第12話
王城内を、ガシガシと足音高く歩く人物がいた。
立派な体躯をしており、その身に秘める魔力も底知れない。
威厳を保ちつつも美麗な顔立ちをしており、王城にいる侍女や女騎士から熱い視線を集めている。
この人物は、魔導王国パールの前に栄えていた国、魔族国家パール王国の王族の生き残りである。
名を、メイズという。
諸々の事情で王族としての地位を返上し、現在の国王らにその地位を譲り渡したという経緯がある。
だが、それは事情があっての話だ。
パール国王から見れば、メイズは主筋にあたる人物であり、無下に扱うことはできない。
そのメイズが、謁見の間に入ってきた。
「パール国王陛下ぁ!!」
「聞きましたぞぉ!!畏れ多くも創造神様が造られたという邪神からぁ、魔力を吸い上げるという計画を立てているとかぁ!!」
「それはぁ、真の話かぁ?!!」
パール国王は、ギロリとにらむメイズの視線を、真っ直ぐに見ることができなかった。
「う、うむ。本当のことである」
ぼそぼそと返事をする。
先ほどの事情で、かつての主筋にあたるメイズには、国王といえど強く返せないのだ。
よってメイズは、現在の王族に対する御意見番のような存在になっている。
そして、その御意見番であるメイズは、目を怒らせてパール国王に物申した。
「本当なのですなぁ?!よもやと思いましたが、なんと畏れ多いことをぉ」
「よりにもよって邪神から吸い取った魔力を使うとはぁ、おぞましいと思いませぬかぁ!?」
「そのような行為はぁ、創造神様に対する冒涜と思われませぬかぁ!?」
その後、しばらくメイズの怒りは収まらなかった。
一時間ほどして、ようやくパール国王は、がなりたてるメイズをなだめ、帰らせることができた。
「ふん!いつまでも主筋だからと威張りくさって。今に見ておれよ」
パール国王は、帰っていくメイズの後ろ姿を見ながら、呪いの言葉を吐くのであった。
メイズが帰ったことを確認したのだろうか。
王太子が謁見の間に入ってきた。
「やっと帰りましたな。あのうるさいメイズ殿は」
「早く魔力を蓄えて、あの者たちに目にもの見せてやりたいですな」
王太子も、苦々しい表情をする。
パール国王は言った。
「王太子よ。わしは邪神の魔力を得て神になる。今、決めたぞ。わしを馬鹿にする奴らを決して許さん!!」
「そして、かつての王族、“ノクティス”家を超える存在になってみせるわ」
「ぐわっはっはっは!!」
ノクティス。
それは、魔族の正当な後継者たる王家の持つ名前。
かつて栄えていた、魔族国家パール王国の王家の名である。
メイズはその遠縁にあたり、今のパール国王はメイズらの家臣の血筋にあたる。
しかし、パール国王は、邪神の魔力を得ることでそれらの関係を覆そうと考えたのだ。
パール国王のその目は狂気に満ちていた。
だが、それを見る王太子の目は、さらに狂気に満ちていた。
時が経ち、パール国王と王太子は、周辺の勢力を支配下に置くための計画を練っていた。
もちろん、邪神から大量の魔力が得られる前提での話である。
周辺には、獣人族の国があれば、別の魔族が治める国もある。
また、ドワーフ族が治める国もあれば、アイリス王国という人族の国もある。
それらを従属させ、支配下に置き、それぞれの種族が持つ特性を取り入れ、魔導王国パールをさらに発展させる考えなのだ。
特に獣人族やドワーフ族は、膨大な魔力と圧倒的な力の差を見せつければ、戦わずに降伏するであろうと考えている。
別の魔族が治める国に対しても、すぐに武力で訴えるのではない。
外交交渉を行い、力の差を見せつけながら、ゆっくりと取り込んでいくつもりだ。
それもこれも、邪神から得られる莫大な魔力があってのこと。
人族の国は、攻めるほどの価値もない。
だが、要求すれば軍資金や食糧、魔石をいくらでも貢いでくるだろう。
いまさら、メイズに言われて取り止めるなどということは考えられないのである。
陰の魔導士からの報告でも、計画は順調であり、地中に穴を掘り、邪神が封印されている地点近くに魔力を吸い取る工場を作ると連絡が来ている。
得られた魔力は、すぐさま王城へ送り込む手筈だ。
計画が順調であることに、パール国王は思わずにやりと笑みを浮かべていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その頃、ワインレッドは龍族の里にかくまわれていた。
ワインレッドは、魔道具の研究を進めていた。
もちろん、魔力を持たない平民でも扱えるようにするための研究である。
実は、一緒に暮らしていた親友のテェシとは別れている。
ある事件をきっかけに親友のテェシと別れ、魔導王国パールの首都を逃れることになってしまったのだ。
そして、行き着いた先が龍族の住まう隠れ里だった。
かくまうきっかけをくれたのは、目の前にいる龍族の男。
名をヌバックといい、古くから魔導王国パールを陰で支えてきた龍族の一人である。
もちろん、ワインレッドが王族であることも知っているし、双子の弟として冷遇されてきたことも知っている。
事情を知って不憫に感じてくれていたので、その事件をきっかけに龍族の里へ来ることを
誘ってくれたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ワインレッド殿、ご気分はいかがかな?」
穏やかな眼差しで、ヌバックは僕に声をかけてくれる。
「実は、あの事件の当事者だったあなたの親友とその妹の、その後が分かりましたのでな。聞きたいのであれば、お伝えしようと思い、やって来ました」
僕はピクッとした。
あの事件。
本当は思い出したくもないほど、僕の心は傷ついたと言っていい。
だけど、あの後、親友のテェシがどうなったのか知りたいという気持ちも強くある。
僕はすぐに返事ができず、うつむいたまま黙っていた。
そんな僕を見ながら、龍族のヌバックはゆっくりと口を開いた。
「たしか、ワインレッド殿の親友はテェシ、という名前でしたな?」
「そして、妹の名はロゼ」
僕は黙って聞いていた。
「あなたを刺したのはたしか、ロゼ、でしたね」
そう。
僕は、親友の妹ロゼに後ろから刺された。
明確な殺意と共に。
僕は重体になりながらもなんとか逃げ出し、ずっと僕を見守っていたという龍族のヌバックの手引きで、隠れ里に来たのだった。




