第10話
「この世に生きる者はすべて創造神が創られたのであり、神の子である、か」
僕はいま、王族が受ける講義の一つである、聖教会の教えを聞いているところだった。
つい、独り言をこぼしてしまう。
講師を務める聖教会から派遣されてきた司教が、滔々とした口調で創造神様を褒め称える。
僕は思った。
なら、なぜ創造神様は僕たち王族をお創りになられたのだろう。
なぜ、僕のような欠陥品を創ったのだろう。
こんな僕でも、神の子として認めてもらえるのだろうか。
僕は選ばれない側だ。
王族として生まれても、選ばれなかったのだ。
兄に代わって手柄を立てても喜ばれなかったし、その手柄も横取りされた。
だから僕は、もう王族としての自分は諦め、自分だけの道を見つけて生きていこうと決意したのだ。
魔物討伐を指揮し、その手柄を兄である王太子に横取りされたあの時から二年が経った。
現在、僕は魔道具の研究に携わっている。
魔道具は、魔力のない僕でも研究が可能だ。
王城にいた魔導士から基礎的な部分の指導を受け、一人で研究を進めている。
以前は、王国の正規の研究機関に所属していた。
王国の魔道具研究機関へ入ろうとしたとき、最初は断られた。
理由は、魔力がないから。
ここでも僕は、魔力がないせいで、行きたい道へ行けなかった。
「本当に落ちこぼれだな・・・・」
思わず、自嘲する言葉がこぼれてしまった。
魔力はない。
だけど、その分、魔法の知識と魔力制御には自信があったのに。
それでも、だめだと断られたんだ。
研究機関の長官からは、
「残念ですが、魔力と魔力制御の双方ともにトップレベルでないと、この研究機関に入ることはできません」
と、残念そうに言われた。
だけど、どうしても諦めきれなかった僕は、必死でお願いした。
「どうかお願いだ。邪魔にならないよう雑用でもいい。魔道具に関しての研究をしたいんだ」
形の上では王族である僕の必死の頼みに、研究機関の長官は断りきれなかったのだろう。
渋々、僕の研究機関入りを認めてくれた。
さすがに王子である僕を雑用に使うことはなかったが、魔道具研究のあまり重要ではない部分を任されるようになった。
魔力を持たない僕でも進められる分野を用意してくれたので、僕は自慢の魔力制御を存分に発揮して研究を進めることができた。
当時の魔道具は、ほとんどが王族や貴族のための物だった。
明かりを灯す照明魔道具。
湯を沸かす給湯魔道具。
水をくみ上げる揚水魔道具。
王城では、それらを当たり前のように使っていた。
どれも便利な品ではある。
だが、魔力を持つ者しか扱えない。
「平民にも使えるようになれば、もっと暮らしは良くなるのに」
そう呟いたことを覚えている。
研究員たちは笑っていた。
「それができれば苦労はしませんよ」
「魔力がない者は魔道具を動かせない。それが常識ですから」
僕は黙って頷いた。
便利な魔道具は、一部の者だけが使うためにあるのではない。
誰もが笑って暮らせるようになるためにある。
その頃の僕は、漠然とそんなことを考えながら研究に励んでいた。
そんな僕の頑張りを見てくれていた周囲の研究員たちは、徐々にだけど、僕を認めていってくれた。
初めて、僕自身の力を認めてもらえた瞬間だったかもしれない。
この期間、僕は幸せだったと思う。
こんな魔力を持たない僕でも、みんなの役に立てて、魔道具研究の一端を担っていたのだから。
だけど、その幸せは長く続かなかった。
突然、僕はこの研究機関から追放されることになったのだ。
「残念ですが、王子。あなた様をこの研究機関に置いておくことはできなくなりました」
またもや、長官から残念そうな表情で告げられた。
おそらく父である国王や兄が、裏から手を回したんだろう。
長官の表情からは、長官の意思ではないことが読み取れたから。
せっかく見つけた居場所を、またもや父や兄に取り上げられた。
悔しさはある。
だけど、その悔しく思う気持ちを抑えながら、僕はけじめとして身体を折り曲げた。
「どうも、お世話になりました」
そう言って、長官に別れの挨拶をした。
ふぅ。
やっぱり、きちんと挨拶をすると気持ちがよい。
感情的になってしまうのは簡単だけど、僕は節目節目の挨拶をすることに決めている。
魔力を持たず、落ちこぼれと決めつけられてきた僕が、自分で決めたルールだ。
こうして僕は、以前のようにどこにも所属せず、お城で無為の日々を過ごす日常に戻ってしまった。
だけど、以前と違うのは魔道具の研究だ。
僕は一人で、魔道具の研究に打ち込むことができた。
これはこれで、有意義な日々だったと言える。
だけど、そんな有意義な時間を送る僕が許せないのか、再び兄は嫌がらせを行ってきた。
僕は、兄から覚えのない罪を着せられたのだ。
その罪の内容もありふれたもので、僕が兄の婚約者にちょっかいをかけたとか、兄の関わっている王族の仕事を邪魔したとか。
少し調べれば、僕がやっていないことが簡単に分かる。
それでも父である国王は、兄の言い分を受け入れ、僕を王族から除籍し、王城から追放したのだ。
僕はその決定を聞いても、何も心は動かなかった。
とっくに心の中では、見限っていたのだろう。
期待しなければ、心が傷つくことはないのだ。
そんな動じない僕の表情を見て、兄である王太子はつまらなそうな表情をする。
「ふん。ようやくお前も父上から見捨てられたな。どうだ、悲しいだろう?」
兄である王太子は、ニヤニヤしながら言ってきた。
そんな兄を一瞥し、僕は無言で城を出てきた。
そして、テェシとロゼの兄妹に出会ったのだ。




