第17話
レッドの双子の兄パールレッドは、用意周到に根回しをした。
まず、アネモネと大陸十賢者エタンの共同開発した魔導人形の利権が、大陸十賢者のもとへ移るように手を回した。
個人で扱うには利益が大きすぎるという、もっともらしい理由をつけて行わせたのだ。
大陸十賢者はすぐさま量産体制に入り、数か月ほどで工場を建てて稼働させ、数百体も生産することができた。
パールレッドはそこを狙った。
かねてから、パールレッドの手の者が大陸十賢者の工場に入り込むよう手配しており、パールレッドの合図のもと、量産した魔導人形を奪って起動させ、一斉に国を襲わせたのだ。
しかし、パールレッドの計画がうまくいったのはここまでだった。
大量の魔導人形は、やはり未完成だった。
一斉に起動させたことで動作が不安定となり、制御不能となった。
そしてパールレッドは、暴走した魔導人形の大群に巻き込まれて死亡したのだ。
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レッドは、パールレッドが大量の魔導人形が格納されている工場に向かうのを、網にかけていた探知魔法で知り、すぐに向かった。
「おまえは必ずこの魔導人形を利用すると思っていた。だから先回りをしたのは正解だったな」
レッドはパールレッドと対峙し、最後の決着をつけるつもりでいた。
「パールレッド。魔導人形を使って国を滅ぼすなんて馬鹿な真似はよすんだ!!」
「うるさい!!最後に勝つのはこの俺だ!!お前は黙って国が滅びるのを見ていろ。その後、お前を殺してやんよ」
「なぜだ?!なぜ、おまえは僕をそうまで憎む?魔力がないのがそんなに疎ましいのか?だったらお前の目の前から消えてやる。だから魔導人形を止めろ!!」
「はっ。まだ気づかないのか?俺はな、無能なお前が周囲から好かれているのが気に食わないんだよ」
パールレッドは、思ってもみないことを言い出した。
「何を馬鹿なことを。好かれているのはお前のほうじゃないか」
「違う。本当に好かれていたのはお前だ!!お前は魔力がないくせに周囲に媚び、将軍を手駒に収めた」
「だからその腹いせに、お前の功績を全部奪ってやったんだ。ははは、ざまあみろ。それに、お前の親友とかいうやつの妹」
「ロゼと言ったか。あんな薄汚い小娘。俺が少し甘い言葉をかけてやるだけで、俺に落ちた。そして、お前の命を狙わせてやったんだ。どうだ、むかつくだろう?」
レッドは、その時初めて気づいた。
綺麗な顔を醜悪なまでに歪めてレッドを罵るその姿が、誰にも本気で向き合ってもらえなかった、悲しい一人の魔族の姿であることに。
パールレッドは、本当に可哀そうな奴だった。
誰からも、本当の愛情を向けてもらえなかった。
魔力を豊富に持ち、父王から王太子に任されるぐらい信頼されていたのに。
それなのに。
魔力がなく城から追い出されたレッドのほうが、結局いろいろな人と出会い、そして救われていった。
そう思うと、レッドは憎くて仕方なかった双子の兄パールレッドを、許せるような気になったのだ。
「・・・・いいぜ。殺せよ」
「え?」
レッドは、双子の兄パールレッドと一緒に死ぬことに決めた。
どうせ長く生きてきたんだ。
これ以上、望むことは何もない。
双子として一緒に生まれたのだ。
最後も一緒に死んでいいだろう。
せめてレッドだけでも、愛情を与えよう。
そこまで思い至ることができた。
レッドがそう思えるようになるまでに、マホガニーやアネモネ、多くの生命を見てきたからだろう。
「殺せよ、僕を。殺したいんだろう、僕のこと。悪かったな。お前の苦しみに気づいてやれなくて」
僕は剣を出して、力を入れて握りしめる。
「だけどなあ。お前もだ!!お前も一緒に死ぬんだよお!!」
「え?あ、うわああ!!」
レッドはパールレッドに斬りかかった。
