第4話
剣術大会なんて知らなかった。
ラナンから聞いたところによると、入学の時期から三か月後に、全生徒対象の剣術大会が行われるという。
この行事には、初等部から高等部まで全員が出場資格を持つ。
さらに寮対抗の行事でもあるので、非常に盛り上がるのだそうだ。
特に活躍するのは、騎士科と領主科の生徒だとか。
騎士科はともかく、領主科は騎士と同等レベルまで鍛えられるからだ。
領主科を志望する生徒は、貴族の跡取りがメインである。
跡取りとしてふさわしくなるよう法律を学んだり、跡取り同士で交流したりするのが一般的だが、どうやら強さも必要らしい。
だから、ほとんどの領主科の生徒は「大将軍の剣」と「大将軍の兜」寮に所属している。
剣術大会も、実質はこの二つの寮の競争だそうだ。
「シルバーの栄光」寮には、領主科志望の者はいない。
騎士科志望者も数名しかおらず、いつもその人たちが大会に出ているのだという。
そんな状態のところへ、「大将軍の兜」寮のエース候補を僕が簡単にのしてしまった。
だから、慌てて寮長が牽制のために出てきたのだろう。
だけど、そんなことを聞いたら、なおさら僕が出て目立つことは避けたい。
ここは、のんびり応援する側に回るのがよさそうだ。
あ、ナスは出るのかな?
出るのなら、ナスの応援に回ろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日の昼は、珍しく一人でいる。
ナスもラナンも、教員に呼び出されたらしい。
「久しぶりに一人だな」
僕はそう独り言を言いながら、いつもの場所へ移動した。
お弁当を広げて食べようとしたら、懐かしい方と再会した。
キャロット・アプリコット公爵令嬢様。
今回、プラチナ帝国から交換留学生の代表として、このシルバー王国のアカデミー高等部に入学したと聞いていた。
けれど、まさかここで会うとは。
キャロット様は僕を見つけて、近寄ってくる。
「あら・・・・久しぶりね。私のこと、覚えてる?」
もちろん覚えていますよ。
僕は口には出さず、首を縦に振って態度で示した。
驚きすぎて、言葉が出なかったのだ。
その様子を嬉しそうに見ながら、キャロット様はそばへ寄ってきて座る。
なんで、そばに座るんだろう。
少し居心地が悪い。
ちらりとキャロット様の方を見ると、彼女は僕を見つめていた。
そして、どこか言いにくそうな声で言う。
「ねえ、小耳にはさんだんだけど、あなた、皇太子補佐官の女性と仲がいいんですってね」
??
皇太子補佐官?
誰のことだ。
そんな人と知り合いなんて・・・・あ、もしかしてエリカさんのことかな。
仲が良いといえば、良いかも。
よく話をするし。
「はあ。エリカさんのことでしょうか。ギルドの依頼で知り合って、よく話をするかもしれません」
僕がそう答えると、キャロット様は、
「そう・・・・」
とつぶやく。
「ねえ。その人のこと、どう思ってるの?」
キャロット様が僕に問い詰める。
そのとたん、別の男性が話に割り込んできた。
「やあやあやあ。こんなところにいたのですか、探しましたよ、我が姫。どうか、私の愛を受け入れていただけませんか。あなただけの騎士となることを誓います」
見るからに貴族子息と分かる青年が、キャロット様の前でひざをつき、騎士の誓いのポーズを取る。
それを見たキャロット様は、またか、といううんざりした表情を作った。
誰かと思えば、以前、僕に声をかけてきたアキレア・クローバー侯爵子息であった。
アキレア・クローバー侯爵子息は、僕のことなどいない者のように扱い、キャロット様を口説く。
「どうか、私の婚約者になってください。そして、ともにシルバー王国の発展に協力してほしいのです」
僕は黙って、キャロット様に求愛するアキレア・クローバー侯爵子息を見ていた。
ところが、キャロット様は、
「クローバー侯爵子息様、今は人がいます。そのような話は、また日を改めてしていただけますか」
と冷たい態度で断った。
「おお、今は機嫌が良くないご様子。では、また日を改めて申し込みをさせていただくとしますか」
そう言って引き下がるが、この人、口調も動作も芝居がかっていて、いまいち誠実さが感じられない。
キャロット様も、僕と同じ感想のようだ。
それに、去り際、ちらりと僕の方を見た気がする。
そして今度は、アキレア・クローバー侯爵子息が完全に視界からいなくなるのを見計らったように、建物の陰からプラチナ帝国第二皇子ジェード殿下が護衛とともに現れた。
プラチナ帝国第二皇子、ジェード・プラチアーナ殿下。
この方は元々、プラチナ帝国の皇太子候補だったらしい。
だが、自分からその座を降りて、いずれ臣籍降下をする予定だとか。
現在は、弟君の第三皇子が皇太子だと聞いた。
「ふぅ、彼にも困ったものだ。ああもあからさまだと、婚約を受けたくても受けられないよね」
ジェード殿下は、涼しげな顔でそう言った。
言った後でキャロット様のむすっとした表情に気づき、第二皇子ジェード殿下は慌てて言い直す。
「うそうそ。彼には一切気がないということは分かっているよ。だからこそ、余計に対応に困るよね」
「それに一応、僕も君の婚約者候補だし」
パチンと、ジェード殿下がウインクする。
えええ。
そうなんだ。
でも、このお二人は高い身分にもかかわらず、婚約者がいないと聞いている。
逆に、このお二人が結ばれる方が自然なのかもしれない。
そう考えていると、キャロット様は僕の方を見て、
「わたしは!!」
「ごめんごめん、本当にからかいすぎた。謝るよ。調子に乗った。ほんとにごめん」
なぜか第二皇子ジェード殿下が、キャロット様に謝る。
なんでだろう。
よく分からん。
というか、この場にいる僕が明らかに場違いだ。
こっそり退散したほうがいいかも。
二人の護衛からの視線も痛いので、僕はこっそり後ろへ移動する。
だが、そこをなぜか第二皇子ジェード殿下に止められた。
「ちょっと待って。君も聞いておいてね。僕がここへやってきた理由は二つある。一つは婚約者を見つけることだ。候補者は、目の前にいるキャロット嬢と――」
「シルバー王国の王族で、年齢に合う誰かとなる」
そう言いながら、ジェード殿下は僕の方を見てにっこり笑う。
なぜだろう。
怖い。
「もう一つの理由が、君だ」
と言って、ピシッと僕の方を指す。
え、僕?
僕が理由?
王族らしくない冗談を言う人だな。
詳しく説明したそうだったが、講座の時間が迫っていたため、また話す約束をさせられて別れることになった。




