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第3話


モゴロド教授の歴史研究室は、本が散らばっていて雑然としていた。


だけど、ちらりと本のタイトルを見ると、中央平原に存在する国の歴史書ばかり。


歴史研究室の名は、伊達ではないようだ。


モゴロド教授は、さっそく僕に課題を与えてきた。


過去500年にさかのぼり、存在していた国の歴史の中で、特に著名な事件を調べてレポートにまとめるようにと言われたのだ。


資料はこの研究室のものを使ってもよいし、アカデミー高等部の書庫を使ってもよいとのこと。


僕はそういう調べ物が嫌いじゃないので、さっそく資料を調べ始めた。


研究室に置いてある本は、どれも分厚く、読むのに時間がかかりそうだ。


だけど、それがいい。


僕は寝食を忘れて本を読み込んだ。


僕は夢中になると、食事を忘れてしまうタイプみたいだ。


だけど、従者のエクレアとシェラが、適切なタイミングで携帯食を持ってきてくれたり、仮眠がしやすいよう布団を持ってきてくれたりと、至れり尽くせり世話をしてくれる。


その行為に、ずいぶん助けられたものだ。


一週間後。


僕は出来上がったレポートを、モゴロド教授に渡した。


「ふむ。レポートは受け取った。が、これは後で見るとして、お主から簡単にレポートの中身を説明してもらおうか。もちろん、要点をまとめて短く、じゃぞ」


僕は緊張しながらも、この一週間でまとめたレポートの内容をかいつまんで説明した。


主に、僕が調べたのは次の内容だ。


一つ目は、430年前にクラウド王国で起きた、悲しい双子の王子の事件。


クラウド王国は、シルバー王国傘下の国だ。


愛する人を求めるあまり、王子が闇ギルドと手を組み、禁忌の魔道具を使ったとされる事件である。


二つ目は、390年前に起きた「創造神がつくりし七つの邪悪な災厄」の一つである、暗黒邪虎による大災害。


この大災害によって、ウィスタリア聖教国という国が滅んだのだ。


この国が滅んだ後、黒髪の大聖女と呼ばれる聖女がやってきて人々を守り、その200年後、その地にピオニー商業国が建国されたという。


ピオニー商業国は、プラチナ帝国傘下の国だ。


この二つの資料は、他の書庫には存在せず、この研究室内にしか資料がなかった。


闇ギルドについても、「創造神がつくりし七つの邪悪な災厄」についても、秘匿されているのか、アカデミー高等部の書庫には資料がなかった。


これらの資料は、研究室内でもかなり奥まったところに保管されていた。


それを見つけたとき、僕はとても興奮した。


なので、せっかく見つけた資料を深掘りするため、この二つに絞り、自分の納得のいくまで調べることにしたのだ。


僕の報告を聞いて、モゴロド教授は言った。


「ふうむ。よく調べたな。その事件は他の国では禁忌扱いに近い。ゆえに、資料を見ても分からぬと思って様子を見ておったのじゃが・・・・」


納得する教授を見て、僕は三つ目の報告をした。


三つ目は、商会の歴史についてだ。


いま中央平原中で一番規模の大きい商会は、ラズベリー商会である。


ラズベリー商会は、先ほど話にでたピオニー商業国とも関係が深いらしく、調べたところ、100年以上前に創られた商会だった。


しかも、その創始者とピオニー商業国の建国に関わった人物は、かつて友人同士だったという。


ところが二人は、ある行き違いから別々の道を歩みはじめた。


一方は国を作り、一方は商会を作った。


その後、ピオニー商業国が建国されると、各地の商会による交易はますます活発になった。


商人たちは品物だけでなく、新しい技術や文化も各国へ運ぶ役割を担うようになったらしい。


現代では当たり前となった生活用魔道具の多くも、そうした商人たちの交易によって各国へ広まっていったとされている。


調べているうちに、平民である商人たちもまた歴史を動かしているのだと分かり、僕は少し感心してしまった。


「うむ。商会にも目を向けたか。王や英雄だけが歴史を作るわけではない。王族でも貴族でもない商人たちもまた、歴史を動かしてきたのじゃ」


「古代から今に続く国といえば、アイリス都市連合国もそうじゃな。今でこそプラチナ帝国傘下の国じゃが、あの国はかなり古くから商業が盛んで、多くの商人を動かしてきたそうじゃ」


「どうやらお主は冷やかしではなく、本当に歴史を研究したいようだな」


そう言って、モゴロド教授は僕を温かい目で見つめた。


「ふふ、そうじゃな。このレポートの褒美に、お主にとっておきの秘密を聞かせてやろう」


そう言って、イタズラっ子のようににやりと笑う。


僕はごくりとのどを鳴らした。


「お主は闇ギルドに関心を持っているようだから、闇ギルドの秘密を一つ教えてやろう。闇ギルドは、当初は裏稼業の者に仕事をあっせんするためにできたギルドじゃ」


「裏ギルドとも呼ばれていたことがあったそうじゃ。しかし、この闇ギルドを創設した本当の目的は、仕事のあっせんのためではない」


「なんと、たった一人の女性の居所を探すために創設されたというのじゃ!」


「たぶん、好きだったんだろうな。だけどその女性は何も言わずにその男のもとを去り、とうとう行方をつかむことはできなかったという」


闇ギルド。


僕もそのギルドに所属している者と何度か対峙したことがあるし、身に過ぎた野望を持った幹部が破滅した場面を目撃している。


現代では、ろくな考えを持っていないように思う。


だが、当初はそんな思いで創設されたのだと聞かされ、何とも言えない気持ちになった。


「今から、そうさな。約500年も昔の話じゃ。そこから、今の闇ギルドは活動しているわけだ。もっとも、ある女性の居所を探すという当初の目的は、見失ったようじゃがな」


「その女性の名も、ラベなんとか、としか分からんのじゃ」


「その代わり、強力な魔道具を集めたり、禁忌の魔法を研究したりと、あらゆる非合法な活動をしているそうな」


「ああ、たしか一国丸ごと、国民から魔力を集めるという非道なこともしておったな」


モゴロド教授は、何がおかしいのか、くくくと笑った。


「まあ、わしが今教えられることはここまでじゃ」


そう言って部屋を出ようとしたが、思い出したかのように振り返る。


「ああ、そうそう。お主をわしの研究のための発掘調査に連れて行ってやってもよいが、どうじゃ、来るか?」


発掘調査?!


なにそれ、楽しそう。


「はい、行きます!!連れて行ってください」


「そうか。分かった」


モゴロド教授は、ある研究のため、歴史的な遺跡のある国へ訪れ、発掘をしているらしい。


そこへ僕を連れて行ってくれるみたいだ。


僕はすごく興味があるので、今から楽しみ。


その後、教授から集合の日時を告げられ、僕はその日を心待ちにしながら旅の準備をするのだった。


あ、いや、正確にはエクレアたちが準備してくれるのだけども。


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