第11話
最近、アネモネの様子がおかしい。
いや、おかしいというか、前からあんなんだったか。
僕が視線を感じて振り向くと、さっと目をそらされてしまう。
なんだろう。
反抗期?
これが、人族の思春期に見られるという反抗期か?
どうしよう。
結婚も、子供を持ったこともないのに。
人族の赤毛がとても綺麗なアネモネ。
男女問わず惹きつける容姿に、膨大な魔力と繊細な魔力制御を兼ね備えた、人族の英雄。
可憐な見た目からは想像もできないほど、戦場では勇猛らしい。
そのうえ、彼女の指示に間違いはないと、兵士どもは彼女を崇めているらしい。
当然、求婚の申し出は引きも切らない。
僕のもとへ、アネモネへの求婚の申し込みが山のように届く。
僕もそれとなくアネモネに伝えているのだが、アネモネは笑顔でその手紙の山を燃やし尽くす。
ちなみに、手紙の主は平民も多いけど、貴族からのものもある。
その貴族への返事も無視することになるが、いいのだろうか。
懇意にしている魔道具士さんに聞くと、一人だけ粘り強い男性がいるらしい。
アネモネはその男性から、ひっきりなしにアプローチを受けていると聞いた。
よかった。
できたら、誰か良い人と結婚して、アネモネには幸せな生活を築いてもらいたい。
僕と違って。
たまに町を歩いていると、見知らぬ男性から、
「もうアネモネさんを解放してあげてください。あなた、昔の恩を盾にしてアネモネさんを束縛しているでしょう」
とか、
「孤児のアネモネさんを助けたという恩を感じ、アネモネさんはあなたみたいな出来損ないから逃げられないでいるのですよ」
と言われることもある。
その度にショックを受けるのだが、事実に近いので受け止めている。
そんな日が続いた中。
ある日、妙な噂を聞いた。
アネモネが、ある男性と仲良くしているというのだ。
最初は僕じゃないかと言われていたが、僕はそれを否定した。
というのも、相手の男性が、僕によく似た容姿だったらしい。
嫌な予感がした。
だが、アネモネはあんな変な奴に引っかかる娘ではない。
アネモネを信じよう。
ある日、夕食を一緒に取ろうとアネモネを誘おうとした時、アネモネから話しかけられた。
「ねえ、レッド様。お聞きしたいことがあるのだけど、レッド様って親や兄弟はいるんですか?」
そういや、忙しかったり、タイミングが合わなかったりで、すべて説明したことがなかった。
いまさら王族の一員だということを告げるのは、多少の抵抗がある。
どう説明しようか。
僕がアネモネからの質問に少し戸惑っていると、アネモネは誤解したのか、
「ん、い、いや、いい。いいんです。私はレッド様のことを信じているから。何でもない。忘れてください」
そう言って、自分の部屋へ入ってしまった。
ああ、変な誤解を与えてしまったかな。
僕は頭を抱えた。
ある日、魔道具の開発研究所から帰ろうとすると、知り合いの魔道具士がやってきた。
「おいおい、こんなところにいたか。ちょっとこっち来い!!いいから、早く!」
そう言って、僕の手を引っ張り、人気のないところへ連れていかれた。
向こうの方で、アネモネと一人の男性が立っているのが見えた。
「私の話は信用してくれたかな。どうだった?彼は君に話をしなかったろう。本当の彼は、私の婚約者をだまし、そして殺してしまったんだ」
「私は君が心配で。孤児だった君を助けたというが、そんな過去を持つ彼が、善意でそんなことをしたとは思えないんだ」
男の声はかすれて、よく聞き取れない。
が、聞いたことがある声の気がする。
対して、アネモネの表情はここからでもはっきり見える。
顔面は蒼白で、血の気がない。
よほどショックなのだろう。
彼とは、一体誰のことだ?
・・・・いや、僕のことだな。
あんな嘘をついて、僕とよく似た容姿の者って・・・・。
僕は、二人が話している場所へ飛び出した。
「!!」
「あ、レッド様!!」
やっぱりそうか。
相手は、兄パールレッドだった。
「パールレッド!!久しぶりだな!!まさか、お前が生きているとは思わなかったよ!!」
「以前は、そう、パール王国の王城で、僕の婚約者を奪ったあげく、落ちこぼれは出ていけと言われた時以来かな?」
僕がそう言うと、パールレッドはにやにや笑っている。
そのことを覚えていたのだろう。
そうか。
こいつはこうして、親友テェシの妹ロゼに僕の悪口を吹き込み、あんなことをさせたんだな。
「やっぱり嘘だったんだ!!レッド様がそんなことするはずないもの。じゃあ、レッド様の兄弟だというのも嘘なの?!」
「残念ながら、それは本当だ。双子だよ」
僕は短く答える。
それを聞いたパールレッドは、にやついた表情を一変させた。
「こんなクズと俺が兄弟だとぉ。俺は認めたくないが、事実だから忌々しいわ!」
「ちっ、もう少しで信用させられそうだったんだがな。こいつ、なかなか俺の言うことを信じやがらねぇ」
「前の女はすぐに信じて、俺のために殺すと言ってくれたんだがなぁ」
くくくと、僕の方を見ながらいやらしく笑う。
「・・・・それはそうだろう。お前は魅了魔法をかけて、信じさせたんだから」
パールレッドの顔色が変わった。
魅了魔法。
無属性魔法に属する特殊な魔法で、相手の感覚を操作することができる。
魔力が強ければ、自分に最大限の好意を持たせることが可能とされる。
しかし、魔法防御力の高い者には通用しない。
僕は、あの忌まわしい事件を分析していた。
そして、どうやら魅了魔法を使った可能性があると特定することができた。
それまでは、親友の妹ロゼに刺されたことがトラウマで辛かった。
だが、魔法を使われていたと気づき、ようやく克服することができたのだ。
「くっくっく。そこまでばれているのか。それじゃあ、仕方ねぇ。もっと苦しませてやる予定だったが、ここでお前を殺してやるよ」
そう言うと、パールレッドは取り出した魔道具を身につけ、出力を最大にして僕に向けて撃った。
あの魔道具は、確か僕たちが開発したもので、魔力がない者でも強力な魔法を撃てるものだ。
その分コストがかかり、お値段は高めだが。
魔力を帯びた大きな魔力球が、目の前に迫ってくる。
とても避けられそうにない。
ははは。
馬鹿だな。
自分が作ったもので殺されるなんて。
でも、落ちこぼれだった僕にはお似合いかな。
僕は死を覚悟し、立ったままでいた。
そのとき、
「だめーーーーーーーーー」




