第14話
龍族のマホガニーが生まれてから50年後。
魔導王国パールは、かつてない繁栄を見せた。
王国の侵略はとどまることを知らず、周辺諸国は、ある国は抵抗を見せ、ある国は降伏した。
この50年ほど、魔導王国パールはこのような侵略を繰り返し、ついにはこの中央平原に並ぶもののないほど巨大な王国に成長したのである。
その陰には、二つの功績があったとされている。
一つは、魔道具。
従来の魔道具を改良し、魔石を用いることで、魔力を持たない人族にも扱えるようになった。
そのため、魔石を用いた兵器は魔力を持たない人族でも扱えるようになり、軍事力が大幅に高まった。
そして二つ目は、その魔石に蓄えるために必要な魔力の供給を可能にした、邪神から吸い上げた膨大な魔力である。
魔導王国パールは、この二つの利点を最大限利用したのである。
そのおかげで、軍事力だけでなく、生活に便利な魔道具も作られ、首都を中心に空前絶後の繁栄を享受することとなった。
また、首都以外の都市でも、魔力を必要としない魔道具があふれ、平民である人族らもその便利さを享受することができた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カッポカッポ。
馬車が首都の大通りを走っていく。
中にいるのは、敗戦国から連れて来られた奴隷だろう。
この風景も、珍しくなくなってきた。
戦争に勝ったり、交渉によって従属国を増やすたびに、送られてくる奴隷の数も増えてきた。
魔力を持たない人族はこの国では身分が低いが、奴隷はさらに低い。
そんな人族たちは馬車に目を向け、また奴隷がやってきたのかと、物珍しい視線や憐憫を含んだ視線を送っていた。
同じく、表通りを走る馬車に目を向けていたのは、リリー先生ことアマリリスであった。
アマリリスは、陰の魔導士という名で国王らに取り入り、邪神から魔力を吸い取る魔道具を完成させ、順調に計画を進めてきたのである。
あれから100年が経つ。
魔力を吸い取り始めてからも数十年が経つが、そろそろ邪神が目を覚まし始める頃だろう。
眠りの波動が浅くなってきているのだ。
アマリリスは、その波動を確実に感じていた。
「あと、もうちょっとかしら・・・・」
低く呟いて、その場を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「父上、また地震ですな。最近多いですね」
王太子は、地方から送られてくる報告書に目を通して、執務を手伝っている。
同様に、国王も少なくない量の報告書を目にしている。
「ふむ。そちらの方面も地震が多いか。こちらもじゃ」
いつも、国王と王太子の二人で執務を行い、報告書に目を通す。
方面ごとに報告書が送られてくるが、最近、どこの方面からも地震の被害を訴える声が多くなってきた。
幸い、備蓄もあり、復旧作業も人手が足りている。
王族への信頼は高まっているのだが、ここ最近の地震の数は、異常とも言えるほどに多い。
「地震自体は対処できているので問題ありませんが、こうも多いと何か原因があるのかと考えてしまいますね」
「例えば、創造神様を怒らせているとか?」
王太子は、ちらと国王の方を見る。
実は国王は最近、聖教会にも横槍を入れている。
創造神様を祀り、龍族の長が教皇を務めている聖教会に、今までそのようなことをした者は誰もいなかった。
しかし、魔導王国パールを中央平原一の国にした自信であろうか。
国王は、ついに聖教会にまで手を出したのである。
王太子も、さすがにそれはまずいのではないかと思っている。
それを聞いた国王は、ふんと鼻で笑った。
「それがどうした。神など恐るに足らん!いや、わしこそがこの国の神よ」
国王がそううそぶいた。
この執務室には信用できる者しかいないので、このような暴言も許されると思ったのだろう。
しかし、この言葉は許されない発言だった。
取り返しのつかない発言を、国王はしてしまった。
ゆえに、この言葉から始まったのだ。
地上の者が神を名乗り、我と慢心が頂点に達すると、創造神の裁きが行われる。
まず、大地震が首都を襲った。
その後、地震の二次災害である大火事が首都を襲い、多くの民が焼け出された。
さらに、その大火事を消さんばかりに大津波がやってきた。
天変地異は、それだけでは収まらなかった。
長年、魔力を吸い取られてきた邪神が目覚め、地中から出ようとしたのである。
ここ最近、多く起きていた地震はこのためであった。
ついに、「創造神がつくりし七つの邪悪な災厄」の一つである邪神の封印が解け、邪神が地上に出てきた。
しかも、邪神だけでなく、邪悪龍と呼ばれるものまで出てきてしまった。
大災害が続く中ではあるが、パール国王は直ちに邪神と邪悪龍の討伐を命じた。
魔導王国パールが誇る最新の武器を持ったパール王国軍が、討伐にかかる。
しかし。
結果は惨敗であった。
周辺諸国を圧倒し、魔導王国パールを中央平原随一の強国に押し上げた最新の魔石装着型魔道具兵器が、邪神たちにはまったく役に立たなかった。
パール国王とその王太子は、その報告を聞いて、しばし茫然としていた。
そこへ、魔族のメイズがやってきた。
この異変が起きたのは、かねてから忠告していた、邪神から魔力を吸い取り創造神様を怒らせてしまったことにあると感じていたからである。
ドシドシという怒りを含んだ足音とともに、メイズは執務室の扉を開けた。
「ここに居ったかぁ!!このバカ者どもがぁ!!ここまでにしてしまった事態、一体どう責任を取るつもりなのだぁ!!」
メイズの怒号が、執務室全体に響き渡る。
メイズは怒っていた。
明らかにこの失態は、パール国王が強引に取ってきた政策にある。
パール国王は、自信の拠り所であった魔道具の兵器が邪神に通用しなかったことで心がくじけそうになり、さらにメイズからの叱責で完全に心が折れてしまった。
「わしは・・・・わしは・・・・、こんなはずでは・・・・、こんなはずではなかった・・・・」
虚ろな目でつぶやくパール国王と、いまだ何の動きも見せない王太子に苛立ちながら、メイズは二人をにらみつける。
「こうとなってしまってはぁ、もはや王国と国民をそなたらに任せるわけにはいかぬぅ」
そう言い捨てて、メイズは執務室を出ていった。




