第3話
夜。
「シルバーの栄光」寮の談話室にて。
僕はラナンと、朝の話の続きをしていた。
「ねえねえ、ラナン。今朝言っていたプラチナ帝国からの留学生で、女性の代表が公爵家だって言ってたよね」
「あ、うん。言った」
「名前って分かる?」
「え、うん。たしか・・・・アプリコット公爵令嬢だったかな」
やっぱり。
そんな予感はしていたんだ。
魔法学園に続き、またキャロット・アプリコット様とジェード皇子と一緒に、アカデミー生活を送ることになるのか。
アプリコット公爵令嬢。
キャロット・アプリコット様とは、少し因縁がある。
以前、僕がアプリコット公爵家に仕えていたとき、側付きを命じられ、しばらくキャロット様に付き従っていたのだ。
別に何か嫌なことをされたわけではない。
ただ、以前に気まずい思いをしたまま別れているので、会うのはなんとなく気まずい。
なるべく会いたくないなあ。
僕がそう考えていると、天井の端がガタガタと動いた。
びっくりして見ていると、そこからナスが現れた。
なんと抜け道があるらしく、先輩から聞いた道をさっそく使ってきたというのだ。
「へっへっへ。こんばんは。俺も仲間に入れてくれよ。寮は違っても、俺はお前たちと一緒にいたいんだ」
「そうそう、さっきとんでもない話を聞いたぞ」
「なんでも、このアカデミー高等部にシルバー王国の王太子が、身分を隠して入学しているんだとさ」
「身分を隠し、一般の生徒と同じ目線に立つことで、国民に寄り添えるようにする。それが歴代の王太子に課されているらしい」
やっぱシルバー王国はすげー、とナスはひとり感心していた。
「そんなこと、逆立ちしてもプラチナ帝国ではありえないな」
それに対し、ラナンは苦笑いを浮かべる。
「まあまあ。その方法も最近では批判されていてね。王子が身分を隠していると、周囲は見張られているようで窮屈だとも言われているよ」
さらにラナンは続ける。
「残念ながら、身分は完全に隠れていないんだ。公にはしていないけど、王太子だろうと噂されている人物はいるよ」
「その人物とは、『スレートの盾』寮にいるフェレット。フェレット・モンステラ伯爵令息が王太子なのではないかと噂されているそうだよ」
ナスが遠い目をした。
「ああ、フェレット様か。たしかにキラキラしていて、王子様然としていたな」
「ファンというか、取り巻きというのかな。講座の教室でも、彼の周りには貴族平民を問わず、令嬢たちが侍っていたよ」
けれど、ナスはそっと考える。
(が、まあフェレット様は王太子ではないな。俺の記憶が間違いでなかったら、決定的な違いがある)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「一体、何を考えているの。さすがにあれは放置しすぎでは?」
ここは、シルバー王国の王城内にある秘密の部屋。
シルバー王国の要人中の要人にしか、入ることが許されない場所である。
そこに、大将軍シェーラと国王ロンバムウ・シルバーナ、それに政務大臣兼軍務大臣、かつ第一将であるジングート・サンライズ公爵がいた。
「王太子の身分を隠してアカデミー高等部に入れる方法を提案したのは、たしかにわたくしですが」
ふう、と大将軍シェーラはため息をつく。
それに対し、ジングートが恐る恐る弁解した。
「大将軍様、国王陛下も内心では心配なのです。ですが、ご本人がどうしてもと言いまして。何しろ、言い出したら聞かない方ですし」
国王も続ける。
「まあ、あれは腕も立つし、機転も利く。何かあっても、本人の責任とするつもりです」
シェーラは二人の表情を見て、あることに気づいた。
「はあ、分かりました」
「もともと、あなたたちはわたくしの側に置こうとしていたのですね。まあいいでしょう。その策に乗ってあげます」
二人はギクッとして、顔色を変えていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日。
今日は午前中の時間を使って、戦闘技術の演習を行う予定だ。
これは全科必修となっており、どの科を卒業するにしても、合格をもらわなければアカデミー高等部を卒業できないことになっている。
アカデミー卒業生たるもの、最低限の戦闘技術を身に付けておかないといけない、ということなのだろう。
僕は文官科を選んでいるが、Cランク冒険者でもあり、剣の腕前はそこそこある。
だけど、こういうところでは目立たないほうがいいんだろうな。
なので演習の時間は、同じ寮の、剣が苦手な生徒に剣を教えることにした。
「やっ。はっ。ふぅ。・・・・いまのどうですか?」
剣を振るっているのは、同じく今年入学したキサノルヤ。
体格は悪くないが、今まで剣を握ったこともない平民出身者だ。
僕が剣を見てあげようかと声をかけて、仲良くなった。
友人一人ゲットだぜ!
一時間ほど剣を振って、身体がくたくたになったキサノルヤを見て、僕は声をかける。
「少し休憩を入れようか」
「やったー」
そう言って、キサノルヤは腰を下ろし、ぐったりする。
「君って、指導がうまいんだね。すごく分かりやすかったよ」
と喜んでもらえた。
だけど。
そうかなあ。
僕はシェラから学んだだけなんだけど。
シェラの教え方も分かりやすかったので、その真似をしてみたのだが、どうやら正解だったようだ。
そう考えながらぼんやりしていると、僕に勝負を申し込んでくる人物がいた。
「やあ、君が『特政枠』クンかい?一度、剣でお手合わせを願いたいね」
特政枠という名称は、どうやらみんなのプライドを刺激するようで、僕は少々うんざりし始めている。
今度ジングート将軍に会ったら、文句の一つも言ってやりたい。
「手合わせですか?まあ、いいですけど」
「ふふん、さすが特政枠。生意気だね。一応礼儀として名乗っておこう。私はシュガーパイン。騎士科所属だ」
「行くぞ!ソレッ!」
挨拶が終わると同時に、シュガーパインは剣を振るってきた。
少し卑怯じゃない?
だけど、僕は手にしていた剣で軽々と受け止めた。
受け止めた瞬間、分かった。
この人、僕よりは弱い。
軽く十合ほど打ち合い、相手の剣を強く打って、手をしびれさせた。
それで、手合わせを終わらせる。
そのとき、周囲から軽く拍手が起こった。
「やるね。彼、シュガーパインは『大将軍の兜』寮では、エース候補なんだよ」
「その彼を子供扱いするとは、君、相当強いんだね。ああ、シュガーパイン。いつまでもショックを受けていてはいけないよ。彼、特政枠クンのほうが強い。ただそれだけだ」
そう言ってシュガーパインに声をかけたのは、貴公子然とした男子生徒だった。
とてもこちらを見下そうとしない態度である。
「ああ、申し遅れたね。私はシザンサス。『大将軍の兜』寮長を務めている。今度の剣術大会では、君が『シルバーの栄光』寮の代表になるのかな?」




