第18話
アマリリスは、自身が作った大量の完成形の魔導人形を封印することにした。
魔法で地下に格納庫を造り、特殊なパスワードでしか開けられないように、扉に魔法を施して。
場所は、後世、神聖ゴールド聖教国と呼ばれることになる国の首都のすぐ近くにある森の中。
当時も森しかないので、誰にも見つけられずに済むだろうと考えてのことだった。
僕はその封印を解くパスワードや手順を、ばっちりと見てしまった。
僕、レッドはとっくに死んでしまったはずなのに、意識を持って、しっかりと見てしまっていた。
そうだ。
僕はレッドでもないし、ましてや魔族でもない。
僕は、シルバー王国のアカデミー高等部に通っている一平民だ。
これは夢?
そうだ。
僕はいま、夢を見ているんだった。
レッドは僕の過去世であって、僕は夢でレッドを体験しているに過ぎない。
先ほど、命を落としたはずなのに、なぜか魔導人形が暴れている様子も映像として流れ込んできた。
そして、魔導人形が格納されている場所や、その解き方までも映像として見てしまっていた。
そして再び、アマリリスの映像に戻された。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アマリリスは、魔族が引き起こした欲望の惨状を見て、人族も魔族も欲心に負けるようなら、いっそ地上の種族をすべて魔法生命体に変えていくのもありだと考えた。
魔法生命体には、欲心というものを入れていない。
だから、きっと地上は素晴らしい世界になるだろう。
そんな考えを持ってしまった直接のきっかけは、魔族の王族だ。
あの者たちは、どうしようもないほどの愚か者であった。
しかし、魔導人形を作ろうと考え、創り出すことを応援したのは、国に住む国民の総意でもある。
人の欲望は底がない。
アマリリスには、そうとしか思えなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔導災害のその後。
魔導技術共和国パールの誇る魔道具は、ほとんど失われてしまった。
生き残った各種族たちは、以前の生活に戻るだけだと、前向きに復興していった。
この各種族の復興の様子を見たアマリリスは、今生きている種族が、欲心だけに振り回されているわけではないということがわかった。
復興が形になり、以前ほど豊かではなくなったが、魔導技術共和国パール以前の暮らしに近い形へ戻っていった。
人々が落ち着いてきたころ、種族間での話し合いが再び持たれた。
話し合いをする目的は、次の指導者をどうするか、である。
魔導王国パール時代から各種族や王国を併合させ、それなりの年月が経った今、人々は今さら別々に分かれて暮らすということは考えられなくなっていた。
そのため、各種族をまとめてくれる指導者を決めようということになった。
各種族、龍族、魔族、エルフ族、人族、そして獣人族やドワーフ族から、それぞれ代表者が選ばれ、指導者選出のための会議が開かれた。
会議の場にて。
まず出た意見は、指導者は魔族以外にしようということだった。
今回のきっかけも、魔族で元王族でもある。
ゆえに、魔導人形を暴走させた原因の魔族とは違う者がよいという意見が出たのだ。
これには魔族代表だったメイズも頷く。
ちなみにパールティアは、ある事情ですでに身を隠しており、表舞台からは一切手を引いていた。
当然、この会議のことも知ってはいたが。
では、龍族はどうか?
龍族というと、マホガニー?
ないない。
これには、周囲もそうだし、本人もないないと首を横に振っている。
ならば、エルフ族は?
その意見が出るやいなや、代表で出ているエルフ族のミモザは即座に拒否した。
自分は上に立つという柄ではないし、エルフ族も上に立つのではなく、補佐に回りたいという意思を示した。
龍族やエルフ族が拒否しているのに、と獣人族もしり込みする。
ドワーフ族も存在感がない。
ここで、誰かが言った。
「人族はどうですか?」
当然、人族代表のアネモネに、会議中の視線が集まる。
「私?なんで?私、小娘よ。それに私は他の種族よりも寿命が短いのよ。指導者に向いているとは思えないわ」
アネモネは、まさか自分に指導者が回ってくると思わなかったのだろう。
赤毛をふりふり動かし、目をくりくりさせながら答えた。
龍族のマホガニーが笑いながら言う。
「寿命の長短は問題なかろう。要は中身よ。それに信頼関係。大事なところは文官らに任せればいいし、文官にも人族は多いのだ。指導者は人族の方がいいだろう」
(それに、わぬしのことはレッド兄いからも頼まれているしな)
「それがしは、支えるならアネモネがいい。なあに、他に足りないところがあれば、われらで補ってやればよかろう。ぐわあっはっはっは!!」
龍族というだけで、強い存在感と発言力を持ってしまう。
龍族のマホガニーの鶴の一声で、なし崩し的ではあるが、人族が各種族をまとめる立場になった。
それは同時に、この場で最も年若い赤毛の女性、アネモネが指導者になるという意味でもあった。
アネモネは唖然として、
「ちょ、ま、本気?」
と声が出ない様子だ。
しかし、そんなアネモネをよそに、議題は国の名前に移っていた。
「名前はどうする?」
「なんでもいいがなあ」
「だけど、適当でも困る。他国に侮られないで済むようないい名前はないか?」
「いっそ、アネモネ王国というのはどうだい?」
「安直だなあ」
しばらく会議が止まり、皆が黙る。
気付くと、もう夕方のようだ。
夕日が窓から伸びていた。
龍族のマホガニーは、ちょうどアネモネが夕日に照らされる様子を見た。
陽に反射する赤髪が、目に入る。
「赤い髪か。・・・・レッド兄い」
思わず、自分が幼いころからずっと親しんできた人物の名前を呼んでしまった。
「え?」
「あ、いや、わぬしの髪の毛、陽に照らされて、まるで黄金のように輝いておって・・・・ゴールド。ゴールド王国というのはどうじゃ?」
ゴールド王国。
ふーむ、悪くない。
誰かがそう、ぽつりとつぶやく。
誰からも、反対意見は出なかった。
こうして、新しい国はゴールド王国と名付けられたのである。




