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第9話

王太女ラナンは、先に探していたプラチナ帝国皇子のナスとともに牢屋へ向かい、僕を見つけてくれた。


僕を見つけたラナンは牢番に、


「命令です!!今すぐこの者を出しなさい」


ナスもそれに援護して、


「俺はプラチナ帝国の皇子だ。こいつを牢から出してやってくれ。安心しろ。すべて俺たちが責任を取る」


それを聞いた牢番は、慌てて僕を出した。


「牢屋から出してもらえて嬉しいけど、なんで君たちが」


と戸惑いながら聞く僕に対し、ラナンはガバッと土下座する。


「どうか、お願い。クローバー侯爵のグリーン君への態度はとても許されるものではないけれど、どうか僕に免じて許してほしい」


「僕、いや、わたしラナンキュラスは、その償いとしてあなたの永遠の奴隷になることを誓います」


「だからどうかお願いです。クローバー侯爵の態度を許した上で、さらに、この国を救ってほしい。グリーン君、いえ、ご主人様にしかできないんです」


ラナンがドレスの上から自分の胸を触る。


「こんな貧相な身体では欲情しないかもしれないけど、幸い、魔力は豊富です。その面で使ってほしい。どうかお願いします」


と、再び土下座する。


「分かったから顔を上げて。それに奴隷ってなんだよ。僕は鬼畜か!!ラナンは僕の仲間だ。そんなこと言わなくても助けるよ」


「本当かい。やっぱり君は優しいんだね。なら早速来てくれるかい」


そう言って、ラナンとナスは僕を連れ出し、シェラのもとへ連れて行った。


シェラのいる場所はすぐに分かった。


なにせ、パーティー会場のあるアカデミー高等部の敷地からまっすぐに、土地も建物も道路も関係なく更地になっていたから。


ラナンは、そのあまりの様子に声も出ない。


「お願い。あなたしかいないの。大将軍シェーラ様のお怒りを鎮めて。どうかシルバー王国を救って。お願い」


王太女ラナンキュラスは僕にしがみついて、涙ながらにお願いをした。


僕もここまでシェラが怒っているのは初めて見た。


ていうか、怖い。


いや、僕が怖がってどうする。


大丈夫、大丈夫だ。


シェラは僕には優しいはず。


ファイトだ。


怖がりながらも、シェラに近づいていく。


・・・・熱い。


気のせいかと思ったけど、熱い。


熱すぎる。


これは、魔力か?


シェラの怒りが魔力に伝わっているのか分からないけど、魔力が熱を帯びている。


シェラの近くへ行けば行くほど熱いのだ。


だけど、ラナンからのお願いだ。


僕は怖いのを我慢して、意を決してシェラに向かって叫んだ。


「シェラ!!」


するとシェラは歩みを止め、僕の方を振り返る。


とたんに熱が冷めてくる。


怒りが収まったのだろうか。


シェラを中心に渦巻いていた魔力も落ち着いた。


「ご主人様!ご無事でしたか。申し訳ありません。助けに行けなくて。本当は、本当は助けに行きたくて。でもご主人様のご命令で、関わってはいけないと言われていたから行けなくて」


あ、そのお願い、いまだに有効だったの?


