第3話
マホガニーに連れられ、目的地に着いた僕はさっそく、臨時政府の置かれている建物に向かった。
建物は、旧首都の中心にあったはずの王城の跡地にある。
王城は、大災害によって壊れたそうだ。
そして、建て直さずにそのままにしているとか。
旧王国を復活させる気はない。
王城を放置しているということは、ここの代表者はそうアピールしているのだと、僕は考えた。
代表者は、パールティアという女性の魔族だった。
旧魔導王国パールの、さらにその前の王国の王家の血筋だという。
説明をされなくても、身に宿る魔力は膨大で、女性でありながら王族らしい威厳も持ち合わせている。
聞けば、僕の父親であった国王とも関わりがあったそうだ。
僕は全然知らなかった。
「初めまして。ワインレッドと申します。一応、パール国王と血のつながりのある者ですが、城では王子の扱いを受けておらず、あなた様のことも知りませんでした」
そう挨拶する僕を温かい目で見ながら、パールティアは言った。
「どうやら、そうらしいな」
口調は男っぽいのだが、もちろん立派な女性だ。
どうやら、こういう口調らしい。
「こちらこそ初めまして、だな」
パールティアは、ふっと目を細めた。
「・・・・それに、不思議なものだ」
「え?」
「初めて会うはずなのに、あなたと話していると、どこか懐かしい気がする」
彼女は少し照れくさそうに笑う。
「長く生きていると、たまにこういうことがある」
僕は苦笑した。
「きっと気のせいですよ」
「そうかもしれないな」
そう言いながらも、パールティアはしばらく僕の顔を見つめていた。
「まあ、それはさておき」
「さきほどは初めましてと言ったが、私はあなたのことをずいぶん前から知っていたのだよ」
「はあ」
不思議そうにする僕に、パールティアはにこりと微笑んだ。
「欲が深いばかりで無能な王太子と違って、魔力は乏しいが才能のある王子として有名だったんだよ、あなたは」
「それに、魔物討伐でも功績をあげていた。さらに、魔道具の研究機関にも在籍していたことがあるだろう?」
兄である王太子は誰からも褒められ、僕は落ちこぼれで、何をしても貶される。
それが僕の認識だった。
そのうえ、僕の功績である魔物討伐も後から横取りされ、王太子のしたこととして発表されたはずだ。
だけど、目の前にいる人は違うと言ってくれた。
兄である王太子は無能だとも。
「意外かな?だが、周囲はよく見ているのだよ。あなたが考えている以上に」
「だが、国王が愚かだったな。あなたを冷遇するので、周囲も本当のことを言えなかった」
「だが、そのような愚か者はもういない。これからは気持ちを切り替えて、国民の生活の立て直しに協力してもらいたい」
「今現在、深刻な問題としては、瘴気による魔物の被害だな。できれば早急に、魔物討伐にも参加してもらいたい」
パールティアは、まっすぐに僕を見てくる。
堂々とした姿勢で、銀色の瞳が僕を射抜く。
生まれながらの為政者として、ついていきたいと思わせる雰囲気をまとっていた。
「承知しました。非才の身ではありますが、協力は惜しみません。さっそく準備をして、魔物討伐に向かいましょう」
僕の返答に、パールティアは満足した表情を返した。
パールティアからは、魔道具の管理と、魔道具を作成できる人材の育成を任された。
さらに、余裕のある時でいいので、瘴気から湧いてくる魔物の討伐も任された。
加えて、魔法の素質のある者を探し、その者に指導をすることもお願いされた。
もともとは、魔道具の研究の実績があったので、魔道具だけを任せるつもりだったらしい。
だが、側にいたアネモネを見て、魔法の指導も任せる気になったようだ。
僕は、魔力がなく魔法を使えないと申し出た。
しかし、パールティアはゆっくり首を振った。
「それは関係ない。あなたは魔法が使えなくとも、魔法を使う際に必要なコツというものを知っている。そういう者こそ、指導者に相応しいのだ」
「しかし、あなたがどうしても不安を覚えるなら、魔力制御を中心として指導をお願いしよう。とにかく頼む」
魔力制御の指導なら、まだ自信がある。
僕は結局、引き受けることにした。
さあ、多くのことを任されたぞ。
こんなことは、かつてなかったことだ。
不覚にも僕は、期待されたことが嬉しくて、涙が出そうになった。
アネモネも側で話を聞いていたが、目を輝かせて、
「私もワインレッド様から指導を受けたい!!」
と言ってくれた。
後でマホガニーから話を聞くと、もう一人の代表者であるメイズは遠方へ行っており、当分はパールティアが臨時政府の代表者になるらしい。
どちらも旧王国の王族の血筋であり、パールティアのほうがより正当な後継者だという。
しかし、あの威厳を見た後だったので納得した。
僕はこれから、魔導王国パールのことはきっぱり忘れて、新しい時代の波に乗っていこうと思う。
側にいる、まだ幼いアネモネのためにも。
さらに僕は、気分を一新するため、名前を変えることにした。
以前はワインレッドと名乗っていたが、ワインを取って、レッドだけにした。
少しでも貴族らしさをなくし、平民の人族になじむようにするためだ。
アネモネからは、
「レッド様。呼びやすくてカッコいい!!」
と言われた。
マホガニーからも、
「なら、レッド兄いと呼べばいいな。まあ、中身が変わるわけではないし。何でもよいわ」
と言われ、ガッハッハと笑われた。
中身が変わるわけでもなし、か。
マホガニーはいいことを言う。
外側はいかつくなったが、中身は可愛いままだ。
そして、名前を変えたところで僕は僕だ。
何も変わらない。
その日から、僕は魔道具の研究や、保有している魔道具の管理を始めた。
同時に、魔力のある者を見つけて、その者に魔法の修行をつけることも始めた。
パールティアらが保有している魔道具は、数はそれほど多くない。
また、旧型でもある。
つまり、魔力を持っていないと動かせない魔道具ばかりだ。
だけど、最近の改良された魔道具は、魔力を込めた魔石を組み込むことで、魔力を持たない人族でも扱える。
そういった改良型魔道具は、ほとんど保有していなかった。
まあ、ここにいる人は僕と違って皆、魔力を持っている。
だから、魔道具に頼らなくてもよかったのだろう。
だけど、パールティアらが目指す新しい国には、改良型魔道具が必要になる。
というのも、魔力を多く持っている者を優遇する習慣をなくす必要があるからだ。
魔力を優先にするのではなく、政治力や企画立案、書類の処理能力など、実務能力のある者を優先する。
それを目標に掲げている。
今までの魔導王国パール時代は、貴族や魔力を持っている者が優先された。
これからの時代は、そうさせない。
そのために、魔力を持たない者にも魔法を扱える魔道具が必要となるのだ。




