第8話
僕はテェシと別れて、リリー先生と歩いていく。
「どうぞこちらへ」
リリー先生に案内されるままについていくと、リリー先生の家についた。
家の中へ入ったところで、リリー先生は言う。
「実は、あなたにこの水晶に触れてほしくてお呼びしたのですよ」
そう言って、手の上にある少し小ぶりな水晶を差し出してきた。
僕が不思議そうに見ていると、リリー先生は続ける。
「いきなり水晶に触れてほしいと言っても怪しいですので、信用していただくために私の本当の姿をお見せしますね。認識阻害魔法も解除します」
そう言ってリリー先生は、いつも被っているローブを取り、素顔を見せた。
顔を見た瞬間、ワインレッドである僕ではなく、違う僕の意識が叫んだ。
「あっ!!アマリリスじゃないか!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あっ!!アマリリスじゃないか!!」
僕は、白昼夢から目が覚めたようだ。
周囲を見渡すと、モゴロド教授が不審そうな目でこちらを見ている。
そ、そうだ。
僕はたしか、モゴロド教授の指示に従って、一日中ずっと遺跡の発掘をしていたんだっけ?
何だか、夢を見ていたような。
その夢には、メイドのアマリリスが出てきた気がする。
「たしか、魔導王国パール?」
思わず口にしてしまった。
しかし、僕の言葉にモゴロド教授が反応する。
「ん?魔導王国パールがどうした?もっと魔導王国パールのことが知りたいのか。じゃったら、発掘をもっと頑張れ。今、発掘しているのはその国の物についてじゃからな」
そう言って、モゴロド教授は発掘に戻った。
やっぱり僕は夢を見ていたのかな。
でも、手は動いていたようだ。
まるで夢遊病みたいだな。
だけど、不思議な夢だった。
そして時間が経つと、夢の内容はどんどん薄れていく。
今では、はっきりとは思い出せない。
まだ僕の中に残っているのは、魔導王国パールという言葉と、アマリリスによく似た人が出てきたということだけ。
アマリリス。
アマリリスも、僕に仕えるメイドの一人だ。
と言ってもエクレアやシェラのように、親代わりとして一緒に育ててもらったわけではなく、メイドになったのは最近の話なのだ。
以前、エクレアが連れて行ってくれた異空間の中。
そこにはリゾート地のように何でも揃っていたのだけど、アマリリスはそこのお屋敷で働いているメイドたちのメイド長を務めていた。
今も、異空間の中のお屋敷と行ったり来たりしているらしい。
だけど、もしかしたら夢で見た魔導王国パールと、何か関係があるかもしれない。
そう考えた僕は、いても立ってもいられなくなり、宿へ戻ることにした。
「教授、すいません。なんか体調がすぐれないので、今日はもう戻っていいですか?」
「ん、お~。いいぞ。ゆっくり休みな」
僕はモゴロド教授に許可を取り、宿へ戻ることにした。
宿へ戻ると、さっそくエクレアに頼む。
「お願いがあるんだけど、アマリリスと話がしたいんだ。アマリリスをここへ呼べるかい?」
僕は性急な態度で、エクレアに用件を伝えた。
エクレアは、そんな僕の態度にも嫌な顔一つせず受け入れてくれる。
「親愛なるご主人様。承知いたしました。アマリリスを呼んでまいりましょう。その間、何か冷たい飲み物をご用意いたしますね」
急なお願いにも何ら動揺せず、エクレアはシルバー王国の屋敷にいるアマリリスに連絡を取ってくれた。
その間に、別のメイド、ノワールが冷たい飲み物を持ってきてくれた。
ありがたい。
発掘と、それに変な夢を見たせいか、のどがカラカラだったんだ。
「ゴクゴク。ぷはあ」
僕が飲み終えると、ドアがノックされる。
トントン。
「ご主人様。お召しにより参上いたしました。わたしと話がしたいと伺いました。大変光栄でございます」
え?
