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第1部  シルバー王国アカデミー高等部の「特政枠」クン 第1話


「ご主人様。私はクレオメと申します。どうか、私にさん付けはなさらず、呼び捨てにしてくださいませ」


これが、僕とクレオメの最初の会話だった。



その少し前。


僕は日課のギルドのお手伝いから帰ってきたところだった。


「ふう・・・・やっと家に着いた」


ギルドで肉体労働をしていたので、すごく疲れた。


僕は疲れた身体を引きずりながら、ようやく家に帰ってきた。


屋敷の門をくぐると、庭に一人のメイドがいるのが見えた。


どうやら庭の世話をしているらしい。


見覚えはなかったので、新しく入った子なのかな。


かくいう僕は、貴族でもなんでもない、ただの平民だ。


金持ちでもなく、なんなら毎日ギルドで依頼を受けて生活している程度である。


だけど、僕の家族――血はつながっていないけれど、僕の親代わりでもあるメイドたちは、とても優秀だ。


おかげで大きな屋敷も用意され、使用人にはすごい美人が何人もいる。


庭の世話をしていたメイドは、僕の視線に気づいたようだった。


立ち上がって振り返ると、丁寧にお辞儀をする。


そのメイドは、しわ一つないメイド服に身を包み、背筋をぴんと伸ばしていた。


その顔はドキッとするくらい整っており、僕は向けられた視線に思わずドギマギしてしまう。


「はじめまして。ご主人様。私はクレオメと申します。つい先日から、このお屋敷でお世話になることになりました。よろしくお願いいたします」


彼女は王族にも通用しそうな見事なカーテシーをとり、僕に挨拶をした。


きっと、メイド長のエクレアに指導を受けたのだろう。


「ありがとう。クレオメ・・・・さん。おかげで庭がきれいだね」


「もったいないお言葉でございます。ですが、私にさん付けは要りません。どうか呼び捨てにしてくださいませ」


「え、あ、うん。分かったよ」


後でエクレアに聞くと、クレオメは土属性魔法が得意らしく、庭の管理にはうってつけなのだとか。


そういえば、庭の花がきれいに咲き誇っている。


これもすべて、クレオメのおかげなのだろう。


――このときの僕は、クレオメがのちに思いがけない秘密を明かすことになるとは、まだ知る由もなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その夜。


