第2話
さっそく、入学式の次の日から授業が始まった。
プラチナ帝国の魔法学園と同じように、選択した講座ごとに教室が決められており、生徒はそこへ移動する。
僕は文官科を選んだので、文官科の講座を取ることにした。
ほかには、騎士科や魔法科、薬師科、領主科というものがあるそうだ。
アカデミー高等部では、自分が入った科の中から自由に講座を選ぶことができる。
僕は張り切って、講座が行われる教室へ向かったのだった。
昼休み。
僕は、エクレアたちが用意してくれたお弁当を持って、うろうろしていた。
どこでお弁当を食べようかな。
昼食は食堂で食べてもいいし、中庭でもいい。
教室で食べてもいいし、寮の個室に戻っても構わない。
僕はせっかくなので、日当たりのよい場所を見つけて、そこを昼食用の場所にしようと探していたのだ。
ああ、なんだか懐かしい。
かれこれ半年以上前、僕は隣国のプラチナ帝国の魔法学園にいたんだっけ。
そこでも昼食時に、今と同じように食べる場所を探していた。
あのとき、ナスに出会ったんだよなあ。
ナス。
僕の一番の親友。
たしか、僕と同時にここへ入学したと聞いているんだけど、どこにいるんだろう。
会いたいなあ。
そう思いながら歩いていると、出会ったのだ。
ナスに。
魔法学園のころからの付き合いでもあるナスは、色々と訳ありで、かつてはプラチナ帝国の皇太子だったこともあるらしい。
だけど、今は平民だ。
以前、魔法学園にいたときと同じような出会い方をしたので、僕はおかしくなって笑ってしまった。
ナスは僕を見つけて笑う。
笑い顔がよく似合う。
「よう。ようやく会えたな。これでも結構探していたんだぞ。この学園、広いからなあ。お前、どこの寮だよ?」
「『シルバーの栄光』寮だよ」
「あ~、やっぱ、あそこかあ。俺は『スレートの盾』寮だな。お前も分かったと思うが、俺らのような後ろ盾がない者は、上の寮には入れないようになっている」
「それに加えて、どうやら入った科によっても、振り分けられる寮が決まるようだ」
「俺は騎士科に入った。騎士科の学生は『スレートの盾』寮と決まっているそうだ。そういうお前は、文官科か薬師科のどっちかだろう?」
「そう。僕は文官科なんだ」
ナスとは、僕が魔法学園を追放され、商業ギルドで商業人をやっていたときからの付き合いだ。
ずっと僕を助けてくれた、一番の親友である。
商業ギルドを追放されてから別れたままになっていたが、僕がシルバー王国でアカデミー高等部に入ると連絡すると、俺も行くと言ってきてくれたのだ。
そこからは、話が尽きなかった。
まず、ナスから「ここへ来るまでは何をしてたんだ?」と聞かれた。
コパー都市国家のことをまるまる話すわけにはいかないけれど、調査の仕事をしていたことは言ってもいいかな。
言える範囲で話すと、ナスは「あいかわらずだな」と笑っていた。
ナスは、シルバー王国で騎士団か王国軍に入り、一生ここで暮らしていくつもりでプラチナ帝国を出てきたと言う。
「まあ、あのままプラチナ帝国にいても日の目は見ないしなあ。俺はここで騎士か軍人として生きていくことにするよ。おまえはどうすんだ?」
「僕は・・・・文官。王国の文官になろうかと思っているんだけど。どう思う?」
「文官かあ。良いんじゃねえ?戦いは好きじゃないんだろ」
「プラチナ帝国は母国だけど、ここシルバー王国も結構過ごしやすそうだし。知ってるか? ここの政治は、各大臣の会議で決めるそうだ」
「国王の権限は小さくて、せいぜい議長程度らしい。各大臣の中には貴族もいれば、元平民ってのもいると聞いた」
「その会議をまとめているシルバー王国一の権勢家が、政務大臣ジングート・サンライズ公爵閣下で、元平民なんだと」
「これ、プラチナ帝国ではありえないぞ」
ナスは少し興奮気味に話す。
あれ?