そして、咄嗟に出したパールレッドの魔法に、わざと撃たれたのだ。
強力な魔法だ。
それは、レッドがずっと欲しかったもの。
こんな強力な魔法を、一度でもいいから撃ってみたかった。
そう、レッドは思った。
妬ましかったのは、レッドのほうだ。
さすがだな。
意識がなくなる。
これが死か・・・・。
最後に、レッドは思った。
さようなら、アネモネ。
エタンと幸せにな。
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生き残ったパールレッドは、うつろな目をして茫然としていた。
今までずっと憎んできた双子の弟を、ついにこの手で殺したのだ。
なのに、喜びも達成感もない。
ただただ、意識が遠くなる。
パールレッドは、無意識のうちに目の前にある魔導人形の起動ボタンを押した。
それが何を意味するのか、彼にはもうわからなくなっていたのだ。
大量の魔導人形が、一斉に動き出した。
しかし、やはり未完成だったのだろう。
魔導人形は、起動後すぐに暴走した。
そばにいたパールレッドは、その暴走に巻き込まれ、命を落としたのである。
最後にポツリと、
「俺は、間違っていたんだな・・・・」
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残った大量の魔導人形は、格納されていた工場から飛び出した機体もあれば、工場内で暴走する機体もあった。
飛び出した魔導人形も相当数存在し、それらは各地で大暴れした。
魔導技術共和国パールのいたるところで、急に魔導人形が襲い始めたという連絡を聞いた総裁のメイズは、すぐさま戦力を整える。
このころ、メイズがパールティアから総裁を引き継いでいた。
総裁のメイズは各種族の戦士を呼び集め、早速、魔導人形の討伐に向かわせた。
龍族のマホガニー。
魔族のメイズ、キャナリィ、アリザリン、フラグラント。
エルフ族のミモザ。
そして、人族からは伝説の魔導士アネモネ。
大陸十賢者はあくまで研究員で、戦闘には向いていないため、フラグラント以外は入っていない。
数か月後。
国民の避難が間に合わず犠牲も出たが、各種族から選ばれた戦士の活躍で、外で暴れている魔導人形はすべて沈黙した。
幸い、未完成で性能も従来より低かったことも、理由として大きい。
総裁のメイズは、強力な魔導人形を後世に伝えないことに決めた。
緘口令を敷き、機密扱いとした。
この事件で人的被害も少なからず存在したが、インフラや物的損害のほうが非常に大きかったのだ。
そのため、国民の多くが、魔導技術共和国パールは滅んだも同様だとまで感じるほどだった。
魔導人形はどうやら、魔導、つまり魔道具の盛んな地域に向かう傾向にあったみたいで、暴れた地域はほぼ、魔道具を積極的に利用して生活が便利になっていた都市ばかりだった。
対して、魔道具の普及が進んでおらず、昔ながらの人の手、もしくは魔法を使って農業を行っていた田舎の村や町には、被害がほぼなかったという。
魔導人形の暴走による災害。
これを後世の人は、「魔導災害」と呼んだ。
ようやく魔導災害が終結しても、以前のように魔道具が国を豊かにするといった価値観は崩壊していた。
総裁のメイズはそうしたこともあって、魔道具に頼り過ぎたことを反省した。
そして魔導人形の存在を隠し、ただ「魔導災害」という災害があったということだけにとどめた。
そのころ、陰の魔導士ことアマリリスは、アネモネらに引き渡した魔導人形が暴走するかもしれないと考え、魔導人形を真の完成形に改良していた。
各地で暴れる魔導人形を抑えるため、アマリリスは完成形の魔導人形を量産し始めた。
100体目が完成した時に、アマリリスは、魔導人形の暴走と、総裁メイズの采配により各種族の戦士たちがその魔導人形を討伐したことを知ったのだった。