この声はアマリリス。
あいかわらず仕事が早い。
もうアマリリスを呼んできてくれたようだ。
ドアを開けて入ってきたのは、メイド服に身を包んだ極上の美女、アマリリス。
やはり、夢の中と同じ容姿をしており、声も鈴の音が鳴るような綺麗な特徴のある声をしている。
アマリリスは部屋に入ると、僕に向かって美しいカーテシーを取った。
その後、ふと視線を横へ向ける。
そこには、いつものように静かに控えているクレオメがいた。
アマリリスはクレオメを見て、ほんの一瞬だけ目を細めた。
クレオメもまた、表情を変えずに小さく頭を下げる。
「・・・・知り合いなの?」
僕が聞くと、アマリリスはにっこりと微笑んだ。
「ええ。少し」
その言い方が妙に引っかかったが、アマリリスはそれ以上何も言わなかった。
だけど、アマリリスはどうやってこの短時間にここまで来られたんだろうか?
ここは、神聖ゴールド聖教国の領地で、アマリリスのいる屋敷はシルバー王国内にある。
とても短時間で来られる距離ではないんだけど。
あ、そうか。
転移魔法を使ったのかな?
「さようでございます。ご主人様の希望に応えるべく、転移魔法で転移してまいりました」
ぐは。
まるで、僕の心の中を読んでいるようだ。
「それで、何をお聞きになりたいのでしょうか。それとも、私に夜の相手をせよとのことですか?いえ、そんなはずは。だって周囲にはエクレア様やシェラ様がいらっしゃるし、私のような貧相な者では・・・・」
一人で勝手な妄想をしているアマリリスは、とろんとした眼差しを僕に向けている。
その様子は、夢の中のアマリリスと雰囲気は似ていない。
けれど、それでも偶然とは思えない。
「聞きたいことがあって呼んだ。アマリリス。君、魔導王国パール、という国を聞いたことあるかい?」
アマリリスは、とろんとした眼差しをしつつも、はっきりした口調で答えた。
「はい。ご主人様」
「魔導王国パール。わたしはこの国を知っております。知っていますし、かつてこの国に住んでいたこともございます」
「わたしは少々寿命が長く、通常の人族よりも長生きしています」
「そして、かれこれ千年以上前にあったとされる国で、わたしは魔道具を研究しておりました」
アマリリスは、ゆっくり僕の方に近づきながら話をする。
僕はアマリリスから目が離せない。
「わたしアマリリスは、魔道具作成に少々自信がございます」
「今でこそ魔道具は、魔力のない者でも扱うことができますが、当時はそうではありませんでした」
「当時の魔道具は、使用者の魔力に反応して効果を発揮するものばかりだったのでございます」
「ですが、それだと魔力を持たない者は、魔道具の恩恵にあずかれませんでした」
「当時の国は、今よりもずっと魔道具のレベルが低く、誰もが使えるものではなかったのですね」
「ですので、魔力がなくても使える魔道具を開発したいという考えを持つ者たちと、研究したことがあるのでございます」
アマリリスはにっこりと笑い、僕の目をのぞき込むように見つめてくる。
気づくと、かなりの至近距離にまで接近していた。
そしてアマリリスは僕の手を取り、愛おしそうに触ってきた。
「ああ、ご主人様の手。温かいぃ」
アマリリスはしみじみと言いながら、僕の手を触って満ち足りた表情をする。
そして視線を僕のカバンに向け、発掘から持って帰ってきた、価値がないと言われた腕輪を見る。
「そうそう。たしか、このような腕輪にも付与魔法をかけましたわ」
そう言って、アマリリスはカバンから腕輪を取り出した。
モゴロド教授は価値がないと言って興味を持たなかったが、この腕輪は魔導王国パール時代の魔道具だったのだ。
僕はその腕輪の魔道具を見ると、まるで魔道具が誘っているかのように、意識が遠くなっていった。
「ご主人様!」
アマリリスは、意識を失う僕を抱えた。
どうやら、またあの夢。
あの夢に誘われているみたいだ。
ごめん、アマリリス。
これ以上、話ができそうにないや。
今からまた、ワインレッドになった夢を見る。
それだけは、はっきりと確信できた。




