第4話
実は、僕は龍族の隠れ里にいた時に、魔道具の研究をさらに深めていた。
そして、魔力の少ない魔石でも効率よく使える新型の魔道具を完成させていたのだ。
動力となる魔石は必要だ。
だが、これさえあれば、魔法が使えないからと馬鹿にされることが、さらに減るはずだと思う。
僕はいま、パールティアからの指示で、魔法の素質のある者を探し出し、その者に魔法を指導している。
だけど、思うんだ。
今までのような魔力至上主義の考えを変えさせるために、逆に、誰もが魔法を使える社会を目指すというのはどうだろうか。
人族の中にも、何人かは素質のある者が存在している。
僕はその者たちに声をかけ、魔法の指導を施すため、訓練所に勧誘している。
そして成果は上がっており、訓練所に入った者は、どんどん魔法が上達しているのである。
ちなみに、僕が助けた赤毛の少女アネモネもそこにいて、皆と一緒に魔法の訓練を受けている。
しかし、魔法を使えない者も、僕が完成させた新型の魔道具を使うことで、魔法を扱えるようになるのだ。
魔石の供給が安定し、新型の魔道具がどんどん量産され、多くの人に行き渡れば、誰もが魔法を扱えるようになる。
すると、魔法を使うことが社会のステータスではなくなるのではないか。
僕はそう考えたのだ。
かつての魔導王国パール時代は、魔法を扱える者や、魔力量の多い者が優遇された。
その背景には、魔法を使える者が圧倒的に少なかったという事実もある。
だからこそ、魔法を使える者が重宝され、尊敬されたのだ。
そして僕のように、魔族で王族なのに魔力を持たない者は、落ちこぼれとして冷遇されてしまう。
そんな社会にしないためにも、僕の新型の魔道具と、その動力となる魔石の量産を、今度パールティアに提案してみようと思う。
うまくいけば、僕のように魔力がないだけで蔑まれずに済むことになるだろう。
僕は、魔法訓練所で魔力制御の修行をしている人族の者たちを眺めながら、明るい未来を想像し、ほくそ笑むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔法訓練所にて。
「おい、見ろよ。またレッド先生、にやにやしてるな」
「ああ。あの人、時折、俺たちの方を見て笑っているな。優しくていい先生なんだけど、ああいうところがちょっとな・・・・」
どちらも、レッド自ら声をかけ、この魔法訓練所にスカウトされた人族の青年である。
それぞれ、水属性と土属性の魔法の素質がある。
そして、今は魔力制御の修行をしているところである。
たとえ並外れた魔力量を持っていても、魔力制御が十分でないと魔法は扱えない。
たとえ魔法を発動できても、暴走してしまう危険もある。
だからレッドの考えで、魔法訓練所では魔力強化の修行と並んで、魔力制御の修行を徹底することにしているのだ。
特に、水属性魔法と土属性魔法は、都市部で暮らすにはとても重宝される魔法といっていい。
水属性魔法で出される水によって、飲み水や生活水の問題が解決する。
土属性魔法のもたらす恩恵で、十分な土の力がなくても、野菜がとれるようになる。
元首都とはいえ、邪神によって荒廃した土地になったこの地では、水と食料の確保が急務であり、パールティアやメイズもそこに頭を痛めていた。
魔法訓練所を造ったレッドも、それを解決することを目標としている。
そんなレッドの苦悩を知って張り切っているのが、赤毛の少女アネモネだ。
アネモネは10歳と、魔法訓練所の中では最も年若い。
だが、最も魔力量が豊富であり、魔力制御も一番であった。
そんな彼女は水属性魔法を得意としており、さっそく都市の飲料水を賄うため、大量の水を放出している。
また、いつも笑顔でいる彼女は、すでに魔法訓練所のみならず、この地にいる人々からとても可愛がってもらっている。
まだ幼いが、あと5年もすれば、男たちから将来の伴侶としてアプローチを受けることになるだろう。
しかし、アネモネはひたすらレッドに恋慕の情を向けていた。
レッドは魔族であり、長寿である。
自分よりもはるかに年上ではあるが、アネモネは少しでも振り向いてもらえるように、レッドの喜ぶことを率先して行っているのだ。
先の飲料水確保のための大量の水出しも、そのためという気持ちが大部分を占めている。
もちろん、水を出したことで多くの人からもらえる感謝と笑顔も嬉しいのだけど。
だからこそ、大好きなレッドのことを悪く言う人を、許すことができないでいた。
「ちょっと!!レッド先生の悪口を言う暇があったら、魔力制御の修行に集中したら!!」
「あ、はいー。すいません!」
つい、きつい言い方をしてしまう。
アネモネはチラリとレッドの方を見た。
たしかに、にやけている。
だけど、いつも寂しそうな表情をしているレッドが嬉しそうにしていると、アネモネも嬉しくなるのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私、アネモネは、いつもレッド様のことが頭から消えないでいる。
今も、レッド様はニコニコした表情をしている。
何かまた、すごい魔道具を考案しているのかもしれない。
レッド様は、自分が魔力を持たないということで、いつも自信がなさげでいる。
そんなこと、関係ないのに。
魔力がなくても、それを補うぐらい、とても能力が高いのに。
なぜ、そんなに卑屈になっているのだろうか。
現に、魔力がなくてもそれを補う魔道具を発明したではないか。
それに、魔力制御の技術もとても熟練しており、とうてい今の自分では手が届きそうもないほどだ。
一体どうしたら、レッド様は自分にもっと自信を持ってくれるのだろう。
私が頑張れば、レッド様は喜んでくれるかな。
もっと役に立ちたいな。
そう考えながら、今日も私は、魔力制御と魔法強化の訓練に打ち込むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
は、いけない。いけない。
気づいたら、またにやけていた。
最近、訓練生の僕を見る目が厳しいからなあ。
気をつけないと。
はあ、もう少ししたら終了の時間だ。
今日は訓練が終わったら、アネモネを連れて、最近おいしいと評判のレストランへ行くつもりなのだ。
アネモネは、すごく頑張ってくれているし。
以前に水をたくさん出したことで、魔法訓練所の評判も上々だ。
これも全て、アネモネのおかげだ。
アネモネは、あの村で辛い目に遭ってきたんだ。
せめて僕だけでも、親代わりとして、アネモネに楽しい思い出を作ってやりたい。
本当はまだ、魔法の訓練なんてする年齢じゃないんだけど、こればっかりは仕方ない。
アネモネは、すごい素質を持っている。
この都市には、アネモネの水属性の魔法が必要なんだ。
ごめん、アネモネ。
まだ幼い君に、すがるような真似をして。
せめて、それ以外は、君が困るようなことはないように、僕が君を守るよ。




