第8話
パーティー会場にいた貴族やアカデミー高等部の生徒、来賓で来ていたプラチナ帝国の皇太子たちも歓声をあげた。
襲い来る魔導人形に対して、シルバー王国兵もパーティも敵わなかった。
そんななか、魔導人形に抵抗し、真っ二つにして勝利した者がいたのだ。
命の恩人であり、その技の見事さに、プラチナ帝国皇太子ローレル・プラチアーナも惜しみない称賛を送った。
しかし、これに異を唱える者がいたのだ。
シルバー王国内務卿のクローバー侯爵だった。
「皆さま、お待ちください!!たしかにこの者は魔導人形を食い止め申した。その事実を無視するつもりはありませぬ。だが!!」
「あろうことかこの者は、シルバー王国の輝ける太陽であらせられる王太女ラナンキュラス・シルバーナ殿下に対し、数々の命令を下したのですぞ」
「これはさすがに看過できませぬ。平民ごときが!!王太女に命令を!!それだけでなく、プラチナ帝国のナスタチウム皇子殿下にまで命令をするなどと」
「このような大逆、臣クローバー、侯爵位についてウン十年、いまだ聞いたこともありませぬ。たとえ魔導人形討伐に功ありと言えど。いえ。そもそも魔導人形の討伐も」
「王太女殿下ならびにナスタチウム皇子殿下の働きによるところが大でありましょう。決してこの者の功績ではなく、王太女殿下ならびにナスタチウム皇子殿下の功績かと」
「臣クローバーは、愚考いたします」
ニヤリと笑いながら僕を見て、王国兵に僕を拘束し、牢へつなぐように指示する。
「な、馬鹿な、やめ、や・・・・くっ」
ナスは必死でその命令を取り消そうとするが、土壁に使った魔力で身体が消耗し、言葉に力が入らない。
王太女ラナンキュラスにいたっては、魔導人形の放つ雷属性の光線に風をぶつけるため全魔力を使ってしまい、意識がもうろうとしている状態だった。
ダオは、もともと犯罪者であるが、王太女ラナンキュラスの好意でこの場にいることを許されている身。
これ以上動くことはできなかった。
クレオメはあまりの展開に目をぱちくりさせて、おろおろするのみだ。
こうして僕は、城の牢屋に連れて行かれてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どこからともなく、怒りの声が聞こえる。
それは、強烈な魔力とともに吐き出された。
「黙って!!!」
「聞いていれば!!!!」
「調子に乗りおって!!!!!」
シェラの激怒する声だった。
「ご主人様のご命令ゆえに最後まで手を出さなかったが、」
「ここからは違う!!」
従者としてローブをかぶり、認識阻害魔法をかけ、存在感を消していたシェラ。
いや、大将軍シェーラが怒りの表情で姿を現した。
その姿を認識したシルバー王国の貴族、大臣たちは悲鳴をあげた。
怒りのあまり、魔力が大将軍シェーラを中心に渦巻き、パーティー会場である講堂が地震のように揺れ動いているのだ。
大将軍シェーラは、ギロッとクローバー侯爵をにらむ。
クローバー侯爵は金縛りにあったように、身動きが取れなくなる。
その周囲にいた貴族たちも、恐怖のあまり動けない。
「貴様!!命の危機を救ってくれた者に対し、侮辱する言動をするなど、なんという恥知らず。そなたは貴族に相応しくない。覚悟はできているか!!」
「しかもその動機は自身の権力争い。特政枠の者の評判を落とせば、政務大臣ジングートの評判をも落とし、自身がそれに成り代われると考えてのこと」
ジングートは静かに、クローバー侯爵の方を見る。
クローバー侯爵は自身の本心をずばり言い当てられ、顔が真っ青になり、それを通り越して真っ白になってしまった。
「貴様はこの世界にいらん!!」
そう言うと同時に、大将軍シェーラは軽く右手を振り下ろした。
グチャ。
人のつぶれる音がする。
人々がその場を見ると、先ほどまでクローバー侯爵がいたはずの場所には、血と肉の塊しか存在しなかった。
クローバー侯爵の原形すらなかったのだ。
しかしなおも、大将軍シェーラの怒りは収まらない。
相変わらず怒りの表情で、その激烈な魔力によって建物内は揺れ動いている。
「フーっ、フーっ」
ラナンキュラスが、このままではいけないと思い、父親の国王ロンバムウ・シルバーナのもとへ行き、大将軍シェーラに謝罪をするように促した。
そこでやっと国王は気づき、慌てて大将軍シェーラに向かって土下座をした。
「大将軍シェーラ様。このたびのクローバー侯爵の愚行」
「家臣である侯爵の誤った判断を止められなかったのは、ひとえに主君であるわしの落ち度。どうかわしの命をもってお怒りを鎮めてくだされますよう、伏して、伏してお願いいたしまする」
貴族も平民も、来賓であるプラチナ帝国の皇太子までいる場で、見栄も外聞もかなぐり捨てた謝罪をする。
激昂する大将軍シェーラから国王を守ろうと、国王直属の近衛騎士が近寄ろうとした。
だが、大将軍シェーラによって近衛騎士は一瞬でつぶされた。
周囲の近衛騎士はその様を見て腰が抜け、なすすべもなく呆然としていた。
それでも大将軍シェーラの怒りは収まらず、土下座する国王を片手で持ち上げ、ひねりつぶす。
国王も原形をとどめず、肉の塊になる。