確かに、命の危険以外は手助けしなくていいと言ったけど。


悲しそうな表情をするシェラを抱きしめる。


「ご主人様・・・・」


えーと、何か気の利いたことを言えないかと考えた。


考えたけど、思いつかなかった。


こういうのに慣れていないんだ、僕は。


とりあえず、シェラの怒りは収まったようだ。


ああ、怖かった。


ホッとしたら、お腹が空いたな・・・・。


「ねえ、シェラ。僕、お腹が空いちゃった。久しぶりにシェラの作った料理が食べたいんだけど。帰って作ってくれる?」


僕がそう言うと、シェラは満面の笑顔で、


「ええ、ええ、もちろんですわ。腕によりをかけてお作りいたします。こんなところにいてはいけません。早速、転移魔法で帰りましょう」


そう言って、シェラはにこやかな笑顔で転移魔法を使い、僕を家まで連れ帰った。



・・・・こうして、シルバー王国最大の危機は去ったのだ。


その場には、王太女ラナンキュラスとナスタチウム皇子が立ち尽くすのみであった。


ナスタチウム皇子、いや、ナスは王太女ラナンキュラスに、


「とりあえず、助かったのか?・・・・シルバー王国は無事でよかったな」


「うん。・・・・あ、ええそうね」


「言い直さなくても知っている。おまえの素の言葉は」


「・・・・グリーン君のことはね。最初は特政枠だから近づいただけなんだ」


「だって、大将軍様以外に興味を持たないことで有名なジングートどのが推薦するなんて、どんな人かなと思ったから」


「だけど、剣術大会のとき、大将軍シェーラ様からの熱い抱擁を見て、大将軍シェーラ様とつながりが深いんだって、そう思ったんだ」


「そして、シェーラ様のお怒りの原因がグリーン君への不当な扱いだったことから、イチかバチかだけど、僕をグリーン君を主と仰ぐ奴隷にすると提案したの」


「・・・・それはまた、思い切ったことを言ったな」


「まあ、俺もあいつが大将軍シェーラどの以外にも、とんでもない人たちを従えていることは知っている。今回の皇子復活も、あいつと仲が良いというのが理由だそうだ」


「そもそも弟のジェードやローレルがシルバー王国に来たのも、あいつと同年代だから、あわよくば交流させて仲を深めさせたいという親父の思惑があったらしい」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一方、シルバー王国の王城では、ジングートが政務大臣として、また軍の第一将として、全国の被害状況の確認と王国民への避難指示、そして軍の派遣指示を行っていた。


シルバー王国建国以来、最大の危機は回避されたが、まだ魔導人形の襲撃が全国各地で行われていたのである。


そのことを知った王太女ラナンキュラスは、慌てて走り出した。


向かう先は、自身が主と仰ぐ者の家である。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


僕は、転移魔法で家へ戻り、シェラが全身全霊をかけて作った料理を堪能していた。


うん、うん、おいしい。


おいしい。


はぐはぐ。


もくもく。


本当においしいときは、言葉が出ない。


特に僕が好きな味付けをしてくれている。


横では、キラキラした目で僕を見つめるシェラがいる。


シェラは甲斐甲斐しく、給仕を務めてくれている。


若干、食べづらい気がしないでもないけど、そんなことはとても言えない。


ふう。


これで最後の肉片だ。


ぱく。


「ふう。お腹いっぱいだよ。ご馳走様。シェラ」


「喜んでいただき何よりですわ」


と、嬉しそうに笑うシェラ。


そこへ、食事の部屋にエクレアが入ってきた。


なんでも、僕にお客さんだそうだ。


「ご主人様の新しい奴隷が、ご主人様に緊急のお願いがあるそうでございますよ」


会ってみると、ラナンだった。


あ、いや、王太女ラナンキュラス殿下だった。


王太女ラナンキュラス殿下が頭を下げながら、


「ご主人様。最後のお願いです。どうか魔導人形を鎮圧するのに協力をしてください。そのあとはこの家に入ってメイドとして、いいえ、奴隷として尽くすつもりです」


「これは魔法契約のサインです」


そう言って、王太女ラナンキュラス殿下は魔法契約の紙を出し、そこにはサインまでしてあった。


シェラは、


「ふむ。良い心がけですね。ですが、あなたのメイドとしての能力はまだまだ未熟。それはどうするつもりですか?」


シェラは、ラナンキュラスを値踏みするような目を向ける。


ラナンは胸に手を当てて、


「はい。その点はわたしも申し訳なく。どうかわたしに、まずはメイドとしての指導をしていただけませんか」


シェラはその言葉を聞いて、満足そうに、


「覚悟はできているようね。ならば安心なさい。あなたはこれから、ご主人様のことだけを考えればよいのです」


「ご主人様のために生き、ご主人様のために持てるものすべてを使う。さすれば、ご主人様はあなたとあなたの国を守護するでしょう」


「ましてやあのような人形ごとき、麗しきご主人様の手にかかれば朝飯前」


そしてシェラは僕の方へ顔を向け、


「さ、ご主人様、現地へお連れします。そこでわたくしどもに指示をお出しくださいませ」


そう言って、シェラはエクレアとともに、転移魔法で主だった者を連れて、魔導人形が暴れている現地まで転移したのである。



・・・・いやいや、さらっと流しているけど、僕、別にラナンにそこまで要求してないからね。


当然のように、みんな頷いて誰も否定しないけど。



転移後、僕たちはどうやら高台にいるようだ。


眼下には、何十という魔導人形が町を破壊している様子がよく見える。


これはひどいな。


だけど、どうする?


「一体一体に魔法剣を使うか?」


しかしそのとき、僕の知った声が聞こえてきた。


「それはいかんな。魔導人形たちをお主に潰させるわけにはいかん」




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