第11話
ワインレッドである僕は現在、リリー先生ことアマリリスと二人でいる。
僕はアマリリスの要望で、彼女の手にある水晶に触れようとしていた。
アマリリスことリリー先生は、僕の方を見ながら言う。
「わたしと、わたしの仲間、いえ、尊敬する方と言っていいのかしらね?その方たちが、ずっと探している人がいるの」
「とても大事で、大切な人。ぱっと見では見つけられないの。だけど――」
「この水晶。これに触ったら反応するの。この水晶は、魂に反応するようになっている魔道具なのよ」
「初めて会った時から、あなたがそうじゃないかという気がしていた。だから、この水晶に触れて反応が出るか、確かめたくて呼んだのよ」
あいかわらず、リリー先生の声は鈴の音が鳴るような声だ。
いや、声だけじゃなく容姿もとても美しい。
いや、美しいという言葉では収まらないだろう。
髪も神秘的で、そう、まるで月の光を形にしたような、白く光るブロンドというのだろうか。
こんな綺麗な人、初めて見た。
王城にだっていなかった。
婚約者?
話にならんよ。
そんな人物が目の前にいて、僕を上目遣いに見てくるのだ。
僕は、どきどきする気持ちを抑えながら言った。
「分かりました。とりあえず、目の前の水晶に触ればいいのですね」
そう言って、おずおずと水晶に触った。
何も感じない。
目の前にいるリリー先生は、それを見て落胆している。
ああ、やっぱり僕は落ちこぼれなんだな。
また、期待に応えられなかったんだ。
「やはり・・・・」
「そうよね。反応しないわよね。だって今まで、何度もそれとなく触れさせてきたもの・・・・」
「でも、それでもどうしても、あなたが私たちの探している人のように思えて仕方がないの」
僕はその言葉を聞いて、身が裂かれるほど辛く感じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方、その頃。
王城では、双子の弟の王子を追放した後も、問題なく平和な時間が流れていた。
そんな中、国王と兄である王太子は、魔導王国パールにさらなる繁栄が約束されるような方法を模索していた。
「魔道具の研究も頭打ちでしょう。これ以上予算を費やしても仕方がなさそうなので、打ち切りにいたします。父上」
「では、どうするのだ。我が王国のさらなる繁栄の道を切り開く、何か良い手立てはあるのか」
国王は、難しそうな表情で王太子に目を向ける。
「正直、私にも良い考えは浮かびません。ですが――」
「我らになければ、国民から募集するというのはいかがでしょう?」
「つまり、王国をさらに栄えさせるアイディアを、国民に広く募集するのです」
王太子の提案により、この日以降、広く王国民にお触れが出された。
このお触れに応じ、幾人かの賢者と名乗る者や、魔道師が城を訪れ、国王らと謁見した。
しかし結果は芳しくなく、提案されたアイディアはことごとく却下された。
「やはり、愚かな国民には無理であったか」
自分に絶対の自信を持っていた王太子は、馬鹿にした言い方で吐き捨てる。
今日もこの後、一人謁見の予定が入っているが、どうせろくなアイディアではないだろうと期待していなかった。
夕方ごろ、少し時間に遅れて、謁見の間に陰の魔導士と名乗る人物が現れた。
深く黒いローブをまとい、声も、男か女か判別がつかない。
しかし、その身にまとう魔力は大きく、ただ者でないことは分かる。
「遅れたることを心よりお詫びする。歳を取ると体が言うことを聞かんでな。許されよ。国王陛下におかれましては、お目通り叶い光栄に存ずる」
慇懃無礼な物言いであった。
だが、このちっぽけなローブをまとう人物からは、謁見の間全体を覆うかのような魔力の波動を感じる。
王太子は多少の苛立ちを感じながらも、得体の知れない魔力に警戒しつつ問うた。
「して、ご老人はどのような策、または計画をお持ちなのか。準備に手間取ったのだ。存分に期待していいのだろうな?」
遅刻してきたことに皮肉を言ったつもりだった。
だが、その後に陰の魔導士が口にした内容は、驚天動地の方法であった。
本当にそんなことが可能か疑問に思いながらも、その魅力に次第に取り込まれていったのである。
陰の魔導士が教えた内容は、伝承に残る「創造神がつくりし七つの邪悪な災厄」の一つである邪神を利用することだった。
邪神は、ある場所の中心に地中深く眠っている。
その場所を突き止め、眠っている邪神から強大な魔力を吸い取り、王国の繁栄に活用するというものだった。
そのために必要な魔道具の製作も、陰の魔導士が引き受けるという。
パール国王はその話を聞き、即決した。
そして陰の魔導士に、その計画を速やかに進めるよう命じて下がらせたのだ。
「父上!父上はあの者の言葉を信じるのですか?!」
「あのような得体の知れない者。邪神?はっ。調子のいいことばかりを述べて、本当かどうかも分からない!!」
顔を歪めて怒っている王太子を横目に、パール国王はにやけそうな表情を無理やり引き締めている。
「まあ、そう言うな。仮に嘘であれば罰すればよい。だが、もし本当であったらどうする?この中央平原全土を征服することも夢ではないぞ」
「邪神から得られる莫大な魔力。これがあればやりたい放題ぞ。お前も良い思いをしたいであろう?ん?」
「ま、まあ、そうなんですが」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王城内に部屋を与えられた陰の魔導士。
部屋に通されてから、誰もいないことを確認して、静かにローブを取る。
そこから現れたのは、リリー先生。
またの名を、アマリリスと言った。
陰の魔導士と名乗り、パール国王らに邪神の存在を教え、その魔力を吸い取らせることを提案したのはアマリリス。
なぜ、そんなことをしたのか?
アマリリスは怒っていた。
パール国王と王太子に。
子供であり、双子の弟であるワインレッドを大事にしないことに。
そこで、わざと邪神を持ち出したのだ。
もちろん、すべて本当のことである。
邪神が地中深くに封印されていることも。
眠っている間に、その魔力を吸い取ることも。
その魔力は膨大であり、国王らからすれば、どんな宝石や魔石よりも貴重で、喉から手が出るほど手に入れたいだろうということも。
すべて見透かした上で、提案したのである。
しかし、邪神は創造神が創った破壊の象徴なのである。
その魔力には破壊の波動が乗っており、必ず破滅するようになっているのだ。
そう。
アマリリスは、ワインレッドを大切にしないパール国王らを破滅させるために、わざとこの話を持ちかけたのだ。
陰の魔導士ことアマリリスはさっそく、魔力を吸い取る魔道具の作成に取りかかった。
王城の一室で、魔道具を作るアマリリス。
こうして月日は経っていった。




