第2話
マホガニーが用意した馬車で、目的の都市へ向かった。
その途中、いくつかの村を通り過ぎた。
ところが、ある村で気になる場面を目撃した。
一人の娘に、村人たちがよってたかって罵声を浴びせているのだ。
「何をぐずぐずしているんだい!!さっさとおし!!」
「のろまだねぇ。早く魔法で水を出しなよ」
「そのあとは、家中のゴミをひとまとめにする魔法の風を出すんだよ。早くやりな!あとがつかえているんだから」
どうやら、村の女たちは一人の年端もいかない少女に命令をしているようだ。
少女は赤毛を揺らしながら、言われるがままに家事をしていた。
どうやら、水属性や風属性の魔法を操れるらしい。
その村は宿場町で、旅人へ料理や宿を提供することを生業にしている。
僕たちは馬車を止め、そのうちの一つに入り、休憩することにした。
その向かいの宿では、女たちが先ほどの赤毛の少女に、魔法で家事をさせている。
赤毛の少女は怯えた表情で、
「は、はい。ただいま」
と言いながら水を大量に出し、部屋のゴミを一か所にまとめるための風を出して、部屋の中を綺麗にしている。
僕は魔力がなく、魔法が使えなかった。
それでも、赤毛の少女が使っている魔法が、高度に制御された質の高い魔法であることは分かる。
なぜ、あんな高飛車な女たちに、あのような高度な魔法を操れる赤毛の少女が、ぺこぺこしながら魔法を使わされなければいけないんだ。
僕は自分が魔法を使えない分、魔法を上手に使える人には、ある種のリスペクトを持っている。
それゆえに、目の前の赤毛の少女があのような扱いを受けるのは、とても耐えがたく感じた。
マホガニーが言った。
「ワインレッド兄い。あの娘を助けるのか?」
マホガニーも、当然気づいていたみたいだ。
しかし、僕ほど感情的にはなっていない。
それに、あの赤毛の少女は人族のようだ。
人族でありながら、あそこまで見事に魔法を操れることに、僕はさらに興味を持った。
「うん。あの子が気になるんだ。僕はあの娘を連れて行くことにするよ」
そう言って、僕は向かいの店に向かった。
赤毛の少女の名は、アネモネという名前だった。
天涯孤独の身の上で、宿屋に拾われたらしい。
魔法を扱えることから重宝がられていたが、次第に冷遇され、こき使われるようになったのだという。
赤毛の少女アネモネから話を聞いた僕は、なんとなく彼女の気持ちが分かるような気がした。
少し優しくされると、それが嬉しくて、自分の身体を顧みず、村のために魔力を使ってしまったのだろう。
周囲から認めてほしくて。
僕も、親からも兄弟からも使用人からも、誰からも蔑まれて生きてきた。
周囲から認めてほしい。
そんな気持ちで生きていた。
ただ、僕には認めさせる力がなかった。
彼女、アネモネには魔法があった。
しかし、自分を大事にしないといけない。
周囲は決して、アネモネを大事にはしなかった。
便利な道具扱いだ。
だから僕は、彼女を引き取ることにした。
宿屋の女に話をして、少しばかりのお金を見せると、すぐに承諾してくれた。
結局、女たちにとってアネモネはそれだけの、取るに足りない存在だったのだ。
僕は、赤毛の少女アネモネに言った。
「僕と一緒に来ないか?少なくとも今までの者と違って、君を大事にすると約束する」
アネモネは泣いて、首を縦に振った。
僕たちはアネモネを馬車に乗せ、旅を進めた。
マホガニーが目指していた都市は、魔導王国パールの旧首都。
大災害で多くの人が死に、建物も破壊されてしまったが、やはり多くの種族が旧首都に集まったのだ。
マホガニーから聞いたところによると、メイズという魔族を中心として臨時政府のようなものが設置され、多くの種族がその指示のもとで働いているらしい。
僕にも、そこへ入って復興に協力してほしいとのことだ。
そこへ行けば仕事は大変だろうけど、寝る場所や食事は保証されるらしい。
それなら、まだ幼いアネモネを育てながら生活していけるだろう。
僕は、連れて行かれた先で仕事をしながら、アネモネを育てる算段を考えつつ、馬車に揺られていった。
馬車の旅は、目的地に近づいていく。
あと一日ほどで、目的地へ着くらしい。
馬車の中では、アネモネに魔力制御の正しい方法を教え、より正確に魔法を扱えるように修行をさせていた。
魔法を使えはしなかったが、正しい魔力制御の修行の仕方は知っていた。
それが幸いした。
「指先に魔力が集まるというイメージをしてごらん。魔法は集中力とイメージが大切だからね」
「んん、難しいです・・・・」
難しいと言いながらも、アネモネは飲み込みが早い。
やはり、この娘は一種の天才だろう。
なんせ、何の指導も受けていなくても、水属性や風属性の魔法をあそこまで繊細に扱っていたのだから。
そのうえ、この旅の間につけた修行のおかげで、さらに繊細なコントロールを身につけた。
きっと向こうへ行っても重宝され、手伝えることはあるだろう。
人々の役に立って感謝をされれば、きっとアネモネも自分に自信が持てるようになる。
そして、早く自立できるようになるかもしれない。
僕は、魔力制御の練習をしているアネモネに目を向けた。
すると、アネモネも僕の視線に気づき、笑顔を返してくれる。
「アネモネは、きっと向こうでもみんなの喜ぶことをするから、みんなから感謝されるよ」
僕がそう言うと、アネモネは、
「えへへ、そうかな」
と照れながら笑った。
けれど、少し寂しそうな表情で言う。
「みなさんが親切にしてくださるか不安です。それに、私はワインレッド様がいれば、それだけで充分です・・・・」




