第19話
アネモネを指導者として、ゴールド王国が建国された。
政治体制は、以前のように共和制とするかでもめた。
しかし、人族は寿命も短いということもあり、王政に戻すことになった。
アネモネの政治が有効である限りは、各種族は人族に従っていこうというのである。
アネモネは初代女王となった。
このころには、もうどうにでもして、と諦めの境地にいたアネモネは、会議で決まったことをすべて受け入れていたのである。
この会議はのちに、ゴールド王国の政治上、最も重要な会議として位置づけられるようになり、ゴールド王国を長く繁栄させる一因と評されることになる。
また、女王アネモネの配偶者、つまり王配には、大陸十賢者の一人であるエタンが選ばれた。
エタンはもともとアネモネの婚約者であったが、エタンの能力や人柄も考慮されてのことである。
エタンの容姿は、黒髪と赤い瞳をした絶世の美男子だ。
のちに二人の子供には、赤い髪と赤い瞳の二つを併せ持つ者が多く出るようになった。
よって、赤髪と赤い瞳は、ゴールド王国の王族の証と見なされるようになっていく。
また、初代女王アネモネは、人族の平民だけでなく、種族を問わず人気がある。
その理由は、アネモネが平民出身だからだ。
もともと孤児で、親が誰かもわからない身でありながら、魔法の才能を開花させ、戦場に出て功績を立て、魔道具作りにも才能を発揮した。
親代わりの人の身代わりになって、300年もの間、コールドスリープでいたというところも、伝説の魔法使いらしく、人気の原因の一つらしい。
政策運営の面では、皆の意見をよく聞き、貴族制度を作って有力者との力関係を調整することも上手であった。
そのおかげで、おおむね、ゴールド王国の統治は穏やかで落ち着いているといえた。
さらには、創造神を崇め信仰する聖教会を、国の中に招き入れることも決めた。
これが原因で、人族を中心に大陸中から信者が流入し、人口が増え、さらに発展していくことになる。
聖教会の教皇は、この世の始まりから生きているとうわさされる龍族の長老。
これまでは、魔族の王族たちが引き起こした戦争や災害を、じっと見ていた。
しかし、ようやく戦乱が落ち着き、自らの手で平和を招き寄せた人族をはじめとする各種族を褒めたのである。
「わしたちは龍族。龍族は創造神様から強大な力を与えられておる。それゆえに責任も重く、容易に手出しできなかった。手出しをすれば、それが基準となってしまうのでな」
「しかし、それでは他の種族の成長は望めない。それゆえ、何も口出しをしなかったのだ」
「だが、魔族の横暴を見逃していたわけではない。よくここまで、各種族を融和してくれた」
「聖教会の教皇として、礼を言う」
こうして、聖教会の教皇猊下がゴールド王国のアネモネ女王に頭を下げたことで、ますますゴールド王国の権威は高まっていった。
当のアネモネは、げんなりとしていたが。
ゴールド王国の統治はうまくいっているが、各地で瘴気の発生による魔物の被害が消えることはない。
魔物の討伐については、龍族のマホガニーをはじめとする面々が名乗りを上げてくれた。
「この国を武の面で守るのは、わしらじゃ!」
そう言うのは、龍族のマホガニー。
「その通り。及ばずながら、力をお貸しします」
静かな言葉を出すのは、エルフ族のミモザ。
他にも、魔族のフラグラントが手を挙げた。
意外なことに、メイズは辞退した。
周囲は不思議そうであったが、理由は明かさなかった。
だが、本当の理由は、かのパールティアが妊娠したから。
その連絡を受けた時、メイズは衝撃を受けるとともに、パールティアに寄り添うことを決意した。
メイズはその後、パールティアに最後まで殉じるかのように、パールティアの子供カーマインを育て、最期までカーマインの理想に殉じるのである。
ゴールド王国と聖教会は、マホガニー、ミモザ、フラグラントの三人を中心として守ることになった。
それを、フラグラントの付き添いで来ていたキャナリィが、面白そうに言った。
「ねえねえねえ、フラグラントにマホガニー。なにかさあ、かっこいい名前つけてもいい?昔はさ、パール六騎士ってあったじゃない。あんな感じの」
