第3部 魔導技術共和国パールと魔導人形 第1話
僕は現在、中央平原三強の一角にあたるシルバー王国に滞在し、国が管理しているアカデミー高等部に所属している。
アカデミー高等部では学問を修め、将来はシルバー王国の文官か何かになれたらいいなと思っている。
そんな僕は今、モゴロド教授の歴史研究の講座を選択し、教授の発掘調査についてきていた。
モゴロド教授は、歴史研究の中でも、特に古代の王国の調査や発掘を専門にしている。
特に、遺跡が埋もれている町で発掘調査をするのが好きなようで、今も神聖ゴールド聖教国内にあるピカクシダの町までやってきて、発掘調査をしていた。
今、対象にしているのは、千年以上前に栄えていたという、パールという名前の国である。
どうやら、パールという名前を持つ国は、歴史上、二つ、いや三つ存在していたらしい。
そのうちの二つが、魔導王国パールと、魔導技術共和国パールという名前の国である。
ひょんなことから、記憶を呼び覚ます魔法をかけられた僕は、夢の中で過去の記憶を見る羽目になってしまった。
どうやら僕は、前世で魔導王国パールという時代に生まれていたみたいだ。
ずっと、魔導王国パールの時代のワインレッドという人物が体験した内容を、夢を通して見ていた。
いわゆる過去世というやつらしい。
夢の中の僕は、ワインレッドという名前で生きていた。
国王の子供として生まれたが、冷遇されて生きてきた。
そんな生活に嫌気が差した僕、ワインレッドは城を飛び出し、市井の中に入って、魔道具の研究をしていた。
だけど、権力争いに巻き込まれ、命を狙われる事態になってしまい、なんとか龍族の隠れ里へ逃げた。
その頃、王国はなにやら怪しい方法で大量の魔力を得ており、その大量の魔力を用いて周辺諸国を併合し、巨大な王国を築くことに成功した。
しかし、巨大になりすぎた王国は、封印の解けた邪神に滅ぼされることとなる。
結局、僕の知らないところで国王は死に、魔導王国パールは滅亡した。
ここで夢は途切れた。
だけど、夢の中の僕、ワインレッドがこのあとどうなったのか。
魔導王国パールが滅びた後の時代はどうなったのか。
続きが気になって仕方がない。
僕は、無茶を承知でエクレアにお願いしてみた。
「エクレア、頼みがあるんだけど。僕の見た夢の続きを知ることはできないだろうか?」
エクレアに無茶なお願いをしている自覚はある。
だけど、僕のメイドであるエクレアは無茶苦茶優秀で、僕のお願いを叶えられなかったことはない。
だから今回のお願い、夢の続きを見ることも叶えてくれるかもしれない。
そう、一縷の望みを持って、エクレアにお願いをしてみた。
すると。
エクレアはそんな僕を見て、にっこりと微笑んだ。
「承知いたしました。親愛なるご主人様」
「ご主人様もお気づきだと思いますが、記憶を呼び覚ます魔法に、ご主人様はかかっておりました」
「その魔法にかかった結果、ご主人様は、魂が覚えている過去世の記憶を見ていたのでございます」
「そして、その続きをお知りになりたいとお望みであれば、今からわたくしめがもう一度同じ魔法をおかけし、ご主人様が望むところまで知ることができるようにいたします」
そう言ったエクレアは、口元で聞こえないぐらい小さな声で詠唱を始めた。
その指先が光り、エクレアは静かに僕のおでこに触れる。
その途端、急に眠気が襲ってきた。
僕はそのまま、意識を失ってしまった。
ああ、これで夢の続きが見られる。
僕は確信を持って、夢の世界へ入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「創造神がつくりし七つの邪悪な災厄」である邪神と邪悪龍が討伐されてから、数年が経った。
僕、ワインレッドは、話をすべてマホガニーから聞いた。
魔導王国パールが、邪神から魔力を吸い上げたこと。
その吸い上げた莫大な魔力を利用して、周辺諸国を併合したこと。
吸い上げすぎた結果、封印の解けた邪神が地中から現れ、魔導王国パールが滅んだこと。
封印の解けた邪神を討伐するため、王国の各地から優秀な実力者が集まったこと。
その一人が、マホガニーだったこと。
マホガニーは、龍族の代表として討伐に参加したこと。
そして邪神は倒せなかったが、もう一匹の邪悪龍という化け物は倒したこと。
これらの話を、マホガニーは嬉しそうに僕に話してくれたのだ。
当時、僕は龍族の隠れ里に住んでいた。
僕が名付け親になり、世話をしていた龍族のマホガニーは、ある程度成長すると、
「俺より強いやつ会いに行く!!」
と言って、隠れ里を飛び出したのだ。
かわいい子には旅をさせろ?的な感じで、僕はマホガニーを見送った。
元気で脳筋らしくて良き良き。
そして、それから数年が経ち、マホガニーが元気な姿で隠れ里に帰ってきた。
そこで、先ほどの話を聞かされたのだ。
おそらく僕は、無表情で聞いていただろう。
とっくに心の中では、見切りをつけているのだから。
「それで、ワインレッド兄いはどうする?」
マホガニーは、なんでもないような声で僕に質問してきた。
ちなみに、マホガニーからはワインレッド兄いと呼ばれている。
「どうする?とは、どういうこと?まさか、魔導王国パールの後始末のことを聞いているのかい?」
「それもあるが。ワインレッド兄いは優しい心根じゃ。きっと、被害を受けた人族たちを心配すると思ってなあ」
そうだ。
王族たちや魔族は生命力が強いから、なんとか生きていけるだろう。
しかし、人族は違う。
魔力も乏しく、肉体的な強さはさらに低い。
食料がなくなれば、あっという間に死んでしまうだろう。
「・・・・そうだな。そう。マホガニーの言う通りだ。人族が心配だ」
「であろう。それで提案なんじゃが、よければ、それがしと一緒に来てもらえぬだろうか。きっとワインレッド兄いが納得できる形で、人族の支援ができると思う」
そう。
どうやらマホガニーが龍族の隠れ里に戻り、僕に話をしたのは、僕を連れて行くのが目的だったようだ。
少し迷ったが、僕はマホガニーについていくことにした。
マホガニーの言う通り、僕は魔導王国パールに住んでいた人族のことが気になっている。
国民として生きていた人族たちは、今頃どうしているだろう?
むしろ、どれくらい生き残ることができたのだろう。
寝るところはあるのか。
ひもじい思いをしていないか。
考えだすと、どんどん不安になってきた。
早速僕は、マホガニーに連れられて、龍族の隠れ里を出ることにしたのだ。




