第15話
魔力を吸い取り続けた結果、地中深く封印されていた邪神と邪悪龍が、腹を空かせて目覚めてしまった。
この異変に気づき、大規模で強力な防御結界魔法をかけたのは、かつての王国の正統な血筋を引く魔族の女、パールティアであった。
パールティアは、メイズと同じく旧王国の王族である。
メイズが魔導王国パールの王族らへの御意見番として動いていたのに対して、パールティアはじっと息を潜めて生きてきた。
事情はあれど、一度、王家の地位を返上した彼女なりの気遣いであった。
しかし現在の王族の失策により、国民が被害を受けることになった。
メイズから助けを求められ、パールティアは表舞台に出てきたのだ。
パールティアは、現在生きている魔族の中でも最高と謳われるほどの、超魔力の持ち主である。
そんなパールティアの放つ防御結界魔法は、封印が解けた邪神と邪悪龍をある程度抑え込むことができた。
とはいっても、完全に抑えることはできない。
防御結界魔法で結界を張っていても暴れ回るので、少しずつ被害は広がっている。
これ以上、被害を広げないために、メイズは選り抜きの実力者を集め、討伐隊を編成することに決めた。
まず、自分であるメイズ。
メイズは王族としての誇りのもと、真っ先に立ち向かうつもりである。
魔族であり、前王国、魔族国家パール王国時代の王族であり、魔力に自信があるということも理由の一つだった。
次に、龍族の若き武人であるマホガニー。
マホガニーという龍族の若者は最近、冒険者として名前が知られるようになり、メイズはこの存在に目をつけていた。
そして、パールティア。
彼女は、かつての王国の正当な後継者であり、その身に宿す超魔力はメイズをも上回る。
現在もその防御結界魔法は、邪神と邪悪龍の動きをある程度抑え込むことができており、討伐には欠かせない戦力と言っていい。
通常なら、王女として立ってもおかしくないほどの血筋を、パールティアは持つ。
そんな彼女を危険な討伐隊に加えることはありえないのだが、事情が事情なのでやむなしだ。
他には、別の魔族の国の戦士であったフラグラントにアリザリン。
エルフ族からは、若き戦士ミモザ。
これらの戦士が、メイズの呼びかけにより、邪神と邪悪龍の討伐のために集まった。
魔導王国パールは周辺諸国を併合し、いまや多種族国家といえるほどまでに大きくなっていた。
併合された国の中には魔族国もあり、人族以外に、エルフ族、ドワーフ族、獣人族が治める国も存在している。
侵略され、併合された恨みはありつつも、その支配は意外にも穏やかであり、魔道具の恩恵もあった。
ゆえに、邪神と邪悪龍の討伐を各種族の危機と捉え、魔導王国パールを救うために選り抜きの戦士が集められたのだ。
ただし、集められた全員が討伐隊に加わるわけではなかった。
戦闘力に優れるのは魔族とエルフ族である。
それ以外の、ドワーフ族や獣人族は、一族の秘宝を武器として差し出すという形で協力した。
メイズが着々と討伐に向けて準備を進めている最中、討伐隊のメンバーの報告を受けたパール国王は顔をしかめた。
メンバーの中に、旧王族で主筋にあたるメイズとパールティアの名前が入っていたからである。
魔導王国パール以前に栄えていた国、魔族国家パール王国の真の後継者とされているパールティアと、王族の一人であるメイズ。
パール国王たちは彼らから見て、臣下の血筋にあたる。
そのため、パール国王から見れば、パールティアは目障りな存在だった。
討伐隊に名を連ねることで、人気が出るやもしれぬと危惧したのである。
自分の失策から国民を危険に晒し、その尻拭いをしてもらっていることは、すっかり忘れてしまっている。
そのような思惑をよそに、メイズによって集められた討伐隊は、邪神と邪悪龍に対して討って出た。
動きの鈍い邪神と邪悪龍を相手に、討伐隊のメンバーは、持てる限りのありったけの魔法を撃ち込む。
だが、容易には倒れない。
防御結界魔法を唱え、抑え込んでいるパールティアにも体力の限界が近づいてくる。
数日後。
苦しい状況の中、討伐隊はなんとか邪悪龍を打ち滅ぼすことができた。
体力と魔力が限界に近く、辛うじて倒すことができた状態だ。
邪悪龍はその身が滅びると同時に、塵となって空に舞ってしまった。
実は、邪悪龍の恐ろしさはその強さではなく、滅びた後に出てくる塵にあった。
その塵は、生きとし生ける者の欲心を増大させる働きを持っている。
この塵により欲心を肥大させ、さらなる悲劇を巻き起こすのであった。
とりあえず、討伐隊はどうにか邪悪龍を討伐することができた。
しかし、邪神を倒せないでいた。
討伐が始まって10日後。
パールティアが、ついに意識を失い倒れてしまった。
延々と防御結界魔法を唱え続け、魔力と体力の両方に限界が来たのだ。
倒れると同時に、結界魔法も解けた。
結界が解けると同時に、邪神は咆哮をあげた。
まるで、これで自由に動けるぞと喜びを感じているかのよう。
そして邪神は、王城に向けて強力な魔法を放った。
ドゴオオオオンン。
大きな爆音とともに、王城の半分が崩壊した。
このときの爆発で、パール国王は死んだ。
「わしは・・・・悪くない・・・・」
これが、国王の最期の言葉だったという。
まだ王太子は助かっていたが、このとき、魔導王国パールは滅んだと言っていい。
王城の半壊を皮切りに、邪神は手当たり次第に目につくものすべてを破壊して回った。
討伐隊には、それを止める余力はもはや残っていなかった。
ここで、頃合いと見たのがアマリリスであった。
陰の魔導士、リリー先生、と所によって名前を変えてきたが、本来の名はアマリリス。
アマリリスは、ワインレッドを冷遇した国王らを破滅させるため、わざと邪神を目覚めさせるような方法を提案した。
そして、その目算通り、魔導王国パールは破滅した。
自分一人では邪神を止められないアマリリスは、静かに手を合わせ、創造神に祈りを捧げた。
「創造神様。どうか、使徒として地上に降りている私の声にお応えくださいませ」
すると、別の世界でご主人様を探していたイオニアが、その声に想念で応えた。
「どうしましたか、アマリリス?もしや、その世界でご主人様が見つかったのですか?」
「いえ、そうではありません。今回お呼びしましたのは、この大災害を助けていただきたくて」
そう言ったアマリリスは、一度言葉を切った。
しばらくして、イオニアが答える。
「邪神の封印が解けていますね。ふ~ん。あなたの仕業ですか。・・・・まあいいでしょう」
そう言うが否や、この世界にイオニアが降臨したのである。




