第8話
こうして僕は、順調に魔族、エルフ族と協力を取り付けることができた。
あと残っている種族は、ドワーフ族と獣人族。
しかし、この二つの種族は穏やかで、魔導王国パール時代から友好関係を結んでいる。
なので、パールティアの国造りにも協力してもらえるだろう。
僕はそう楽観視していた。
しかし、読みが甘かった。
ドワーフ族も獣人族も、同じ地域に固まって住んでおらず、バラバラに離れて暮らしていたのだ。
特に獣人族は、猫獣人や犬獣人、犬獣人の亜種である狼獣人、虎獣人にクマ獣人など、細かく分かれている。
それぞれの種族ごとに里を作って住んでおり、その一つ一つを訪れて、協力を求めなくてはいけないことが分かった。
例えば、犬獣人は従順ではあるが、里の数が多い。
対して虎獣人の里は少ないが、偏屈な者が多いので、協力を取り付けるには時間がかかる。
このように、獣人族と一言で言っても、その種類は多岐にわたる。
一筋縄ではいかないのだ。
旧魔導王国パールでは、それらを武力でまとめて併合していたようだ。
当然、無理やり併合させられたという反発もある。
しかし、併合されたことで各種族がひとまとめに扱われ、それによって種族間の交流が進み、文化が発展したという面もあったようだ。
そのため、嫌悪感は残るが、魔導王国パール時代に戻ってもいいと考える者もいる。
これから僕は、里の中にいる、そう前向きに考える者たちと協力を取りつつ、一つ一つの里を説得していかなくてはいけないのだ。
とんでもない時間がかかると思うと、げんなりする。
5年後。
僕は、ようやく各種族すべての協力を取り付けることができた。
任務を終え、久々に旧首都、パールティアのいる臨時政府へ帰ってくることができた。
時間がかかることは想定内だったし、自分の寿命は長い。
5年など、どうってことはない。
だが、人族のアネモネだけが気がかりだった。
特に、10歳程度の年齢から離れてしまったのだ。
いまは、15歳か。
人族の娘で15歳といえば、地上で一番多感な生物じゃないか。
そんなデリケートの塊のような人物に育っているかもしれないアネモネに会うのは、少し怖かった。
僕は、まずパールティアに報告へ向かった。
きちんと報告しなくても、僕が協力を取り付けた種族は、この旧首都にやってきてパールティアの手伝いをしている。
だから、本当はしなくてもいいんだけど、僕もこの5年の間の様子をパールティアから聞きたかったのだ。
簡単に報告を終えると、パールティアは言った。
「ほらほら、私との話はこれぐらいでいいだろ。お嬢ちゃんが首を長くして待っている。あまり待たせると、後が怖いぞ」
ぷっくっくと笑う顔を隠さないパールティアを横目に、僕は家へ戻ることにした。
家へ戻った僕は、アネモネに抱き着かれた。
アネモネは、僕が思った以上に大きく成長していた。
女性らしい体つきになり、とても綺麗になっている。
そんな少女が、僕に全力で抱き着いている。
あまりに強く抱きしめるものだから、胸の柔らかさを感じた。
少し離れようとすると、さらに力を入れて抱きしめられた。
僕はあきらめて、アネモネが離すまで、されるがままになっていた。
しばらくして、ようやく離してくれたアネモネは、今度は目に涙を浮かべていた。
そして、涙を拭く時間も惜しいとばかりに、この5年間のことをしゃべり続けたのだ。
よっぽど寂しかったのだろう。
僕はアネモネの気持ちが分かったので、黙って話を聞いていた。
結局、夜通し話を聞き続け、力尽きたアネモネは眠ってしまった。
起きたのは、翌日の昼過ぎだった。
起きてもまだ話そうとするアネモネに、食事をするよう促して、やっとアネモネは静かになった。
「アネモネ、お腹空かないか?僕はもうぺこぺこだ。昨日から何も食べてないんだから」
「う、そ、そうよね。私も、お腹空いたわ」
「あはは、そうだろう。食事にしよう。待ってて、いま僕が何か作るから」
久しぶりにアネモネと食事ができるから、僕は嬉しくて張り切って作ろうとした。
すると、アネモネが少し頬を膨らませる。
「もう、また私を子供扱いして」
以下は、アネモネの話から聞いた内容の一部だ。
現在、パールティアが進めている体制は、共和制だ。
まず、各種族の長、またはその代表者から一人選ぶ。
選ばれた者は、全体をまとめる総裁という地位に就く。
総裁が、政府の中心となって政治を執る。
それ以外としては、周辺諸国からの妨害を防ぐため、軍の養成がある。
そのために、各種族の協力を取り付け、特に力のある戦士を派遣してもらうよう要請しているのだとか。
魔族からは、メイズ、フラグラント、キャナリィ。
エルフ族からは、ミモザ。
そして龍族からは、マホガニーが派遣される。
ドワーフ族には、武器防具の供給を依頼している。
獣人族には、戦闘への参加よりも、食料の生産を担当してもらうことになったらしい。
そして人族からは、アネモネが戦力として数えられているという。
僕は反対だが、他のメンバーも納得しており、本人もやる気だとか。
魔法訓練所には、この5年でずいぶん力をつけた人族の者が多くいる。
だが、アネモネはその中でも、ずば抜けた存在だという。
そして、単純な戦闘力だけでなく、種族間の調整を取ることも上手にこなすので、もはや替えの利かない人材と目されているそうだ。
そこまで評価されてしまえば、反対はできない。
だが、僕はとんでもないことをしてしまったのかもしれないと感じた。
まだ年端もいかない少女を、その魔力の素質に目をつけて連れてきてしまった。
そして、なまじ才能があったばかりに、戦場に送られるかもしれないきっかけを作ったのだ。
せめて、僕もアネモネと一緒に参加し、アネモネの身を守ることにしよう。
アネモネの話を聞きながら、僕はそう決意した。
僕が戻ってから、しばらくして。
おおむね国としての体裁が整ってきたので、パールティアは周辺諸国に、魔導技術共和国パールの建国を宣言した。
名前から分かるとおり、新しいパールという国は、魔道具を平和利用する国だ。
そして、その魔道具と技術を商品として売り出し、周辺諸国と協調していく。
現時点でも、魔道具の技術は諸国よりも高く、大変人気らしい。
それを国として管理していこうというわけだ。
下手な魔道具が流れて軍事利用されても困る。
それに、管理が十分でないと、暴走や爆発を起こすことも考えられる。
そのようなことのないように、国が管理するのだという説明も、宣言文と同時に述べられた。
魔導技術共和国パールの最初の総裁には、パールティアが就いた。
しかし、これは一時的なものだ。
しばらくすれば、各種族間で総裁を持ち回り、種族の代表が総裁を務めるという形に持っていく。
パールティアは、そう周囲に話している。
もちろん、周囲の側近には優秀な文官を配置し、国の運営が滞らないようにするつもりだという。
ふう。
ようやく、多くの種族が手を取り合う時代の夜明けといってもいい、歴史的な転換点を迎えたのだ。
僕は、これから来る明るい未来を想像して、にやける顔を止められないでいた。