「例えばさあ、うーんと、三人は騎士というより武の担い手なんだからさあ。武、武、武、武威ってどう? なんかいかつくてカッコよくない?」
龍族のマホガニーが反応して、
「それならば三人いるから、三武威というのはどうじゃ?三武威。んん、かっこいいのう」
この話がきっかけで、マホガニー、ミモザ、フラグラントは、三武威という名で呼ばれることになった。
未来では、六武威と呼ばれることになる名称の始まりがこれである。
三武威の時代から、国王でもある伝説の魔導士アネモネが築いた伝説も加わり、三武威は各種族から畏敬の念をもって語られるようになっていく。
無論、その名に恥じない実力を、三武威は持っていた。
のちに、魔族のキャナリィが三武威に加入する。
「四武威だー。わーい。あ、四人だから四天王のほうがかっこいいかなあ?」
その後、50年ほど経ってから魔族のメイズが武威に加入し、さらにその後にカーマインが加入した。
併せて六武威。
黄金の六武威として、後の世では伝説となっていく。
ちなみに、魔族のアリザリンはフラグラントの従者として修行をしていた。
しかし、武威に選ばれるほどの実力は持たなかった。
だが本人は気にしない様子で、のちにメイズの後を追うようになっていったという。
アリザリンはのちにメイズの呼びかけに従い、魔王となったカーマインの理想に殉じる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数十年後。
ゴールド王国の王城内にて。
年を取った初代ゴールド王国女王アネモネと、その夫エタンが、仲良さそうに庭園を歩いている。
二人の顔には、年月を感じさせる皺がいくつも刻まれていた。
子供が生まれ、孫が生まれ、その孫も先日、立太子の儀を経て、息子がゴールド王国国王の称号ゴールデアを継いだ。
「もう思い残すことはない。私はあなたと知り合えて本当に良かった。あなたに引き合わせてくれた方に感謝をしていますよ」
「そう・・・・思い返せば、あなたの姿を初めて見たのは、コールドスリープ状態のあなたを安置していた部屋でしたね」
王配エタンは、嬉しそうに話をする。
周囲の侍従、護衛、侍女たちは、いつも温かい目で、仲の良い前女王夫妻を見守ってきた。
そして、いつも前ゴールド王国女王アネモネが返す。
「わたしもよ。もう思い残すことはないわ。二人で一緒に創造神様のみもとへ行けたら嬉しいわね」
「・・・・でも」
「ん?どうしたんだい?何か気がかりでも」
「え、い、いえ、何でもないの。ごめんなさい」
しかしその日に限って、なぜか前女王の返事はいつもと違っていた。
だが、それは些細なこと。
こうして、ゴールド王国の前女王夫婦の平和な一日が過ぎていった。
夜。
やっぱりおかしい。
私。
私も思い残すことはない、そう返すつもりだった。
なのに。
なぜだか、思い出さないといけないことがあると、私の心の何かが訴えている。
一体、何だろう。
何かを忘れているのだろうか。
数日後。
前ゴールド王国女王アネモネの容態が急に悪くなり、ベッドから起き上がれなくなった。
御年100歳を超えるアネモネは、いつ天に召されてもおかしくなかったのだ。
容体を聞きつけ、子供、子供の配偶者、そして孫が、アネモネのベッドの周りにたたずむ。
そんななか、夫のエタンが皺のある手で、ベッドに横たわるアネモネの手を握った。
「君を大事にすると約束する。昔、そう約束したことを覚えているかい?」
そう寂しそうに笑いながら問いかけた。
すると、その瞬間。
アネモネの記憶の中にある何かの封印が解けた。
遠い昔、ある人物から、
『僕と一緒に来ないか?少なくとも今までの者と違って、君を大事にすると約束する』
そう言って、両親を亡くした自分を虐げていた人たちから救ってくれた人がいたことを思い出した。
どうして忘れていたんだろう。
レッド様。
いえ、ワインレッド様。
いま、あなたのお側に行きます。
しわくちゃのおばあちゃんになるまで忘れていた私を、側でゆっくり叱ってくださいね。
第3部 本編 終わり