僕は明日のことを考えて、少し落ち着かない気持ちでいた。


明日、シルバー王国の育成機関の一つであるアカデミー高等部の入学式に参加する予定だ。


その後から、寮に入ることになっている。


少し前まで僕は、中央平原三強の一角であるプラチナ帝国に住んでいた。


けれど今は、シルバー王国に移り住んでいる。


シルバー王国の文化や風習は、プラチナ帝国とは少し違う。


なので、詳しいことはメイドの一人であるシェラに教わっている。


シェラは長いことシルバー王国に住んでいたらしく、詳しく教わるには適任なのだ。


シェラから聞いた話では、アカデミー高等部は全寮制らしい。


寮の中には個室もあるが、共同の談話室もあり、寮生と親交を深めるにはうってつけだという。


僕は同年代の友人が少ない。


だから、今から楽しみで仕方がない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌日。


少し緊張して迎えたアカデミー高等部の入学式は、思っていたよりもあっさりと終わった。


式の最中、僕は何度も周囲の生徒たちを見てしまった。


この中に、僕と友人になってくれる人がいるかもしれない。


そう思うと、胸が少しだけ弾んだ。


周りには貴族の子息だけでなく、平民の生徒もいる。


驚くことに、さほど裕福ではなさそうな家の平民の子供も入学しているようだった。


シルバー王国は貴族と平民の身分差が少ないと聞いていたけれど、本当にその通りなのだと実感する。


僕も今日から、ここのアカデミー高等部の生徒だ。


ここでは、生徒であっても従者を付けてよいことになっている。


高位貴族の子息や令嬢には従者や護衛が付いていることも多く、そのあたりは自由らしい。


僕は今回、従者としてエクレアとシェラ、それにクレオメを選んだ。


僕の屋敷にはメイドが十人ほどいるが、さすがに全員を連れてくることはできない。


なので、メイド長であるエクレアのアドバイスを参考にして決めたのだ。


さあ、次はいよいよ入寮式だ。


アカデミーの生徒は全員、四つある寮のうちの一つに入る決まりになっている。


寮同士で競わせることで連帯感や共同生活を身に付けさせ、将来シルバー王国の政府の一員として役立てようとしているらしい。


寮同士の競い合いは、寮生が一丸となれるし、助け合いも生まれるため、とても評判が良いのだとか。


アカデミーにある寮は、全部で「大将軍の剣」「大将軍の兜」「スレートの盾」「シルバーの栄光」の四つに分かれている。


それぞれシルバー王国の著名な人物の名前に由来しているらしい。


とくにスレートという人物は、シルバー王国の初代にあたる方だとか。


盾担当をしていたと伝わっている。


「あ~、楽しみだ。僕は一体、どこの寮に入るんだろう」


寮を決めるのは、アカデミー高等部の職員だ。


希望する学科を“参考”にして振り分けるのだという。


それ以外にも、家柄や育ってきた環境など、もろもろを考慮し、寮生活がうまくいくように決めているのだとか。


入寮式の結果、僕は「シルバーの栄光」寮に決まった。


さっそく、「シルバーの栄光」寮がある棟へ入る。


寮の監督生に案内され、寮の説明を受け、個室に荷物を置いて、ようやく一息ついた。


ここには、従者用の部屋も用意されている。


一人一人のプライベートな空間をしっかり確保しているあたり、生徒への配慮が行き届いているように思えた。


僕はさっそく、共同の談話室へ行って友達を探そうと個室を出た。


「行ってらっしゃいませ。ご主人様」


エクレアの言葉を背中に聞きながら、僕は談話室へ向かう。


すると、一人の生徒が座っていた。


今日、一緒に入学式に出ていた男子生徒だ。


「やあ。部屋はどうだったい?落ち着いたか?ぼくはラナン。これからよろしくね。君の友人第一号だ」


彼は気軽に声をかけてくれた。


僕も嬉しくなって、すぐに答える。


「部屋はまあまあだね。こちらこそ、友人になってくれると嬉しいよ」


それから、僕とラナンはしばらく話をした。


「君はシルバー王国に来て日が浅いんだね。ぼくはアカデミー高等部に入ったのは今日だけど、初等部からの持ち上がりだから、アカデミーのことは色々詳しいよ」


そう言って、ラナンは色々と話をしてくれた。


シルバー王国は、貴族と平民との差がプラチナ帝国より少ないとされている。


けれど、実はそれほどでもないらしい。


この寮も同じだ。


表向きは平等と謳っているが、実際には格差が存在する。


四つの寮には明確な序列があり、トップは「大将軍の剣」寮。


次いで「大将軍の兜」「スレートの盾」「シルバーの栄光」の順になっており、この序列を崩すことはできないというのだ。


僕は驚きの情報ばかりで、頭がパンクしそうだった。


そんな僕を置いて、ラナンはさらに話を続ける。


実は、今年はプラチナ帝国から特別留学生を迎えている。


もちろん、両国の親交のためだ。


そして留学生の女性の代表者は公爵令嬢で、男性の代表者は第二皇子殿下だという。


どちらもプラチナ帝国の魔法学園との交換で、プラチナ帝国の代表として二年間留学する予定だとか。


もちろん、全寮制に合わせて寮に入る。


だが、入る先は当然、トップである「大将軍の剣」寮だ。


「『大将軍の剣』寮は、シルバー王国のトップ層である高位貴族に占められているんだ。身分差が少ないとか、平等とかは見せかけだよ」


ラナンは残念そうに、そう締めくくった。


衝撃の話ばかりだった。


夜も遅くなり、そろそろ寝る時間になった。


僕が個室に戻ろうとすると、


「あ、そうだ。良いものをやるよ。はい、お近づきの印」


ラナンはそう言って、薄い本を渡してきた。


中身を開けると、そこには肌色のお姉さんがたくさん載っている。


いわゆる、エッチぃ本だった。


「遠慮するなって。あれ?もしかして、こういうの初めて見たのかい。あ、従者が女性だっけ?見つからないように楽しみなよ」


ぐふふと笑うラナンに別れを告げて、僕は個室に戻った。


個室にはエクレアがいて、すでに薄い本に目を付けていた。


どうやら、どのような内容かも分かっているようだった。


「親愛なるご主人様?このような本に興味があるのですか。こんなものを見るよりも、わたくしが実演して体験させてさしあげますが?」


笑顔なのに、周囲が冷えるような声だった。


シェラも続く。


「寮には危険な誘惑がいっぱいですね。少し風紀を引き締めねばならないようです。それとは別に、ご主人様?わたくしどもで、そんな気が無くなるまでご奉仕いたしますよ?」


クレオメはそんな二人にどう対応してよいか分からず、右往左往していた。


「えっと。えっと。あの、ご、ご主人様。お望みであれば、つたないかもしれませんが、精一杯頑張りますので」


そう言って、顔を赤らめながらもじもじする。


僕は恥ずかしくなり、もらっただけだからと言って、薄い本をエクレアに押し付けた。


そして、そのままベッドへもぐりこむのだった。



夜中。


僕が寝付いたのを確認し、シェラは誰に言うともなくつぶやいた。


「・・・・はあ。まったく、あの子はこんな真似をして。仕方ない子。このことをロンバムウは知っているのかしらね」


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