第12話
パールレッドの放った魔法は、僕を狙って撃たれたものだった。
タイミング的に、かわすことも防ぐこともできなかった。
僕は死を覚悟したが、アネモネは身を挺してかばってくれた。
「くっ、余計な真似を!!」
パールレッドは悔しそうにする。
だが、魔法の音に気づいた警備員が駆けつけてくるのを見て、逃げ去った。
アネモネの様子を見ると、身体は所々ケガを負っている。
だが、それ以上に、アネモネの全身が光り輝いていた。
急いでパールティアに来てもらい、事情を説明して、アネモネの様子を見てもらった。
パールティアが見たところ、本来なら即死のところを、彼女は防御魔法を使ったようで、死には至らなかった。
しかし、パールレッドの放った魔法の威力は強かった。
ところが、アネモネの魔力もその威力に負けじと反発し、お互いが体内で戦い合っている状態に陥ってしまったというのだ。
そのため、アネモネの身体は一種の魔力暴走状態となり、コールドスリープ、つまり冬眠状態になってしまったという。
もちろん、このままにするわけにはいかない。
いまは魔力が均衡し合っているが、時間が経てば、アネモネの身体を魔力が蝕んでいくらしい。
くぅ。
アネモネはまだ、少女と言っていい年齢なのに。
魔力が強く、戦場にも出ているからと言って、無茶をさせてきた。
だが、普通の人族だったら、家で守られるべき年齢だ。
それなのに、僕のせいでこんな目に遭わせてしまった。
くそう。
僕のせいで。
絶対、目覚めさせてやるから。
そして、今度こそ普通の女性として、幸せな生活を送れるようにするから。
僕は心にそう誓った。
苦悩する僕を横目に見ながら、パールティアはアネモネの身体の処置を進めてくれていた。
魔力の暴走は彼女の身体を蝕む。
だが、幸いと言っていいか分からないが、暴走の副作用で身体の老化はなくなるそうだ。
ただし、身体の内部から破壊されていくことは間違いない。
だから、まずはその破壊をなんとかして止める必要がある。
止める方法はこれから探す。
だが、身体の方は待ってくれない。
魔力が身体を破壊するそばから、癒していくしかない。
パールティアはアネモネを助けるために、前代の王国である魔族国家パール王国の時代から受け継がれたという、伝説の魔道具をアネモネの身体に取り付けてくれた。
そんな、国宝といってもいい伝説の魔道具をだ。
かつて幼いパールティアを育ててくれた乳母が預かっていたらしく、それをパールティアに託したそうだ。
その乳母は、ただの乳母とは思えないほど魔道具に詳しく、パールティアにとっては母以上に大きな存在だったらしい。
その魔道具は、創造神のみ使いが造ったとされるもので、通常の魔道具とは一線を画すほど強力な効果を持つという。
特別に、魔神具という名で呼ばれているほどの代物らしい。
この魔神具は、見かけは腕輪の形になっており、腕に取り付ける。
その効果は回復であり、死なない限り、一瞬で元の身体に戻るほど強力なのだそうだ。
「これを取り付けることで、アネモネの身体が魔力で蝕まれることはなくなった。まずは一安心だ」
そうパールティアは言う。
「だが、どうすれば魔力の暴走を抑えることができるのか。それは、私にも見当がつかない。我ら魔族以上に魔法に長けているとすれば、伝説の大賢者様ぐらいのものだが」
僕は、パールティアの説明を黙って聞いていた。
だが、手掛かりは得られない。
僕は、どれだけ時間がかかってもいいから、アネモネを目覚めさせる手段を探すことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
わたしの名は、パールティア、パールティア・ノクティス。
本当は男として生まれたかった。
女の身の不便なことよ。
ノクティスという名前も、男であったなら堂々と名乗れたかもしれない。
だが、女ということであえて出さないようにした。
この男口調もその名残だ。
たとえ、膨大な魔力を持っていても、女というだけで不利になるのだ・・・・。
ノクティスは、旧王族の名前。
私はその正当な血筋を受け継ぐ後継者でもある。
だが、いまはある国の総裁、国の行政のトップの地位にいる。
魔導技術共和国パールと言うのだが、知っているかな?
いま、中央平原一帯は、我が国を中心に栄えていると言ってもいいほどだ。
その力の源は、魔道具。
かつては、魔法が文明を発展させる唯一の手段だった。
そのため、魔力があるかないかで人の優劣が決められてしまい、差別が起きるという過去を持つ。
その反省を生かし、魔石を用いて魔道具を改良することで、魔力のない者でも魔道具を利用して魔法が使えるようになった。
徐々にだが、魔力のあるなしという評価はなくなっていくだろう。
そして、人々は優秀な魔道具をどれだけ開発できるか、という点に関心を持つようになっていく。
それに伴い、各国は魔道具の開発に、今まで以上に専念するようになっていったのだ。
これこそ、私の狙っていた状況だ。
我が魔導技術共和国パールは、魔道具の技術が他国よりも数段先まで進んでいる。
この利点を生かし、他国と協調しながら、魔道具文明を発展させることに成功した。
だが。
これを最初に提案したのは、レッドという魔族。
元魔導王国パールの王族であった彼は、今の繁栄の礎を築いた功労者の一人だ。
しかし、ある不幸な事件が起きてから、彼、レッドは表舞台から姿を消してしまった。
彼が大事にしていた娘、アネモネが、コールドスリープ、つまり冬眠状態となって目覚めなくなってしまった。
あれから、かれこれ100年は経っただろうか。
魔族であるレッドにとって百年は長い年月ではないが、アネモネは人族。
本来なら、寿命が来てもおかしくない年月だ。
しかし幸か不幸か、コールドスリープの原因である魔力暴走状態のおかげで、今も若々しい姿を保っている。
この100年で、いくつもの便利な魔道具が開発された。
おかげで、国民は豊かな生活を享受している。
例えば、冷蔵魔道具。
これは氷属性の魔石によって食材を長期保存できる優れもので、食生活のレベルがどんどん上がっていった。
また、遠隔通信魔道具。
これは風属性を利用して、遠く離れた者同士での会話を可能にするというもの。
ヤバくないか?これ。
軍事利用でも計り知れないメリットがあるし、生活面においても、色々な場面で活躍する。
通信できる距離に制限はあるが、これからの開発次第で、通信可能な距離も伸びていくだろうな。
そして、いま!!
我が魔道具開発部が取り組んでいるのは、自動走行を可能にする魔道具だ!!
これは、馬車の荷台に取り付けるだけで、魔道具の力で走行するというもの。
まさしく、夢のような魔道具と言えよう。
馬を必要とせず、魔石というエネルギーの供給が続く限り、どこまでも走り続ける。
あまりに便利すぎて、少し怖い気もするが。
これも、文明の発展には必要なのだろう。
私は、開発部の中間報告書を読みながら、そう考えた。
しかし。
超古代にも、この中央平原に、このような文明が栄えていたことがあるらしい。
そして、あまりに傲慢になりすぎた当時の種族に対し、創造神様は怒りの鉄槌を下し、文明は崩壊したと伝わっている。
だから、どんなに優れていても傲慢になってはいけませんよと、幼い私に対し、乳母が口を酸っぱくして諭してくれたものだ。
はあ。
こんなに素晴らしい魔道具を開発した立役者といってもいいレッドは今、一体どうしているのだろうか。




