第5話
ラナン改め、王太女ラナンキュラスが僕の方へ足を向ける。
当然、いつものラフな姿ではない。
王族にしか許されない、一目で高級と分かる上質なドレスをまとっている。
思い返せばラナンは、いつも大きめのサイズの制服を着て、体型が分からないようにしていたと思う。
女性とバレないようにしていたのだ。
ところが、今着ているドレスは、身体のラインがよく分かる魅惑的なデザインだ。
抜群のプロポーションを、これでもかと見せつけるかのようだ。
王太女ラナンキュラスは、お近づきになろうと寄ってくる有象無象の令息たちをさらりとかわしながら、しっかりと僕の方に目を向ける。
気のせいかと思ったけど、気のせいじゃないな。
僕の前までやってきた王太女ラナンキュラスは、僕を見て、ニッコリ笑う。
その笑顔は、よく知った笑顔だった。
「やあやあ、驚いたかい?」
そして、いつもの調子で声をかけてくる。
「なんだい、あまりびっくりしていないな。もしかしてバレていたとか?」
「いや、十分驚いているよ。女性ということも、その身分にもね」
王太女ラナンキュラスは僕の返答に首をすくめるが、どこか嬉しそうに微笑む。
僕はその様子を見て、少し拍子抜けをした。
もっと王族らしい威厳のあるあいさつをされると思ったから。
でも、こちらの方がいい。
王族らしい威厳のあるあいさつは苦手だ。
みんなから注目を浴びながら、僕とナスは、王太女ラナンキュラスと会話をしている。
うう。
注目を浴びるのは苦手だ。
だけど、ラナンの晴れの舞台でもある。
もう少し我慢をして、ラナンの会話に付き合おう。
ラナンが言うには、王族が身分を隠してアカデミー高等部で生活を送るのは伝統だが、最近ではほぼ形骸化しているらしい。
自分はそれが嫌で、わざと性別を偽ったという。
さらに念には念を入れて、一番序列の低い「シルバーの栄光」寮に所属することで、徹底して身分を隠そうと思ったのだとか。
当然、周囲の反対はあったが、友人たちが力を貸してくれたので、反対の声を押し切ったのだ。
もともと特政枠であった僕に興味を持っていて、さらに話をして僕のことを気に入り、そばにいたらしい。
「ふふ。君のそばにいて正解だったよ。とても楽しい学園生活が送れた」
ナスも僕も返答しない。
まがりなりにも相手は王族。
今までは許されていても、返答の仕方で機嫌を損ねれば、不敬罪で罰せられるかもしれないから。
「あれ~?どうしたの、変な顔をして。いまさら不敬罪なんか問わないって。前みたいに接していいよ」
と、カラカラ笑う。
そんなことできるか!!
と、そこへ、ダオがばつの悪そうな顔をして現れた。
「びっくりした。あんたが王太女だったなんてね」
ダオは先日以来、魔導人形を使って王国を騒がせようとした罪で、軍に捕まっていたはず。
なんでここに?
「そこの王太女さまが、特別に僕の参加を許してくれたそうだよ」
そう言って、王太女ラナンキュラスの方を見る。
「だって、ねえ。まがりなりにも仲間だったじゃないか」
当然という顔をする王太女ラナンキュラス。
「こんなこと言えた義理じゃないけど、王族がこんな言葉遣いしてていいのかい?しかも王女でしょ」
「あっはっは。いいのいいの。じゃあ、ちょっと挨拶に行ってくるね」
そう言って、王太女ラナンキュラスは貴族たちの方へ向かった。
その後、ダオは騎士の監視付きではあるが、パーティーに参加することが許された。
だけど、パーティーでは極力大人しくするように言われているみたいだ。
あまりの衝撃に戸惑っていたけど、落ち着いて周囲をうかがうと、学園の生徒たちは一様に驚いている。
「まさか、あいつが。どうしよう、俺、無礼なことしちゃってたよ」
「まだいいよ。俺なんか、線が細いから女みたいだなって言っちゃったよ。本当に女だもん。どうしよう」
「はあはあ、僕のラナンちゃんが王太女だったなんて。密かにフィギュアを作って愛でていたんだけど、セーフかな?」
「「それはアウトだろ!!」」
などなどだ。
僕もラナンが女だったなんて全然気づかなかったし、人のことは言えないよなあと思っていると、司会が進行を進めた。
「皆さま、ただいまから来賓でありますプラチナ帝国の皇太子、ローレル・プラチアーナ殿下より重大な発表があるとのことです。静粛になさってください」
え、まだ何かあるの。
隣にいるナスも、複雑そうな表情をしている。
実の弟さんだから、思うところもあるのだろう。
「いや、なんかローレルがさっきからこちらの方をチラチラ見ているんだよ。嫌な気がする」
と、ぼそぼそとつぶやく。
確かに、こちらに意味深な目線を送っている。
そしてその目線をゆっくりと全体に向け、プラチナ帝国皇太子ローレル・プラチアーナが、皆に向かって口を開いた。
「皆さま、今日はこのような機会を与えていただき、有難く思います。いまから発表する内容は、父、ローシェンナ・プラチアーナ皇帝陛下の名のもとに宣言するものであります」
会場内がシーンと静まる。
「このアカデミー高等部に所属するナスという生徒を、我が父の養子とし、プラチナ帝国の皇子の一人として迎えることが決定いたしました」
「おお」
「ナスって『スレートの盾』寮の?」
「なんでだ?」
と、賛辞と疑問の声があがる。
当の本人も、びっくりしすぎて開いた口が塞がらない状態だ。
皇太子ローレル・プラチアーナが続ける。
「皆さまの驚きと疑問は当然ですが、これは我がプラチナ帝国の伝統でもあります。ナスという生徒はある条件を満たし、代々、その条件を満たした者は、我が皇族に迎え入れることになっているのです」
「私から申し上げることは以上です」
同時に、ナスは皇太子ローレル・プラチアーナのそばへ行くよう呼びかけられた。
ナスがしぶしぶといった表情で、
「こんな場で言われたら拒否することもできねえ。どういうことか分からないが、とりあえず行ってくる。また後でな」
皇太子ローレル・プラチアーナのもとへ向かうナスは、戸惑っているが、どこか嬉しそうだ。
無理もない。
追放されていたのに、元の家族のもとへ戻れるのだから。
「だけど、なぜ戻れることになったのだろう?」
そうつぶやくと、近くに従者としてそばにいたシェラが、
「どうやら、ご主人様の友人だからのようです。ご主人様は、わたくしどもを従えております。そんなご主人様と仲の良い者は、王族として取り込むことになっているみたいですよ」
「ふ~ん、そんなものなのかな」
僕が友人だから皇族に取り込む?
そんなメリットが僕にあるのかな。
後日、ナスから聞くところによると、
「理由はこれから説明すると言ってたが、これは国益に関わることであって、肉親の情で俺を戻すわけではないと言われた」
「国益に関わると言われたら、俺も臣下の端くれだ。こんな俺がプラチナ帝国の役に立つというなら、皇子でも何でもやろうじゃないかと思って受け入れたんだ」
そう言って、ナスは嬉しそうに話していた。




