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第16話

「こんにちは。お元気かしら」


リリー先生が家に入ってくる。


リリー先生は、初めて会った時から僕をすごく気にかけてくれる。


今も僕を見る目は、とても温かい。


その目の温かさを感じるのは、親友のテェシと、その妹ロゼ以来だ。


しばし、雑談をした。


「そろそろ、魔導人形の開発も佳境に入るころかしら。でも、まだまだ完成には遠く及ばないわね」


「そうか・・・・やっぱりそう簡単にはいかないんだね」


「それから、開発が長引きそうだから、先にアネモネとエタンは式を挙げようかという話も出ているわ」


僕はピクッとする。


そう、アネモネと大陸十賢者エタンは現在、婚約を結んでいる。


年も近いし、お似合いの二人だ。


そうなるのが自然だと思う。


「できれば式には、遠くからでもいいから見に行きたいな」


「・・・・ねえ、レッドさん。もう一度聞くけど、今のあなたの本当の望みは何?私なら、それを叶えてあげられると思うわ」


リリー先生は、いつもこうして僕の望みを聞いてくる。


悲しそうな、申し訳なさそうな目をしながら。


それに対して、僕はいつもこう答える。


「もちろん、アネモネの幸せさ。まあ、でもいまは魔導人形の完成かな。そうすれば式を挙げられるだろう。やっと、人並みの幸せを手に入れるんだ」


「・・・・わかったわ。魔導人形の完成。それがあなたの望みなのね」


少しして、必要な素材を受け取り、リリー先生は戻っていった。


その後、しばらくして。


僕は、魔導人形が完成したというニュースを聞くことになった。


完成させたのは、アネモネと共同開発者の大陸十賢者エタン。


そこに、リリー先生の名前はなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


魔導人形の完成を前にして、アネモネは「陰の魔導士」と名乗る人物を前に、質問をしていた。


「ねえ、本当に私たちが完成したといって発表していいの?私がまったく手を付けられなかった部分を、あなた一人で仕上げたのよね?」


陰の魔導士と名乗る人物は、ゆっくりと首を縦に振った。


その者は深く黒いローブをまとい、男か女か判別がつかない。


しかし、その身にまとう魔力はアネモネよりもはるかに膨大で、ただ者でないことだけは感じ取れる。


低く、小さい声で、陰の魔導士は言った。


「私の望みは、魔導人形の完成。功績に興味はありません」


そう言って、立ち去った。


陰の魔導士の正体は、ずっとそばにいたはずのリリー先生こと、アマリリスである。


かつてアマリリスは、この姿と名前で、魔導王国パールを破滅させるために邪神から魔力を吸い取る魔道具を作成したこともある。


そしていまは、魔導人形の完成に手を貸すため、リリー先生という存在の記憶を忘却魔法で消し、改めて陰の魔導士という名で二人に協力を申し出たのだ。


そして、魔導人形を「一応」の完成に到達させた。


わざわざ姿を変え、名前を変えたのは、誰が開発したかわからなくするためだ。


かつて魔導王国パール時代に、邪神の魔力を吸い取ってはどうかと提案した時も、それを阻止する勢力はいた。


しかし、身元がわからなかったため、阻止することができなかった。


アマリリスは、自嘲する。


「私、一体何をしているのかしら。レッドさんは私たちのご主人様ではない。ご主人様の魂を判別する魔道具は、ご主人様ではないと告げている」


「それでも私は、レッドさんがご主人様のような気がする。そのため、レッドさんの望みを叶えようと動いている」


「しかし、魔導人形。あれは人が手にするには過ぎたもの。再び、魔族が過ちを犯さなければいいけど」


アマリリスは一応、魔導人形の動作を安定させ、開発を一段落させた。


が、それはあくまで応急処置にしか過ぎず、高度な技術を持つアマリリスから見たら、まだまだ納得できる段階ではなかった。


少なくとも、あと数百回の動作試行は必要だ。


しかし、アネモネと大陸十賢者エタンが強く完成を主張したので、引いたのである。


アマリリスは、魔導人形の開発が不完全燃焼だったこともあり、二人のもとを離れてから、さらに魔導人形の研究に打ち込んだ。


その結果、魔導人形をより進化させた形ともいえる、魔法生命体というものを作り出すことに成功した。


アマリリスは、使徒の中では一番魔道具を作ることに興味を持っているので、作れると思ったら、つい作ってしまう癖がある。


アマリリスが作り出した魔法生命体は、もはや人族と見分けがつかない。


自分も人族と思い込んで、生活をするほどだ。


人族同様の力を持ち、魔力も持つ。


魔法を操ることだってできるのだ。


魔導人形のそれは、魔法を操っているのではなく、プログラムされた魔法を放っているだけ。


そこが、魔法生命体との大きな違いだった。


魔法生命体の欠点は、少し融通が利かない性格を持つということぐらい。


だが、そんなことは気にならないくらい、働き者の性格をしている。


人族は創造神が創った魂が入っており、自らも何かを創造することができる。


一方で、魔法生命体はそれが苦手なのだ。


魔法生命体と人族との違いは、ほんのわずかと言える。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


大陸十賢者エタンとアネモネが魔導人形を完成させたというニュースが、魔導技術共和国パールの国中を駆け巡った。


そのニュースを見て、にやりと笑う男がいた。


レッドの双子の兄であり、かつての魔導王国パールの元王子であるパールレッドであった。


パールレッドは虎視眈々と復讐する機会を狙っており、魔導人形の完成を待っていた。


そして、ついに動き出した。



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