第13話
アネモネの身体を安置している、冷凍魔道具の装置がある部屋にて。
ガチャ。
一人の魔導士が部屋のドアを開け、中に安置されているアネモネの身体に視線を移す。
「おお、これがかの有名な魔法使いアネモネ殿の遺体ですか。・・・・いや失礼、まだ死んでいるのではなかったですな。身体と言い直します」
「いえいえ、アネモネ殿の身体を見に来たのではなく、腕に取り付けられている腕輪型の魔道具を見に来たのですよ」
「ふうむ。ふうむ。ふむ?むむむ・・・・」
「いやあ、よく分かりました。無理を言って見せていただき、かたじけない。私はこの辺で失礼します」
数年後。
アネモネに付けられた伝説の魔道具。
いや、魔神具と呼ぶのが正しいだろう。
これを見た一人の魔導士が、この魔神具を超える魔道具を開発することを目標として、研究機関を設立した。
彼が集めた人材は、中央平原中でも屈指の才能を持った者ばかり。
その研究機関は、魔導技術共和国パールの開発部をしのぐほどの魔道具開発を可能にした。
その成果として、長年、国が開発してきた自動走行を可能にする魔道具をあっさり開発し、その性能は驚くほどであったという。
それ以外にも、冷凍魔道具を少し改良し、生活居住空間を冷やす冷風を出す魔道具を作り出した。
これは、特に暑い地域では大好評だった。
さらに、飛行魔道具の開発にも成功した。
魔導技術共和国パールでは、少数ながら、飛行魔道具によって空を飛ぶ物体が何機か登場している。
主要メンバーがちょうど十人だったことから、人々はこの研究機関を、憧れと畏怖をもって「大陸十賢者」と呼ぶようになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
パールティアの執務室にて。
「なんだと!!その報告は本当か!?それならすぐにここへ通すのだ!!」
「ははっ」
パールティアが長年探していたレッドが、ここへ会いに来たという報告がなされた。
パールティアは、すぐに通すよう命じた。
「・・・・久しぶり。パールティア」
久しぶりに会うレッドは、少しやつれているように感じられた。
「元気だったか?!今まで一体どこで何をしていたのだ!?」
「・・・・ずっと探していたんだ。大賢者様を。でも、見つからなかったよ」
「その代わり、ずっと遠くの方で、癒しに特化した魔法を使う聖女の話を聞いたんだ」
「その聖女の力を借りたくて、聖処女神エリューシオンを祀るエリューシオン教会にも行ったんだけど、ケガや病気でないなら無理だと断られたよ」
「それと・・・・アネモネの身体をずっと管理してくれたんだろ?ありがとうね」
「っ。ば、ばか!!当たり前だろう。だけど、そうか。ずっと探していたんだな」
「私もそうだ。ずっと探した」
「アネモネを目覚めさせるには、おそらく膨大な魔力が必要だ」
「今、アネモネが目覚めないのは、身体が暴走状態になっているから」
「この暴走状態を止めるには、大きな魔力をぶつけて、暴走している魔力を押し返すしか方法がないそうだ」
「そして、これを実現させるには、大陸十賢者の協力が必要になる」
パールティアが集めた情報を聞いたレッドは、大陸十賢者のもとへ向かうことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「どうか、アネモネを目覚めさせるために協力をいただきたい」
僕はそう言って、目の前にいる大陸十賢者の代表と名乗る魔導士に頭を下げていた。
魔導士は、ニヤニヤとした表情を隠そうともせず、
「んー。そうは言ってもですねえ。ただで、というわけにはいきませんよ。あなたは私たちに何を返せますか?見たところ、魔力も乏しいですし。ああ、お金は結構ですよ。必要ありません」
「魔力ですよ。魔力。私たちが求めているのは」
商人がお金を求めるような目つきで、目の前の魔導士は魔力を要求してきた。
そしてその目つきは、まるで、お前にはそれがないと言わんばかりであった。
僕は、その目に見覚えがある。
かつて魔導王国パールの時代、王城で過ごしていた時に浴びてきた目だ。
お前は魔力のない落ちこぼれ。
そう言われているような気がした。
僕は気分が悪くなるのを我慢していたが、大陸十賢者の代表者の態度に失望して、部屋を出た。
せっかくパールティアに手掛かりとして紹介してもらったのに、魔力がないことを理由に協力を拒否された。
「くそっ。またしても魔力か」
僕は、昔から魔力がないことで嫌な目に遭ってきた。
だが、今日ほど自分に魔力がないことを恨んだことはない。
肩を落とし、とぼとぼと歩いて研究所を出ようとしたところで、昔懐かしい人物に呼び止められた。
その人物とは、魔族のフラグラントだった。
フラグラントも、大陸十賢者のメンバーになっていたのだ。
魔族のフラグラント。
いまや、その名前は国を超えて中央平原に轟いている。
彼は国の軍を指揮する将軍の一人で、特に智将として名高い。
その青色の髪に象徴されるように、氷属性の魔法を操り、その魔力は身体から青白く揺らめくほどに強い。
羨ましい。
そんなフラグラントが、人目を憚るように言った。
「ちょっといいか?レッド。今少し、話をしたいのだ」
フラグラントに呼び止められた僕は、研究所内の一室で話を聞くことにした。
「まず、大陸十賢者の一人として、我らの代表の言葉をお詫びする。申し訳なかった」
そう言って、フラグラントは頭を下げた。
そして、目線を下げたまま続ける。
「だけど、私たち大陸十賢者は、そんなにいいものじゃあないんだ」
フラグラントは、ぽつぽつと話し始めた。
大陸十賢者を創設した魔導士、つまり今の代表者は、首飾り型魔神具をどこからか手に入れて保有しているらしい。
これは転移を可能とする魔道具であり、その隠された効果は、魔力を満タンにためることで、どのような場所にでも転移することが可能になるというもの。
それだけではない。
この魔神具を使用することで、どのような願いも叶える人物のもとへ、連れて行ってもらえるのだという。
言い伝えでは、この世界を造った神のもとへ連れて行き、どんな願いも一つだけ叶えてもらえると伝わっている。
「我らの代表は、その首飾り型魔神具に魔力を注ぎ込むことしか頭にないのだ。私たちが集められた本当の理由も、魔力なのだ」
「私たちに魔力を注ぐことを強制し、最大限にためて願いを叶えること。それが代表の本当の目的なのだ」
「数年前から魔力を注いでいるが、満タンになるにはまだまだのようだ」
「何のことはない。大陸十賢者というのは、首飾り型魔神具に魔力を注ぐための、魔力供給源なんだよ」




