第5話
「そろそろ国の名前を決めようと思う」
定例の会議の場で、代表者であるパールティアが発言した。
まあ、確かに。
名前がないと不便だ。
周囲はそう考えた。
だが、名前を決めるなら、王国として王も決めないといけなくなる。
どうしてもそれが嫌で、今まで引き延ばしていたのは、パールティア様では?
だけど、そうか。
ついに名前を決め、王になる決心がついたのか。
周囲は固唾を飲んで、パールティアを注視する。
王に相応しい方は、目の前にいるパールティアか、いま別の国へ出かけているメイズの二人のうち、どちらかだ。
だけど、二人とも王にはなりたがらない。
しびれを切らした側近が、嬉しそうに言った。
「いよいよ、戴冠することを決意なされたので?」
僕もそう思ったのだが、発言は控えておいた。
「違う。私は王にならない」
パールティアは短く、はっきりと断定した。
「ならば、メイズ様が・・・・」
「メイズも国王にはならない」
「と言うよりも、次の国は王国ではない。代表者を皆が選んで国を治める。言わば、共和制だな」
「国王という身分ではなく、有力者が期間を決めて元首を務めるという政治体制を考えている」
その言葉に、側近も周囲も目が点になる。
言っていることが、よく理解できない。
パールティアはそんな周囲を無視して、
「そうだな、国の名は・・・・」
そこで少し間を置き、
「魔導技術共和国パール、というのはどうだろう?」
と告げた。
パールティアは王政の廃止を唱え、身分や家柄を問わず、貴族でなくても実力があれば政治の場に参加できる体制を作るという。
しかも、代表者は王ではない。
周囲が選んだ者に王に近い権限を与え、元首という立場で政治の指導を行うというのだ。
理想が高いのはいいことだ。
だが、少し現実から離れていないか?
僕は、目の前の女性をしっかり見る。
銀色の長い髪。
顔立ちは、絶世の美女と言っても差し支えない。
平民が着るような動きやすい服を着ているが、威厳はまったく損なわれていない。
一見、冷たく見えるが、周囲をよく見て声をかけている。
むしろ、穏やかな性格と言っていいだろう。
しかも子供好きでもあるようで、アネモネとも仲が良い。
アネモネも、
「あの綺麗なお姉ちゃん、大好き」
と言っているほどだ。
討論をさせれば、本質を突きつつも、柔らかい物言いでいつの間にか言いくるめられてしまう。
気づけば、彼女の思うままに動かされている。
まごうことなき指導者としての資質に恵まれた、そんな彼女パールティアが共和制を提唱し、自らは王にならないと宣言したのだ。
側近たちが並ぶこの定例会の場においても、パールティアはにこやかな表情とともに、自身の考えをどんどん推し進める。
彼女は、共和国になるメリットやリスク、魔族と人族との共存に向けた政策の実現を、まるで歌うような調子で述べていく。
だが、いくら言葉を尽くしても側近たちの表情が変わらないのを見て、話すのを止めた。
今は時間が必要だと判断したのだろう。
定例会はいったん解散となった。
僕も戻ろうと思い、席を立つと、パールティアから呼び止められた。
僕は彼女から、新しい任務を命じられることになった。
新しい任務は、龍族、魔族、人族のみならず、エルフ族、ドワーフ族、獣人族の長に会い、共和制への協力を求めてほしいという内容だった。
僕が元王族であり、交渉にも長けていることを見込んでの任務なのだろう。
だけど、この任務につくということは、長期間、この旧首都を離れることになる。
魔法訓練所も気がかりだ。
だが、なにより、まだ幼いアネモネを置いて、長期間旧首都を離れたくはなかった。
パールティアにその旨を伝えたが、
「安心なさい。あの子の面倒は私が見る」
「・・・・心配かもしれんが、あの娘は一人でも十分生活していける」
「もちろん、不埒な輩からは守る」
「それに・・・・年頃の娘をあんまり構いすぎると、ウザがられるぞ?!アッハッハ」
そう言われて、あっさり却下された。
少し釈然としないが、任せても大丈夫なのだろう。
僕はアネモネにも任務の話をし、長期間、家を空けることになると伝えた。
アネモネは目に涙を浮かべて、僕についていきたいと言ってくれた。
すごく嬉しい。
だけど、それは難しいと伝えると、アネモネは意を決したようにうなずいた。
「なら、レッド様が帰ってくるまでに、私は魔法訓練所だけでなく、この国一の魔法使いになって見せます!!どうか安心して任務を果たしてください!」
そう言って、涙をこらえながら、笑顔で僕を送り出してくれたのだ。
やはり、アネモネはいい子だ。
それに、強い子なのだろう。
願わくば、アネモネを大事にしてくれる男性が現れればいいのだが。
僕は、どこかにいい人はいないものかと考えながら、任務のために旧首都を離れた。
最初に向かったのは、魔導王国パール以外で魔族が国を治めている国だ。
そこには、魔族の世界でも有名な人物がいる。
その人物の力を借りるべきと判断したのだ。
その者の名前は、フラグラント。
数年前に、魔導王国パールを襲った大災害を鎮めるため、力を貸してくれた一人だと聞いている。
事態が収まった後、すぐに元の国へ戻ったと聞いていたが、もう一度その力を借りるために会いに行った。
・・・・・・・・。
・・・・。
フラグラントとの交渉は、早くも結論が出た。
前向きな返事をもらえたのだ。
フラグラントは、パールティアに力を貸すと言ってくれた。
以前のこともあるし、あの後どうなったかも気がかりだったという。
しかし最大の理由は、現在フラグラントが所属している国が、資源の枯渇によって治世が安定しておらず、強い国の庇護下に入る必要があったからだ。
渡りに船とばかりに、自分がパールティアを代表とする国の傘下に入ることで、今の国も救ってほしいと交渉してきた。
僕は了承した。
きっと、パールティアも了承するはずだ。
それを聞いて、フラグラントも安心した表情をする。
僕はさっそく、パールティアのもとへ向かってほしい旨を伝えた。
これで一安心だ。
フラグラントが国を出る際、僕は見送りに出た。
フラグラントは、一人の魔族の従者を連れて向かった。
利発そうなうえに、魔力も豊富な従者であった。
名を聞くと、アリザリンという。
将来有望な若者だ。
ああいう、希望に満ちた目をした若者は、国の宝だな。
さあ、感傷に浸っていないで、僕も次の人材の確保に向けて動くとしよう。
次は以前、僕を支持してくれた魔導王国パールの元将軍のもとへ向かうことにした。
きっと、僕の考えに従ってくれるだろう。




