第6話
「やあ、兄さん。晴れて家族に戻れたね。とても嬉しいよ」
遠くで、皇太子ローレル・プラチアーナとその兄、第二皇子ジェード・プラチアーナがナスと話をしている。
その後、ナスは別室へと連れて行かれた。
メイドもいたので、おそらく皇族にふさわしい服装に着替えてくるのだろう。
僕はしばし、ナスと過ごした日々を思い起こしていた。
初めて会ったのは、プラチナ帝国の魔法学園の裏手の庭だった。
エボニー砦で見かけたと言われ、ギルドの手伝いをしてもらったこともある。
もちろん、僕の初めての親友だ。
手伝えることがあったら、僕は喜んで手伝うだろう。
パーティー会場は、二大国の皇族、王族の重大なニュースが立て続けに発表され、熱気がすごい。
みな一様に、熱心に話をしている。
貴族だけでなく、平民たちも。
いろいろとあるんだろうなあ。
家としてどのように対応していくかとか、どの派閥が有利になるのかとか。
あと、ナスにも妃があてがわれるので、その相談もしているかも。
僕は従者のシェラが取ってきてくれたジュースと料理を口にしていた。
そこへ突然、緊急を告げる伝令兵がパーティー会場に飛び込んだ。
「シルバー王国内で、正体不明の金属でできたゴーレムが襲撃しています。その数、数十。そのうちの一体がここにも迫っており危険です!」
「至急、避難をしてください!!」
ゴーレムとは、魔法で動く人形のことを言うが、脅威となるものは現在、存在しない。
・・・・あるとすれば。
ダオが起動させた魔導人形だ。
馬鹿な。
思わず僕は、ダオがいる方に目をやる。
だけど、ダオもびっくりしていた。
それはそうだ。
魔導人形は、モゴロド教授の手によって止まったはず。
その後は、モゴロド教授が管理しているはずだ。
首謀者のダオもここにいて、魔導人形は動かせないはずなのに。
一体なぜ?
どごおおおおん。
会場の外から大きな音がする。
慌てて窓から外を見ると、やはり魔導人形だった。
魔導人形が火属性魔法の火球をどんどん撃ち込み、周囲の建物を破壊している音だった。
どうしよう。
どうする。
僕は、僕のパーティは、一度あの魔導人形と戦っている。
だから、あの魔導人形の強さは理解しているつもりだ。
今度は負けないように戦術を練っているが、この会場には貴族、平民と多数いる。
こんな中で、被害を出さないように戦うなんて不可能だ。
まず避難させないと。
軍のアカエール将軍は、すでに指示を出していた。
「すぐに軍部へ使いを出せ!急げ!王族、皇族を優先に避難をさせるんだ。ああ、くそ。それに王国中で襲撃を受けているんだった。被害状況と戦力の見積もりを・・・・」
ブツブツと言いながらも、適切に指示を出す。
王太女ラナンキュラスや、プラチナ帝国の皇太子たちが、シルバー王国兵の誘導で避難を始めようとしたその時、よりにもよって誘導先に魔導人形がいた。
すぐさま、王国の魔法兵が防御結界魔法を張り、ラナンキュラスを守る。
しかし、このままじゃ危ない。
「仕方ない。この場で戦える者は、武器を取り応戦してくれ。大丈夫。軍部には救援の使いを出してある。しばらくすれば応援が来るはず。それまでの辛抱だ!!」
アカエール将軍の言葉に反応して、アカデミー高等部の序列一位のパーティ「銀の栄光をつかむ者」をはじめ、「銀色の閃光」や「シルバーフォックス」ら上位パーティが装備を確認し、戦う準備を始めた。
僕も戦いたい。
だけど僕のパーティの仲間たちは、たったいま、王太女やら皇族やらになった。
ダオも犯罪者として魔力を封じられているし。
そういうわけで、僕のパーティが戦いに参加することは難しいだろう。
しばらく後。
数あるパーティが魔導人形と戦った。
しかし、かなわない。
幸い、命に別状はなさそうだが、怪我をしている。
いま、治癒士から回復魔法をかけてもらっているみたいだけど、どのパーティも魔導人形に傷一つつけられないでいた。
ついに、僕以外のパーティは戦えない状態になってしまった。
そして、魔導人形に対して張っていた防御結界魔法が、ついに破られてしまったのだ。
それを見て、会場中から悲鳴が起きる。
僕はその悲鳴を聞いて、覚悟を決めた。
やろう。
まがりなりにも、この場で戦えるのは僕たちだけなんだ。
指をくわえて黙って見ている場合ではない。
隣にいる従者のシェラの方を見る。
シェラはにっこり笑って、
「大丈夫。ご主人様なら必ず勝てますわ」
そう言って、背中を後押ししてくれた。
僕はシルバー王国兵や、会場の参加者たちを背にして、魔導人形の前に無造作に立った。
僕がみんなを守る。
その意思表示をするためだ。
その様子を見たアカデミー高等部の生徒の一人から、
「おい、危ないぞ!!『特政枠』のくせに実力はないんだから、大人しく引っ込んでろ!!」
と、僕を心配しているのか、ただ見下しているのか分からない言葉が飛んできた。
その瞬間、胸の奥に引っかかっていたものが、ふっとこみ上げてきた。
僕はずっと、名前ではなく「特政枠」と呼ばれてきた。
だから、今だけは黙っていられなかった。
「僕の名はグリーンだ!!名前で呼んでくれ!!それに『特政枠』のくせに実力がないなんて、勝手に決めつけないでくれ!!」
辺りがシーンとする。
しまった。
言い過ぎたか?
しかし、どうもそれが原因ではないようだ。
ざわざわ。
「あいつって、グリーンていうのか・・・・?」
「やだ、あたし知らなかったわ。特政枠ばかり言ってたから」
ざわざわ。
え?
今まで僕の名前、知らなかったの?
いやいやいや、そんなことないよねえ?
この作品も、もう終わり頃だよ?!
僕の名前、どこかで出てたはずだよね?
しかしながら、僕たちのパーティは討伐を実施していないため、アカデミー高等部では序列最下位で、実力はないように思われている。
だから僕は、周囲のヤジを無視し、
「何の討伐実績もないけど、僕たちは一度この魔導人形とやり合っている。そして、魔導人形を倒すために訓練をしてきたんだ!!」
僕の言葉を信じられないという視線や表情を感じる。
確かに僕も、本当に魔導人形を倒せるかは自信がない。
だけど、やるしかないんだ。
「パーティ名、シルバーの栄光、いきます」