政務大臣ジングート公爵って、ジングート将軍のことかな?
別人?
政治家と将軍って、同じ人じゃないよね。
僕が会ったあのジングート将軍は、どっちのジングートなんだろう?
昼ご飯を食べ終わり、ナスと一緒に午後の講座の教室へ向かう途中、同寮生のラナンに会った。
「やあやあ、昨日ぶり。あれ?隣は友人かい。早速友人ができたようで、なによりだよ」
「はじめまして。ぼくは『シルバーの栄光』寮のラナンと言います。これからよろしく」
ラナンは、ニコッと笑って挨拶をする。
思ったんだけど、ラナンってコミュ力が高くないだろうか?
僕のときも、初対面で友人だと言ってきたし。
ナスも、
「よろしく」
と挨拶を返している。
たまたま次の講座が全科共通講座だったので、三人そろって教室へ向かうことになった。
その途中、別の生徒に呼び止められてしまった。
取り巻きを連れていることから、身分が高そうな気がする。
「やあ、はじめまして。私の名はアキレア・クローバー」
彼はそう言って、一礼する。
そしてナス、ラナン、僕を順に眺めてから、
「君たちのうち、誰だろう?特政枠になっているのは」
と質問してきた。
その会話を聞こうと、周りの生徒が何人か足を止める。
視線が僕の方を向いているので、どうやら僕に言っているようだ。
だけど、僕はその「特政枠」という言葉を聞いたことがなかった。
ナスも「何だそれ?」という顔をしている。
でも、ラナンなら知っているかもしれない。
「特政枠って何?」
僕がそう聞くと、やはりラナンが教えてくれた。
「特政枠。特別政務大臣推薦枠の略で、政務大臣が特別に推薦した、とても優秀な生徒のことを言うんだよ」
「ついでに言うと、こちらの方は内務卿クローバー侯爵の子息だ。このアカデミー高等部では、シルバー王国派閥のトップにあたる」
「それに『大将軍の剣』寮の寮長でもある。気を付けて発言することをお勧めするよ」
つまり、生徒の中で一番身分が高く、影響力を持っているということか。
しかし、どういうことだろう。
僕はたしかに、ジングート将軍の推薦で入ったと聞いている。
でも、とても優秀、ではないな。
なので、正直に答えることにした。
「誤解じゃないかな。僕はジングート将軍様の推薦で入ったと聞いているけど、特政枠という言葉は聞いたことがありません」
そう言うと、周囲からどよめきが起きた。
騒ぐ周囲に対して静かにするよう促し、アキレア侯爵子息は僕に言う。
「一応言っておくけど、特別政務大臣推薦枠が適用されて入るのは、君が初めてなんだ」
「それに、ジングート政務大臣閣下はシルバー王国一の要人だ。そんな人が推薦する人物ということで、君はすごく注目されている」
アキレア侯爵子息は、少し呆れ顔で忠告してくれた。
僕がこのアカデミー高等部に入るきっかけとなったのは、コパー都市国家での調査依頼が終わった後のことだ。
ジングート将軍が、僕にこれからどうしたいか聞いてくれたことから始まる。
このとき僕は、ジングート将軍に、もう一度学び直したいと願った。
すると、それならシルバー王国の育成機関であるアカデミー高等部に入学してはどうかと提案されたのだ。
本来は試験があるが、自分が推薦することでその試験は免除される。
だから遠慮せずに入学してくれと言われて、その提案に乗った。
けれど、まさかこんな大ごとになるとは思わなかった。
アキレア侯爵子息は、僕がショックを受けている様子を見て、
「君が優秀でないと、ジングート政務大臣閣下の瑕疵になる。まあ、そんな心配は必要ないと思うが、頑張ってくれたまえ。それではな」
そう言って、午後の授業に向かっていった。
ん?
今、なんて言った。
僕が優秀でないと、ジングート将軍の瑕疵になる?
責任重大じゃないか。
それにジングート将軍は、やっぱり政務大臣でもあるみたいだ。
そんな大事なことを、なんで言ってくれないんだ。




