダオは魔族よ。あやつの親は、魔族というだけで差別を受け殺された。その恨みを、わしが引き受けたのだ」
「実はわしもエルフ族で長命よ。長年、シルバー王国に恨みを抱いてきた。じゃが、大将軍シェーラ様がいる間は手出しできなんだのじゃ」
「しかし数年前から、大将軍シェーラ様はシルバー王国からいなくなった。これはわしにとって、チャンスがやって来たということなのだ」
「わしはすぐさま手を回し、日頃から不満を持っていたクローバー侯爵と結託し、プラチナ帝国の不満分子と協定を結んで、クーデターを起こさせた」
「じゃが!!あの、エボニー砦!!あれさえ落としていれば、計画は成功したはずだ。それを防いだのがきさま!きさまらしいな」
モゴロド教授は憎々しげな表情で、僕を指さす。
そう、1年ほど前に、僕はエボニー砦で指揮をとり、五千のクラウド王国軍を相手に勝ったのだ。
だけど、あれも本当はシェラの活躍のおかげなんだけど。
「エボニー砦の奇跡と、世間では言うらしい。まさしく奇跡よ。どう考えても負けるはずがなかったのだ。それをひっくり返すなど。ありえん」
「いや、あり得るとしたら、大将軍ぐらいでないと・・・・。まさか?」
そのとき、シェラが認識阻害魔法を解除し、姿を現す。
「そのまさかよ!!」
「わたくしがこちらにいるご主人様のご命令のもと、ほんのちょっと手助けをしたのです」
「ですが、ライラック将軍を討ち取ったのはご主人様のお力」
「そしてモゴロド?でしたか。いまは、モゴロドという偽名を使っているようですが、あなたの本名はセダム、ですよね」
「200年以上前に、わたくしとシルバー王国に戦争を仕掛けて、そしてわたくしに負けて追放された。たしか、エルフ族のセダムでしたか」
(作者に代わってエクレアからの一言メモ)◇◇◇◇◇◇◇◇◇
詳しくは前作、シリーズ第4作目の「大将軍、シルバー王国を護る 勇者の聖戦から259年後」をご覧くださいませ。
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「な・・・・なぜ、バレているのだ。顔も声も変える魔道具をつけていたのに」
「わたくしには通用しません。それだけでなく、あなたが裏で動いていたことも、闇ギルドに入ったことも知っていました」
「でも、そんなことはどうでもよいのです。ただ、ご主人様があなたを歴史研究の教授としてお慕いしていたので、見逃していただけのこと」
「ご主人様は歴史研究に興味を持っておいででした。ですが、あなたはその立場を捨て、ご主人様に危害を加えようとした。だからあなたを止めるのです」
ちらりと、シェラは僕の方を見る。
これは、モゴロド教授に手を出していいか、僕に了解を取るためのもの。
僕はそれに、首を縦に振って了承した。
ニコリとシェラは笑い、一瞬でモゴロド、本当の名はセダムの後ろに立ち、魔法で拘束した。
エルフ族のセダムは、一瞬で気絶する。
これで、あとは暴れている魔導人形をどうにかすればいいだけになった。
魔導人形はシルバー王国兵の魔法兵による魔法攻撃を受けても、止まる気配はない。
僕は事ここに至って、魔導人形を自力でどうにかできるとは思っていない。
この事態を速やかに収束させるには、従者であるエクレアにすがるしかないと理解している。
僕はエクレアに助けを求めた。
「エクレア。あれらを止めてほしい」
エクレアは短く、了承の返事をする。
「承知しました。ご主人様がご自分でどうにもできないという無念さは、このエクレアも承知しています」
「なるべく早く終わらせるには、あの者を呼び出せばいいでしょう」
エクレアが無詠唱で魔法を唱えた。
すると、エクレアの近くに、以前見かけたことのある女性が現れた。
「聖魔剣機アマリリス、お呼びに応じ参上いたしました」
まるで月の光を形にしたような白いブロンドに、相変わらず鈴の音が鳴るような綺麗な声を出す。
アマリリスだ。
アマリリスは僕に向かってニコリと笑い、
「久しぶりでございますね。ご主人様」
と、綺麗なカーテシーをとる。
その声は、夢の中で聞いた声と寸分も違わなかった。
そうだ。
この人だ。
リリー先生と呼び、陰の魔導士と名乗り、夢の中でも何度となく登場していた。
なんで今まで忘れていたんだろう。
それに、僕は以前にも異空間の中でアマリリスと会っているじゃないか。
本当にどうして気づかなかったんだ。
僕のバカ!
「うん。久し・・・・ぶりだね。それに、異空間で会ったときは700年ぶり、だったんだね」
その問いには答えず、アマリリスは僕ににっこりと微笑むのみだった。
僕は自分の愚かさを責めたい気持ちを押して、アマリリスに頼む。
「これらの魔導人形を止めてほしいんだけど、できるかい?」
「はい、ご主人様。魔導人形を止めればよろしいのですね」
そう言ってアマリリスは詠唱し、手から魔力が放出されたかと思うと、暴れ回っていた魔導人形たちの動きが止まったのである。
呆気に取られる僕に対し、アマリリスは、
「これらの魔導人形を造ったのは、わたしです。ご主人様、思い出されたのでしょう?」
「かれこれ700年前になるでしょうか。魔導人形は起動させた人の魔力で指示を出すことができますが、作成者であるわたしの魔力でも止めることができるのですよ」
「そ、そうだったのか・・・・」
僕はアマリリスの登場で夢を思い出し、すぐに思い出せなかったこともショックだったが、目の前の魔導人形たちが襲撃を止めて、ようやく張りつめた緊張が途切れるのが分かった。
足に力が入らなくなり、その場に座り込む。
そんな僕をシェラが受け止め、
「ふふ。大丈夫ですよ、麗しきご主人様。なあんの心配もいりませんわ。どうぞごゆっくりとお休みを」
その言葉を最後に、僕は意識を失った。