周囲はもう悲鳴すら上げず、令嬢や婦人のなかには失禁する者や、気絶している者もいる。
しかし、なおも大将軍シェーラの怒りは収まらない。
「許さん、許さん!!このような馬鹿げた考えを持つなら、この国の存在する意味はない!!貴族も、それに付随する平民も!!今日、シルバー王国を終わらせてやるわ!!」
ちなみに、第一将ジングートら、軍の関係者はすでに諦めの境地に達しており、全員頭を下げ、死ぬ覚悟をしていた。
大将軍シェーラは、先ほどクローバー侯爵のやることに賛同し、加担した貴族たちをひねりつぶした。
どれもクローバー侯爵の寄り子の家ばかりであった。
現在、シルバー王国全土で魔導人形の大群が侵略をしている。
しかしこのパーティー会場では、大将軍シェーラの怒りによる殺戮が巻き起こっている。
その場にいた第二将アカエールは、
「シルバー王国は今日、消滅する。魔導人形の侵略のためでなく、大将軍シェーラ様の怒りによって」
その言葉に対し、第一将ジングートをはじめ、軍の関係者は誰一人声を発しなかった。
ついに、大将軍シェーラはクローバー侯爵の領地へ赴き、領民ごと領地を塵にすると言い出した。
「せめてもの情け、わたくしはクローバー侯爵の領地までこのまま歩いていく。それまでに領民を逃しなさい。わたくしがたどり着いたら、領地も領民もその場で塵とします」
そう言って、パーティー会場を出て侯爵の領地へ向かって歩き出したのだ。
その歩みは、いつもよりやや遅いぐらい。
領地にいる何も知らない領民を逃すために、早馬を飛ばす余裕を与えてくれているのかもしれない。
だが、その後ろ姿は、怒りのオーラが目に見えるほど立ち上っている。
パーティー会場の外にいた魔導人形は、一人で出てきた大将軍シェーラを見つけ襲い掛かったが、瞬殺される。
ああ、やっぱりこの国は魔導人形なんかではなく、大将軍シェーラ様によって滅びるんだ。
その場面を見た貴族平民問わず、全員がそう思ったという。
その様子を見て我に返った王太女ラナンキュラスは、事態を収めるために、大将軍シェーラの怒りを鎮めるために頭を巡らす。
王太女ラナンキュラスは、肉塊になった実の父親の死を悲しむよりも先に王族の責任を果たすべく、殺気を嵐のように放ちながらゆっくり歩を進めている大将軍シェーラのもとへ駆け寄るのだった。
「なんですか!?いまさら、もう遅い。この国の大臣が麗しきご主人様を貶めるような発言をするなど、到底許されることではない!!たとえ王太女といえど・・・・」
「大将軍シェーラ様!!どうか、私をあなた様のご主人様の奴隷にしてくださいませ。この身体、命、すべてを捧げることも厭いません!!」
大将軍シェーラは、王太女ラナンキュラスのあまりに意外な申し出に、ピタリと足を止めてしまった。
「そのかわり。そのかわり、領地領民の殺戮を止めてほしいとは申しません」
「ただ、ただ、私がいまからあなた様の主人にあたるグリーン君を連れてきます。どうかそれまでの間、足を止めてはいただけないでしょうか!!」
「ほう、あなたはこの先、王太女という肩書を捨てて、我が麗しきご主人様に仕えるというのですか?」
「いえ、王太女の地位は捨てません!!」
「・・・・なに?」
大将軍シェーラは、王族の地位を捨てないと言った王太女ラナンキュラスの不誠実な申し出に、怒りの表情を見せようとした。
しかし、
「違います。私は、シルバー王国王太女は、王太女のままでグリーン君、いえ、ご主人様の手となり足となり、身体を差し出せと言えば喜んで差し出す奴隷になるのです」
「ご主人様が望むのであれば、シルバー王国は国を挙げてお仕えいたしましょう。シルバー王国がグリーン君にお仕えするのです。いかがですか?大将軍シェーラ様」
「つまり、お主は王太女という立場のまま、ご主人様に仕えるというのか」
「・・・・ふむ、悪くないな。私が後見すれば反対する者はいないであろうし、ご主人様には、一国の王族が仕えるにふさわしい」
と、にやにやし始めている。
ここがチャンスとばかりに、王太女ラナンキュラスは、さらに畳みかけた。
「僭越ながら、ご主人様はあまり目立つことがお好きでない様子。王太子という立場をお譲りすることもできますが、それは喜ばないでしょう」
「それよりも、私が王太女という立場でお仕えした方が、ご主人様のお役に立つと愚考した次第です」
「ふむ、よかろう。では、ご主人様を連れてこい。それまではこの歩みを止めておく。見事連れてくれば、奴隷として仕えることを許す」
「は!ありがたく」
そう言って王太女ラナンキュラスは踵を返し、グリーンが連れて行かれた牢屋へ向かうのだった。
ちなみに、先ほどの会話は少し離れた場所で行われたので聞こえてはおらず、遠目からは王太女ラナンキュラスの説得で、大将軍シェーラの歩みが止まったように見えていた。
王太女ラナンキュラスが牢屋を探しに行く一方で、歩みを止めた大将軍シェーラに、さっそくおもねろうとした貴族がいた。
しかし、余計な一言を言ったために、大将軍シェーラは激怒し、その貴族をひねりつぶしたあと、止めていた歩みを再開させてしまったのだ。




