第10話
その日の晩。
アネモネは友人と出かけていて、僕は一人でご飯をとった。
ちなみに、ご飯もアネモネが作っておいてくれている。
チン!
お、鳴った鳴った。
この家には、「魔導レンチン」という魔道具があって、スイッチを入れるだけで一瞬で温めてくれる。
これがあるおかげで、料理が冷めても大丈夫。
ああ、便利な世の中になったなあ。
作った自分が言うのもなんだけど、どういう仕組みなんだろう?
徹夜続きの寝ぼけ眼で、気づいたら出来ていたのだ。
火属性と雷属性の魔力を持った魔石同士の、超微小な配合で作られたもので、まだ量産できていない。
開発者の特権で、数台しかないうちの一つが我が家にあるのだ。
この魔導レンチンを使って温めたご飯を食べていると、訪問者が来た。
客は、かつての魔導王国パール時代に生き残った、数少ない元大臣。
はっきり言って、面倒な相手だ。
しかし、無下に扱うことはできない。
用件は察せられるが、話だけは聞くことにした。
一時間後。
ようやく帰った。
話を聞いて後悔した。
聞く価値がなかったからだ。
なんて無駄な時間だったんだろう。
パールティアを総裁から排除し、王政に戻す。
その後に、王にならないかというクーデターのお誘いだった。
当然、拒否したが、元大臣はそれに驚いていた。
あなた様は誇り高い王族の一員ではないか、と。
だから僕も返した。
いえいえ、何を隠そう、あなたからも「貴様など王族の一員と思わぬことだ」と言われていますよ、と。
少年時代に言われたことだが、自分でもいまだ根に持っていたことに驚いた。
そして相手もそれを思い出したのか、ばつの悪そうな顔をして、そそくさと帰っていったのだ。
いまだに、あんな考えを持つ者がいるとは・・・・。
まあ、旗頭として担ぐには、王家の血筋がいる。
だが、僕にはその気がない。
これでは、クーデターを起こしようもないはずだ。
だけど、反乱を起こすかもしれないので、何が起きてもいいように、この国の首都の警備だけでも固めておくよう、明日、進言するか。
そう考えながら、眠りについた。
あ、アネモネは、その前に帰ってきたよ。
僕に心配をかけたくないから、と言ってね。
翌朝。
パールティアに会うついでに、政府内を見て回ろうか。
僕は、共和国の政府内に、これといった役職は持っていない。
あえて言うなら、魔道具開発部門の顧問といったところか。
しかし、昨日の元大臣の様子が気になったので、政府内の各部署を見て回ることにした。
それとなく、政府内の各部署の様子を見て回った。
すると、何人か気になる職員がいた。
その者たちは、故意に言うことを聞かず職務を妨げたり、上役を馬鹿にしたりしていたのだ。
調べてみると、貴族階級の者たちばかりで、その相手は平民だったり、魔力を持たない者だったりした。
これはいけないと思ってさらに見回りを続けると、建物内で密談している職員までいた。
なんと、平民や人族の役職者を排除しようという計画を立てていたのだ。
すみやかにパールティアに報告し、対処してもらった。
だが、パールティアによれば、内だけでなく外にも不穏な空気が漂っているらしい。
周辺国が、魔導技術共和国パールを狙っているという。
以前の魔導王国パールのように軍事行動を起こさないので、少し舐められているそうだ。
馬鹿な。
軍事行動を起こさないからといって、弱いわけではない。
前の反省を生かし、平和的に周辺と協調していきたいという願いの現れなのに!
パールティアも僕の考えが分かるのか、疲れた顔で笑っていた。
「侵略するつもりはないが、降りかかる火の粉は払わねばならん」
こうして、パールティア主導のもとで、軍事にも力を入れることになった。
その結果、周辺諸国に名が知れ渡っている実力者に、正式に軍へ入ってもらうことになった。
有名なところでは、魔族のメイズ、フラグラント、そしてキャナリィ。
龍族のマホガニー。
エルフ族のミモザ。
人族のアネモネ。
これらの有力な実力者が、魔導技術共和国パール軍の将軍として正式に任命されたことを、他国に伝えた。
さらに、より特別感のある「パールの六騎士」という称号を創設し、先ほどの六人に授与したのである。
さすがパールティア。
特別な称号を作り、名を覚えやすくして、さらに魔導技術共和国パールの武名を上げようというのだろう。
この「パールの六騎士」と名付けられた六人は皆、近隣の魔物討伐で名を上げていた。
周辺諸国も、それでよく知っている。
しかし、今まで軍に入れなかったのは、魔導技術共和国パールが周辺を侵略する意図はないという意思の現れだった。
だが、逆に攻められる可能性が出てきたので、やむなくこのような処置にした。
このおかげで、周辺諸国は魔導技術共和国パールを攻めることを諦めた。
それに伴い、共和国内に巣くい、国を転覆しようと考えていた貴族たちも諦めたのである。
こうして、魔導技術共和国パールは安定の時期に入った。
ある日、パールティアが僕を呼んだ。
「どうやら今までの一連の動きの裏には、あなたの双子の兄がいたみたいだ」
やはりそうか。
変だと思っていた。
周辺諸国も、そこまで血の気の多い国ではない。
なのになぜ、攻める気になったのか不思議だった。
裏で兄パールレッドが糸を引いていたというなら、納得できる。
国内の貴族たちも、そうなのだろう。
しかし僕たちは、知らず知らずのうちに、その企みを潰していたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
元王太子パールレッドは、匿われている屋敷で今夜も荒れていた。
「どこまでも俺の邪魔をしやがって。あの落ちこぼれと淫乱娼婦めが!!」
当初は目論み通りに進んでいたかと思われたが、あっという間にひっくり返された。
「ぐぬぬぬ。ぐ、ふうう」
「ぐふ。ぐふふふ。まだだ。まだ奥の手はある。ワインレッドのヤツめ。親しい人に裏切られるのは、さぞかし堪えるだろうなあ。ぐふふふ」
「ショックを受けているところを、今度こそ俺自身の手で止めを刺してくれるわ!!!」




