第15話
ついに、アネモネの身体から、暴走した魔力を除去することに成功した。
それに伴い、コールドスリープ状態が解消され、アネモネが目を覚ました。
アネモネの目が、数百年ぶりにゆっくりと開く。
その場には、僕とエタン、リリー先生、そしてパールティアが立ち会った。
パールティアは大声をあげながら喜び、起き上がったばかりのアネモネに抱き着いた。
「よかった!!アネモネ。本当によかった!!みんなあなたを心配していたんだぞ!!」
アネモネはしばらくぽかんとしていたが、
「えーと、パールティア、様?あれ、私、ここで何をしていたの?すごく頭がスッキリしているけど・・・・」
「うん、身体に不調はなさそうだな。いいとも、いいとも。今までのことを全部、私が説明しよう。そうだ、お腹が空いただろう。なんせ、数百年食べていなかったのだから」
「???」
アネモネの復活は、すぐに、マホガニー、メイズ、フラグラント、キャナリィ、ミモザといった、かつて共に戦っていた軍の関係者にも伝えられた。
ところが。
「・・・・本当に本気で言っているのか?」
パールティアは、真剣な表情でアネモネに聞いている。
「ええ、そうよ。だあれ、あの方は?」
アネモネは、ほぼすべてを覚えていた。
魔力にも身体にも、まったく不調はない。
しかし、ただ一つ。
ある人物に関する記憶だけが、すっぽり抜け落ちていた。
それでも、他はまったく問題なかった。
その後。
アネモネは、すぐに魔道具開発の研究室で働き始めた。
自分のコールドスリープ状態の解消に力を尽くしてくれたという、大陸十賢者のエタン。
それに、リリー先生。
この二人と、魔道具開発を始めたのだ。
その内容は、魔導人形の改良である。
かつて大陸十賢者が、魔神具の制作の過程で生み出したという、戦争兵器になりかねない魔導人形。
しかし、その動作の不安定さゆえに、研究は保留になっていた。
そこにアネモネは目を付けた。
不安定さをなくし、将来的には生活の補助をする人形として活用することを目標に、改良することを決めたのである。
アネモネはにこにこと、大陸十賢者のエタンに話す。
「ねえ。素敵だと思わない?調理を専門にする魔導人形や、掃除を専門にする魔導人形。これらが完成したら、私一人でだって暮らせるわ」
「・・・・あれ、変ね。私、いまも一人で暮らしているのに、なんだか以前は別の人と暮らしていたような気がす、うっ、頭が・・・・」
「大丈夫かい?無理をしちゃいけない。そら、回復魔法だ。心配することはない。君には僕がついているんだから」
アネモネは、エタンを話し相手に魔導人形の夢を語る。
だが、ふとした弾みで抜け落ちた記憶に触れ、混乱し、頭が痛くなる。
それをエタンが癒し、記憶を戻さずにいる。
実は、アネモネはレッドの記憶だけが抜け落ちていたのである。
そして、それを知ったレッドは、自分のことは無理に思い出させなくてよいと、周囲にお願いしていた。
大陸十賢者のエタンは、安置されているアネモネを見た時から好意を抱いており、無理にレッドを思い出させることはしなかった。
そんな二人の様子を、リリー先生ことアマリリスは黙って見ていた。
一方、大陸十賢者でも、しばらく保留にしていた魔導人形の開発を再開した。
当初は予算の関係や、魔力回路の困難さのため開発を断念したが、魔導人形の有用性は明らかだった。
さらに、以前よりも開発力が上がり、魔導人形の開発が可能となる環境が整ってきたためである。
それに、大陸十賢者であるエタンが伝説の魔導士アネモネを目覚めさせ、そのアネモネが魔導人形の開発に着手しているという情報を入手したことも、原因の一つだ。
大陸十賢者のほうでも、伝説の魔導士アネモネのことはよく知られていた。
アネモネに対しては、その魔力や知識量に敬意を払っている。
しかし同時に、そのアネモネが着手した魔導人形の改良を、自分たちのほうが早く完成させたいという気持ちが強く出たのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は毎朝、新聞を読むのを楽しみにしている。
僕が取っている新聞には連日のように、稀代の魔導士アネモネと、国一番の権威を持つ大陸十賢者による、魔導人形の開発競争の記事が載っているからだ。
今日はアネモネ側がこんなことに成功したとか。
次の日は、それに対して大陸十賢者がここの部分を改良することに成功したとか。
そんなことが、次々と載せられてくる。
記事に対するインタビューも載っており、開発に関する苦労話や、魔導人形の有用性、その上手な利用の仕方の提案などが書かれている。
街の人たちも、魔導人形は高額だろうが、その便利さに憧れている。
今、国で一番注目されている話題と言っていい。
おかげで、アネモネは国一番の有名人だ。
連日、アネモネの家には記者だけでなく、魔導士として弟子入りを願う者も押しかけているらしい。
さらに、数百年の時を経てコールドスリープから目覚めた奇跡の魔導姫という名での取材もあると聞いている。
ただ、僕のことだけを忘れているのだ。
・・・・寂しくない、と言えば嘘になる。
だけど、これで良かったという思いもある。
そう。
アネモネが僕から離れたというのは、ある意味で僕の願った状態でもあるのだ。
トントン。
戸を叩く音がする。
おっと、いけない。
今日は朝から、お客が来る予定だった。
その客とは、リリー先生だ。
いま、リリー先生はアネモネと大陸十賢者エタンと共同で、魔導人形の開発に携わっている。
今日は、その援助資金と必要物資を受け取るために来る。
僕が援助したいと申し出たのだ。
魔導人形の開発を応援する意味もあるが、一番はやはり、アネモネの幸せを願ってのこと。
今の魔導人形の開発も、無一文でできることではない。
ある程度、資金もいる。
魔力回路や伝達回路の開発にも、素材が必要だ。
高価なものから特殊なものまで、いろいろと必要らしい。
僕はその手助けのため、冒険者となり、必要とされる素材を回収して回っている。
今日は、依頼のあった素材がすべてそろったという連絡をしたので、リリー先生が取りに来る予定なのだ。




