第4話
あれから数日が経った。
研究室へ行っても、モゴロド教授はいない。
まだあのときの後処理をしているのかもしれない。
そして、アカデミー高等部では、あるパーティーを行うことが発表され、生徒たちは大いににぎわっていた。
なんと、あのシルバー王国の王太子が誰であるかを発表し、同時に正式な立太子の儀をするのだという。
とんでもない内容に、アカデミー高等部は授業どころではなくなり、生徒も教員たちもパーティーの準備で大忙しとなった。
「あ、また服飾屋が寮に来ているね」
隣にいたラナンが、へへ、と笑いながら僕のそばへ寄ってくる。
パーティーまで休校となり、数日後に行われるパーティーで少しでも良い服装を身に着けようと、寮にいる貴族の子息が既製品を持ってこさせ、選んでいるのだ。
さすがに一着を仕立てる時間はないが、既製品でもいいから合う服を選びたいのだろう。
特に令嬢の気合いは半端ない。
王太子が初めて顔を出すので、少しでも気に入られようという考えだろうか。
隣にいたナスもあきれ顔で、
「おい、あの部屋にいる令嬢は、確か婚約者がいたはずだぞ。婚約者がいながら王太子に気に入られようというのか?」
「あはは。まあそう言わないで。パーティーなんだし、婚約者のために気合いを入れているのかもよ」
と、ラナンが面白そうに言う。
「まあ、そうかもしれないが・・・・」
「で、結局、王太子は誰なんだろうね」
僕はそうポツリとつぶやく。
ラナンは、
「へえ。君も興味あるのかい」
と、キラキラした目で見てくる。
「ところで。君は婚約者はいるのかい?どんな令嬢がタイプ?おしとやかな方がいい?」
「え?いやあ、そんなこと」
「それとも、たくましいタイプが好みかい?」
そっと目を伏せて、
「でも・・・・男の集団の中で生活するような令嬢は、いやだよね?」
「え、なんて?」
小さい声だったので、よく聞き取れなかった。
「いや、なんでもない。またね」
ラナンはそう言って、部屋へ戻っていった。
なんだろう?
僕とナスは顔を見合わせて、不思議そうにラナンの後ろ姿を見送った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アカデミー高等部で、王太子のお披露目を兼ねたパーティーが開かれた。
会場は、アカデミー高等部の入学式を行った広い講堂。
僕たちが正装で入場したら、すでに人でいっぱいだった。
周囲を見ると、アカデミー高等部で見かけたことのある人でいっぱいだ。
あちらの方では、アキレア・クローバー侯爵子息が、キャロット・アプリコット公爵令嬢のそばで話をしている。
相変わらずだな。
しかし、すぐそばにはジェード・プラチアーナ第二皇子殿下がいた。
その近くでは、アイベックス・エルマール男爵が、シアン・ルジッグ子爵子息とともにどこかの令嬢と話をしていた。
どうやら、そのあたりは高位貴族の令息令嬢で集まっているようだ。
絶対近寄らないようにしよう。
ところで、ラナンはどこだろう。
会場内を見渡したけど、見当たらなかった。
おかしいなあ。
先に行っていると言って、かなり早く寮を出たはずなのに。
別の方向を見ると、令息令嬢や生徒だけでなく、シルバー王国の貴族たちもいた。
護衛の数から見て、高位貴族の当主だろう。
それ以外にも、シルバー王国の政権を支える大臣や高級官僚もいるようだ。
さらには、軍服の正装をしたアカエール将軍もいるし、そのそばには王族の服装をしたプラチナ帝国の皇太子と、その婚約者の姿も見える。
僕は、間違ってもそんな場違いな空間へ足を踏み入れないよう気をつけ、平民の生徒たちで固まっている場所を探し、そこで王太子の発表を待った。
司会がマイクを持って、準備をする。
いよいよか。
司会があいさつを始め、王太子の入場を伝えた。
「それでは皆様、王太子殿下の入場です」
うわあ。
最初に入場したのは、フェレット・モンステラ伯爵令息だった。
やっぱり彼が王太子だったのかな。
そう考えていると、フェレット・モンステラ伯爵令息が、
「王太女ラナンキュラス殿下、ご入場です!!」
と言うではないか。
「いやああああああ!!」
どこからか令嬢の悲鳴があがる。
そう。
王太子は、男ではなく令嬢だったのである。
令嬢の悲鳴をよそに、参加している貴族らは一斉に頭を下げた。
フェレット・モンステラ伯爵令息のあとに現れた令嬢こそが王太子であることが分かり、臣下の礼を取ったのである。
ええ!!!
王太子って、男性ではなく女性だったのか!!
僕も目を凝らして、王太女の顔をよく見てみる。
王太女というだけあって、綺麗で気品のある顔立ちだなあ。
・・・・だけど、よく見るとどこかで見たような。
・・・・というか、ラナンに似ている気がする。
気のせい?
気のせいだよね?
王太女が壇上の中央に立つ。
「皆さま、初めまして。わたしは、シルバー王国第三十五代国王ロンバムウ・シルバーナの第一子、ラナンキュラス・シルバーナと言います」
「事情があって、名を変え、アカデミー高等部では一生徒として生活を送ってきました。ですがこのたび、王太女として立太子の儀を行い、未来の国王としての重責を担っていく所存でございます」
「王太女となったと同時に、将来にわたり、ともに重責を背負ってくれる伴侶を探すことを、ここに宣言します」
この宣言に、婚約者のいない男性生徒の目が輝いた。
一方、僕はと言うと、周囲を見渡してラナンを探す。
だけど、いない。
どこにもいない。
ラナンによく似た顔の人はいる。
王太女だ。
だけど、まさか、そんな。
隣でナスが、
「やっぱりラナンが王太女だったのか」
と、ボソッとつぶやいていた。




