第9話
「なあにが、共和国だ!総裁だと?勝手に国を乗っ取りやがって!!王はこの俺!パールレッド様以外にいないのだ!!」
ある貴族の屋敷で、レッドの双子の兄であるパールレッドが、夜ごと叫んでいる。
この屋敷は、パールレッドを庇護している貴族のものだ。
その貴族はパールレッドを利用し、あわよくば利権を得ようと企んでいるのだ。
「まあまあ、機嫌を直してくだされ。こら!酒が足りんぞ!!さっさと持ってこんか!」
「は、はい。ただいま!!」
メイドが慌てて部屋を出る。
「まったく気が利かんで。ですが王子。物は考えよう。面倒なことはあやつらに任せ、最後に王子が国王として国を治めると考えては」
「うむ?なるほど、そう考えれば悪くないか。働かせるだけ働かせて、最後に私が奪ってやろう」
「それに、パールティアのあの美味そうな身体。常々、味見したいと思っていたのだ」
パールレッドは、パールティアの妖艶な肢体を思い出して舌なめずりをする。
「いずれは側室ぐらいにはしてやってもいい。だが!!あのクズ!あのクズだけは許さん!!苦しんで苦しんで、殺してくれと泣き叫ぶぐらいの目に遭わせんと気が済まんわ!!」
パールレッドの怒声は、今夜も屋敷内に響きわたる。
元々、能力に見合わない野心を持っていたパールレッドだが、先の邪悪龍が滅びた後の塵を浴びてしまい、その欲心はもはや自分でも止められないほどに肥大化していた。
邪悪龍の塵は、それを浴びた者の欲望、欲心を大きく肥大化させる効力を持つのだ。
それは、破滅への道。
だがパールレッドは、国王として復権するための行動を起こすのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あなたがレッドさんですか?あなたに会いたかったのです。失礼なことを言うようですが、アネモネさんから搾取するのはいけないことだと思います」
今日、僕は魔道具開発の研究会に呼ばれており、その屋敷に向かっていた。
大通りを越えたところにある屋敷へ歩いていると、ふと生真面目そうな男性に呼び止められたのだ。
魔力はあるが、魔族ではなさそうだ。
ということは、人族かな。
それに、身なりがきちんとしており、着ている服も高価だ。
貴族でもないとまとえないほどの価値を持つように見える。
もしや、人族でも最近、陞爵して貴族になる者が増えたと聞いたが、その類の人だろうか。
魔道具開発、魔物討伐、治世への大きな貢献など、功績をあげれば陞爵して貴族になることができる。
それは人族ももちろんだ。
最近、人族で貴族になる者が増えてきたと報告を受けていたが、目の前の男性も、どうもその類であろう。
さらには、その男性が僕に、アネモネから搾取するなと言ってきたのである。
え?
どういうこと?
僕は、気づかないうちにアネモネを搾取していたのか。
あまりに思いがけないことを言われ、衝撃を受けて思考が止まっていると、相手の男性は僕が怒っているのかと思い、慌てて言った。
「あ、失礼しました。お怒りはごもっともです。それに私は名乗りもしませんでした。これでは貴族の前に、人として失格です」
「申し遅れました。私は・・・・」
ショックでまだ頭がぼうっとする。
何か貴族の名乗りをあげたみたいだ。
男爵位を持つと言っている。
魔法訓練所出身で、どうやら魔物討伐で功績をあげて貴族になったようで、魔力や魔法に自信があるみたいだ。
あれから僕は、魔法訓練所にかかわっていない。
魔道具の開発に重点を置きたいとパールティアにお願いすると、快く承諾してくれたからだ。
もう、僕じゃなくても、魔法を指導する人材は充実しているみたいだ。
その魔法訓練所では、アネモネは英雄視されているとか。
魔法訓練所出身で唯一、魔導技術共和国パールの軍の戦力として数えられ、他国にも名が知れ渡っているかららしい。
そんなアネモネは、相変わらず僕と一緒に暮らしている。
なんなら、給金もすべて僕との生活費に使っているようなのだ。
外から見れば、僕が昔助けた恩を笠に着て、無理やり働かせ、搾取しているように見えなくもないか・・・・。
そうだな。
ここらで、もうアネモネから距離を取り、お互いに別々の暮らしをした方がいいか。
「そのようなつもりはなかったのだけど、そう言われても仕方がない。忠告、感謝します」
僕はそう言って、目の前の貴族に頭を下げる。
貴族は、とても驚いた表情で目を大きく見開いていた。
と、そのとき。
ドゴオオオオオン。
何事かと思い、音のする方を見ると、風属性魔法で空を飛んでいたアネモネが、地面に到着した音だった。
そして、目を怒らせたアネモネが叫ぶ。
「ちょっと!!あんた!!何勝手に、レッド様のことを悪く言っているのよ!!それに搾取だって!!!知らないくせに、勝手なことを言わないで!!」
アネモネは貴族の青年に食ってかかり、青年は涙目になっていた。
ひとしきり罵詈雑言を浴びせ、じっくり説明をした後、這う這うの体で貴族の青年は去っていった。
そしてその後、アネモネは僕にも、誤解が解けるまで、ゆっくり、しっかり、たっぷりと話を聞かせてきたのだ。
「私は、まったく、ちっとも、これっぽっちも嫌と思っていません。なんならこのままずっと一緒にいたいと思っています。もし、その障害になるものがあるのなら、ぜひ教えてください」
「つ・ぶ・す・か・ら」
終始、笑顔でいるアネモネを怖いと思ったのは初めてだ。
ようやく解放された僕に、アネモネは言った。
「レッド様。魔道具開発の研究会に行くんでしょ?私もそこへ行って、レッド様と一緒に参加するつもりだったの。行きましょ」
そうして僕は、半ば引きずられるように研究会に連れて行かれたのだ。




